その2
レイチェル・ド・ユーリでございます。
父は男爵位です。男爵なので、領地と言えるほどのものはありません。つまり、貴族の肩書きがあるほぼ平民です。
4年前からリブゴーシュテノア候爵家の次女、ディアネイライア・マルガレーテ・フアナ・ド・ラ・リブゴーシュテノア様の侍女兼家庭学習補佐をしております。
ちなみに『ド・ラ・リブゴーシュテノア』、が家名になります。これに侯爵様が登城される場合は領地や役職も付くので、結構な長さになります。お城の呼名担当者やお付き合いのある家門の方々はそれなりに大変だそうです。
それはともかく。
ディアネイライア・マルガレーテ・フアナ様…だと長いので、ご家族様やお屋敷では『ディー』または『ディアナ』様が通称です。が、たまの折にご本人がフルネームを名乗る度に噛むので、最近は侯爵様や奥方様のお部屋にはいる際にディアナ様はフルネームを名乗ってからの入室が課されております。
これも後2年後に控えた社交界デビューのためでしょう。何事も日頃からの練習。
ディアナお嬢様は、今年11歳。
非常に独創性をおもちの愛らしい方です。
この度もまたおかしなことを目指し始めました。これで何度目でしょうか。アイデア一杯なお嬢様は、大変、お可愛らしく家庭学習補佐としても将来が楽しみなのですが、時々その斜めと言うか四次元方向へのぶっとb…こほん…発想の豊かさには付いて行…ごほん…驚愕することもございます。
型通りの『侯爵令嬢とは…』から逃避(睡眠による聞き逃し戦法)されたディアナ様は、翌朝お目覚めになると私とメアリアンに満面のドヤ顔で切り出されました。
「ワタクシ、悪役令嬢を目指します!」
…なんで?
「向いてないと思いますよぉ?」
メアリアン、はっきり言わない。
お嬢様はキラキラの笑顔のままなので、凹むことはないでしょうが。
「そんなことはありましぇ」
噛んだ。
「ほらぁ(笑)ディアナ様は向いてないですぅ(笑)」
メアリアン。笑わない。
私も笑いそうですが。噛んでプルプルしていらっしゃるディアナ様、ハムスターみたいでお可愛らしいのは確かですが。ディアナ様はうるうるしながら私に視線を移しいつもの必殺技を出されました。
「…レイチェルぅ」
うるうる。
うるうる。
うるうる。
うるう…
「わかりました…」
「ええー」
メアリアン。突っ込まないでください。
これから、『悪役令嬢』を目指すという斜めな目標設定をされたディアナ様(小動物系)の(無謀な)計画をそれとなく修正するために考えねばなりません。
家庭教師補佐の腕の見せ所…かもしれません。
「参考までに志望理由を伺いたいのです「ウルスラ様が格好良かったのです!!!」が。」
鼻息荒く…失礼しました…目を爛々と…いえ…希望に満ちた?表情で『ババーン♪』とか『テッテレーン♪』とか効果音が付く勢いで枕の下から取り出したのは
『愛は真実の花』
通称『愛花』。それですか。
やっぱり、それでしたか。
横でメアリアンがソッポを向いています。
メアリアン。貴女でしたか。
あんなにお嬢様に貸してはいけないと念押ししたのに!
「違いますよぉ!私が『愛花』見せたのはコーディリア様ですぅ!ディアナ様もいらっしゃいましたが…」
ブンブン首ふってますが、ディアナ様もいたんですね?その場には。
「そうです!これはコーディお姉様からお借りしたものです!ちなみに、自分用にも購入しました!」
ふんぞり返って言うことの程でもないと思うのですが。
つまり、私→メアリアン→コーディリア様→ディアナ様の流れだと。『愛花』の主人公達はベタなんでともかく、サイドのキャラクター達が良くって濃いですよね!…て、違う。
で、ディアナ様もハマって自分用にも購入されたと…て、違う。
あ、語り合える同好の志を見つけた的な目で見ないでください。
つまり状況的に『自分の投げた槍が自分に刺さる』感じですね?
『撒いた種が遠くで芽吹く』ですね?
…家庭教師の皆様が遠くを見ないように軌道修正頑張ります。
あ、『愛花』は私もウルスラ様押しです。
ウルスラ様は、悪役令嬢の立ち位置です。逞しくて大胆で姐御要素満載なキャラクターです。
…ウルスラ様か~
…ウルスラ様か~
…うーん、ウルスラ様かぁ~
ディアナ様はハムスター。
はぁ………どうしましょう?
コーディリア様も多分、買ってます。