その5 メアリアンの休日
ブラック体質のメイドさん。
「どうしようかなぁ…」
左側←揚げパン屋。あたし。右側→焼き肉串。
斜め後ろは花屋のワゴン。花屋の両隣は射的と篭屋なので、今回は考慮に入らない。
実家へのお土産は、一応、ディアナ様達が公爵家の料理長にお願いしてくださったお菓子があるんだけど、ちょっと足りない。みんなよく食べるから。結局、揚げパンと焼き肉串を30本ずつ注文し、家まで届けてくれる用にお願いした。
公爵家のお給料はとても良いので、たまの帰省にお土産を追加で購入しても懐は暖かい。
ありがたや。ありがたや。お給料は尊い。
そんなこんなで、久しぶりの実家です。
公爵邸(正門)から自転車で30分位なので、近いっちゃ近いか。
実家は割と大きめの宿屋兼食事処兼酒場です。んでもって、比較的、老舗に入るようです。親父殿の話を鵜呑みにするならですが。
とりあえず、初代の曾曾祖母さんは親父殿の子供の時も曾曾祖母さんはご健在だったそうだから、本当に半世紀以上はあったんでしょうね。あたしには関係ないけど。
「おー!アンちゃん、お帰りー!」
厨房口に近い自宅ドアのあたりで、でっかい熊さんに声をかけられた。姉の旦那さんで入婿で厨房を仕切っているその名も『クマサンテ』さんだ。意味は『健康な熊』…ぶはっ。
そう言えば、ディアナ様はクマサンテ義兄さんに会ったときに固まってたなと思い出します。
ぽこーんと口開けて。瞬きも忘れてて。大変、かわいい感じだった。
どう見ても迷子なのに、猫と遊ぼうとしてて威嚇されてビビってたディアナ様。あまりにも場違いな服装で放っておくと誰かに目をつけられるのは、当時9歳の自分にも明白で目を離せなかったのよねぇ。その内、元気な腹の音に自分でビビって涙目になってたので、うちに連れ帰ったんだっけ。
で、アナベル姉さんが有り合わせの賄い作ってくれたのを冷まさずに食べようとして、慌てたクマサンテ義兄さんに止められて、固まったんだったか。
「くまさんがおはなししてます…」
て(笑)
その後、色々なご縁で公爵家の下働きに私が奉公に行く事になったんだよねぇ。で、斜めな思考のディアナ様がヒヨコの刷り込みみたいにしょっちゅう私のところに遊びに来るもんだから、じっとさせるためにディアナ様付きのメイドの一人にいつの間にかなってたんだっけ(笑)
あの人事は正直ビックリだったけれど、時々見かける他家のお嬢様方とはかなり毛色が違うけれど、ディアナ様がディアナ様でいてくれてるので私ものびのびとそれなりに仕事が楽しい(笑)
「熊義兄さん」
「ん?」
「後で厨房、借りるよぉ?」
『りょうりにん、なりたいです!みんなにしょくじをつくるのです!』
現ブームは『悪役令嬢』だけど、『料理人』も諦めてないからなぁ、ディアナ様は。
『旅館/酒場経営の本、図書室にありましたよ?アナベルと熊さんに』て渡されたけど、自分でも付箋つけて読み込んでるっぽいし。本当に何を目指しているんだか…(笑)
今回も帰省中に新しい簡単料理を試作して、お屋敷の厨房に掛け合わないとねぇ。
ディアナ様ったら、気が付いたら隅っこで料理実験始めちゃうから、料理長が気の毒だもんねぇ…ご両親公認ではあるけど。
放っとくと、完全に『魔女メシ』(食べられそうだけど食べたくない何か)が高確率でできてるからなぁ…
…さあて、何にしよう?
簡単で美味しくて手間が要らない子供の料理初心者がやれる料理。うーむ。
お菓子より、食事派なのよねぇ…ディアナ様。
屋台のおばちゃん揚げパン、美味しいし、きっと好きだねぇ、ディアナ様。
公爵令嬢に揚げパン。
絵面と設定に無理があるけどさ〜。
…あーでも。
揚げパンは止めよう。
油で火傷したら料理長がクビにはならなくても辞職するわ。
うーん…焼き肉串でいいか。
美味しいし、肉と野菜を交互に刺すとか好きだろうし。
揚げパンよりも料理長達のドキドキ軽減にもなるし。
そうしよう。
タレは、どうしよっかなぁ?




