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狐のお店  作者: 105 秋
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10/12

10:『誘拐』


ドンッ

 「痛てっ。」


 公園から出た所で横からいきなり押された。


 「ぐっ」


 倒れないように堪えたが、さらに蹴られ倒れてしまう。


 「きゃあ。」


 声の方を見ると、菜衣が黒いバンに押し込められる所だった。


バタン

 「早く来い。」


 俺を蹴っていた二人を乗せてすぐに車が出る。


ブロロロロ

 攫われた?

 男の一人に見覚えがあった。

 朝の若い男だ。


 「大丈夫ですか。」


 ジョギング姿のおじさんが駆け寄って来てくれる。


 「警察に連絡を。」


 いや、まずい。

 菜衣の説明ができない。


 「いえ、心当たりがあるので。」


 いぶかしむおじさんを置いて走ってその場を後にする。

 体が痛いがそれどころじゃない。



トゥルルルル トゥルルル

 瑞千穂のやつ出かけているのか。


 「儂じゃ。」


 でた。


 「菜衣が攫われた。警察はまずいと思って連絡してない。」

 「なんじゃと。今何所じゃ。」

 「商店街を抜けて篠さん家の方に抜けて行く公園の所。」

 「わかった。お主は急いで帰って来い。」


 体は多少痛むがそんなこと言ってられない。

 走って商店街を抜ける。

 息を切らせて神社につくと戸が開いている。


ハアハアハア

 息を整える間もなく靴を脱ぎ散らかし入って行く。


 「瑞千穂どこだ。」

 「ここじゃ。」


 居間のようだ。

 入ると月子さんが真剣な顔で地図を広げて待っていた。


 「どう・・」

 「黙って。」


 紐に吊るした鈴を地図の上で持っている。


チリン。

 ある一点で鈴が鳴る。


 「姉様ここ。」

 「うむ。」


 さらに大きな縮尺の地図を出す。

 なんとなくわかった。

 おそらくダウジングだ。


 「まだ動いている。」


チリン。

 「あ、止まった。」


 見ると普通の住宅街だ。


 「大介。車を回せ。」


 走って車を取りにいく。

 神社の前では瑞千穂と月子さんが待っていた。

 二人が乗り込むとすぐに車を出す。


 「そんなに遠くないとは思うが、何所の家かは分らないぞ。」

 「この家。」


 チェックを付けた地図を渡してくれる。


 「それに近づけば分る。」

 「菜衣にも渡してある鈴。あれとこれは縁があるから。」


 俺が持っているのとは色違いのように見える。

 白。いや白銀の鈴だ。


 「あいつら顔も隠してなかった。それに、今日出かける時に菜衣に話しかけていたやつが居た。」

 「おそらくじゃが、何処かで狐とばれたのじゃろう。それ以外に菜衣が攫われる理由もなかろう。」


 確かに、菜衣は美人ではあるが、それだけで攫う暴挙に出るとは思えない。


 「昨日車で来る途中で戻ってしまった所を偶然見られたのかもしれないな。」

 「だとしたら殺されるとかもなかろう。それに顔を隠さなかった理由もわかる。」

 「狐を攫っても警察は相手にしないってことか。」

 「おそらくな。実際に警察に連絡しても相手にされんじゃろう。それに警察が解決してもその後が面倒じゃ。」

 


 目的地に近づいてきたのでスピードを落とす。


リーン

 俺と月子さんの鈴が鳴いている。


 「近いわ。」


 路駐してある車の中に菜衣をさらった車に似ている黒のバンを見つけた。


 「あの車だ。」


 行き過ぎて車を止めると、家からちょうど人が出てくる。


 「ちっグー出しとけばよかったんだよな。くそっ」


 買い物にでも行くのか車に乗ろうとしている。


 「どうする。」

 「行くぞ。」

 「おい。」

 「なんだ?」

 俺を蹴った男だ。間違いない。

 ぶん殴ってやる。


 「てめぇ何しやが・・」


ごりゅっ

 男は最後まで言えずにうずくまる。

 瑞千穂の金的が炸裂だ。

 一個は残ったかな?


 泡を吹いてうずくまっているが放置で。

 罪悪感は感じない。

 中々に俺は怒っている様だ。


 「ふん。間違いなさそうだな。なんじゃ酒を飲んでおるのに運転しようとしておったのか。」


 ほのかに酒の匂いがする。


ぺたっ。ぺたっ。

 例のシールを貼る。やはり喋ることも動くこともできないようで呻く声さえも消えた。


 「大介。そやつの上着を羽織っておけ。」


 男をバンに寝かせておく。


 「月子は見張っておれ。」

 「姉様私も行きます。」

 「よい。後でまた働いてもらわねばいかぬであろうから休んでおるのじゃ。」

 「姉様、気を付けて。」

 「どうやら酒が入っておるようじゃし、儂の札も効くじゃろう。」

 「それ俺も使えないのか。」


 使えたら大変楽だが。


 「わからぬが、一応渡しておこう。ほれ。」


 束で受け取ったが、あまり当てにはしない方が良さそうだ。


 「さて、作戦じゃが。大介は儂の手を掴んで入って行け。」

 「それで?」

 「この家を覗いていたとか言えばよい。後は合わせろ。」

 「それだけか?」


 作戦とも言えないと思うが。


 「時間をかけると怪しまれるじゃろうしグズグズ言うな。」


 言われた通り手を掴んで、家に入る。


ガチャ。

 「どうしたー。もう戻って来たのか。」


 よかった。向こうから玄関は見えない様だ。


 「ちょっと財布忘れて戻って来たらさ、何故か家を覗いているのが居たから連れて来た。」


 声でバレないかドキドキする。


 「覗いていただぁ〜?」


 こっちに来る気配がする。

 酔っているせいか声ではバレてはないが顔見られたらさすがにばれるだろう。


 「お姉ちゃん何処。」

 「あっ」


 手を振りほどいて部屋の中へ走って行く瑞千穂。


 「お姉ちゃんだと。あいつの妹か。」

 「捕まえろ。」

 「離してよ。」


 すぐに捕まったらしい。


 「そっちの部屋に一緒に入れておけ。」


 そういうことか。

 これで菜衣の居場所も分った。


 「これで二人か。」

 「いや二匹だろ。どれだけの金が付くか楽しみだな。」

 「それにしても本当に狐なのか。」

 「本当だって。昨日狐に変わるのも見たし、着物も同じ柄だしさ。」

 「そうそう。それにあんな髪白いのなかなか居ないぜ。」

 「まぁもし違ったら綺麗だし他のことで稼ぐこともできるだろう。」


 やっぱり昨日見られていたらしい。


 「もう平気だから酒買って来いよ。財布はこっちにないぞ。」


 そう言いつつ一人玄関にやってくる。


ふぅ。

 息を一つ深く吸い覚悟を決める。


 やることは決めといた。

 あとは体が動くかどうか。


 いや、動かす!!


 「ふんっ」


 振り向き様に顔を反動をつけた右手で思いっきりぶん殴り、間髪つかずに蹴り上げる。

 金的を狙っていたのだがずれて腹に入る。

 それでも相手は仰向きに倒れたので思いっきり踏んづけてやる。

 骨の折れる感触がした。

 おそらく肋骨。もがき苦しんでいるのでしばらく立てないだろう。

 それでも一応何回か踏んづけとく。

 死ななきゃかまわない。


 ここからが問題だ。

 騒ぎを聞きつけて他の奴らもやってくる。

 その前に靴のままでずかずかと踏み込む。


 「てめぇさっきの。」


 相手にしない。

 途中にあった時計を投げつけつつ、入った勢いのまま足を思いっきり踏んでやる。

 しゃがもうとした所で顔に膝をいれる。

 こいつも踏んでやろうとしたら後ろから殴られる。

 殴り返すがもう一人やってくる。

 まずい。一対二で勝てるとは思えない。


ガチャ。

 「助けに来たみたいだが、やっちまうぞ。」


 異常を聞きつけたもう一人部屋から出てくる。

 瑞千穂を連れて行ったヤツか。


 これで一対三。

 まずい。


 しかし男は入って来ずにそのまま倒れた。


 「どうした。」

 「わかんねえ。動かねえ。」


 倒れた後ろには瑞千穂が立っていた。

 背中にはシール。

 これで二対二。

 倒れた男を踏みながら瑞千穂がこちらに向かってくる。


 「なんなんだ。」


 チャンス。

 向こうに注意が向いている。


ごりゅっ

 金的成功。悪いな。

 さらに踏んづけてとどめを刺しておく。


 これで二対一。

 形勢逆転。

 そこまでやってようやく男は反対側に逃げだした。

 

 菜衣が縛られたまま、よたよたと出てくるので紐をほどいてやる。


 「ありがとうございます。」


 特に怪我はなさそうだ。


 「後ろ!」


 見ると男が包丁を持っている。

 逃げたのではなく包丁取りに行っていたのか。


 「もうやめとけ。」

 「うるせえ。」


 酒も入っているせいで余計に興奮して包丁を突き出してくる。

 なんとかよけるがいつまで続くか。

 こちとら喧嘩もろくにしたことないってのに。


 瑞千穂から預かったシールをポケットから出す。

 これにかけるしかない。

 空き瓶を投げて牽制してくれる瑞千穂。

 注意が向いた隙にシールを貼る。


 「触るな!」


 駄目だった。

 さらに興奮して体ごと突っ込んでくる。

 思わず菜衣をかばう。


どさっ


 刺されてない?

 男は倒れている。


 「な、なんで。」


 もう一枚シールが貼られている。


 「効いてよかったです。」


 菜衣が張ったらしい。

 俺のは効かないで菜衣のは効くのか。


 「くそっ」


 最初にシール張った男がヨロヨロと立ち上がる。

 そんなに飲んでいなかったのか。

 蹴飛ばしておいて瑞千穂に言う。


 「菜衣も助けたし逃げよう。」

 「そういう訳にもいくまい。住まいまでバレているでのう。」


 そう言うと。


ごくごくごく。

グビグビグビ。


 逃げずにその場に有った酒を片っ端から、飲みかけも未開封も種類も順番も関係無しに飲み干していく瑞千穂。

 そして、ぺたとシールを張りまくる。

 再び相手が身動きしなくなった。


 「儂が飲んでおれば使えるのじゃ。相手が飲んでいればなおさらな効くのじゃがな。」

 「それって酒が抜けたら効果も切れるってことだよな。」

 「うむ。」


 返事をしつつ全員に貼って行く。


 「じゃから酒買って来い。」


 マジですか。


 「ついでに月子にも声かけてこい。」


 まさか菜衣に行かせる訳にもいかず渋々行くことにする。

 車に行くとほっとした顔で月子さんが向かえてくれた。


 「無事に助けられたんだね。」

 「はい。殴った手がズキズキしますけど。」

 「気にしない。気にしない。名誉の負傷だ。」


 頭を撫でて来ようとする。

 さすがに恥ずかしいので車から離れる。


 「俺は動きを止めるのに追加のお酒を買いに行くことになったのですけど、月子さんは瑞千穂に呼ばれていましたよ。」

 「オッケー。こいつも連れて行かないとね。」


 そういえばこっちは効果が切れなかったんだろうか。


 「もう一撃金的当てておいたからまだ大丈夫だとは思うけどね。」


 もう一発食らったのか。玉なくなったんじゃねぇの?

 男として南無。

 二人で部屋に運び他のと一緒に転がしておく。


 「それでは大介頼むぞ。」


 確か手前の角にコンビニが在ったはず。

 男の上着に入っていた財布から勝手に使う。


 「まぁ、適当でいいだろう。」


 あとは、ビールやチューハイ、ワンカップそれに焼酎を二本。

 それに菜衣用にお茶とジュース。

 部屋はカーテンを閉め切っており、帰ると男達は紐に縛られてさらに猿ぐつわをされていた。


 「これなら酒要らなかったな。」

 「一応じゃ。縛っても暴れたら面倒じゃからな。」


 袋からさっさとビールを取り出し口にする。

 飲みたいだけだろ。絶対。


 「それでどうするんだ?」


 俺は運転があるのでついでに買ったスナックをつまみながらお茶を飲む。

 菜衣は水が良いらしい。


 「月子どうじゃ?」

 「う〜ん。あと一時間くらいですかね。」

 「じゃと、飲んで待つとしよう。」


 説明になってないと思うぞ。


 「どうゆうことなのでしょうか。」


 菜衣が聞いてくれる。


 「えっとね、姉様がお酒飲んでお札使えるように私も術が少し使えるのです。じゃーん。」


 さっきの鈴を取り出し見せてくれる。


 「その鈴、私の持っているのと似ています。色は違いますけど。」


 そう。月子さんのは白銀。

 俺と菜衣が持っているのは鈍い金色、南京錠みたいな色だ。


 「そうこれで菜衣ちゃんを見つけたんだよ。正確には菜衣ちゃんの持っている鈴をね。」

 「ダウジングだと思っていたよ。」

 「似たような感じだよ。ただ、鈴をイメージして探した方が正確なの。この鈴と君たちが持っている鈴は親子みたいな物だから。」


 確かに色が違うだけで模様や大きさは同じに見える。


 「正確にはレプリカかな。私のこれは貰った物でそれらは私が真似して作ったものなの。」

 「ふ〜ん。それで鈴でどうするんだ?」


 こんなにも似せて作れるんだったら色も何とかなりそうなものだけどな。


 「術を使って記憶を書き換えるの。」


 こわっ


 「催眠術みたいなものかな。」

 「瑞千穂のよりずいぶん使い勝手が良さそうだな。」

 「そうでもないんだ。夜しか使えないし満月が近いと力が弱まるから。それに相手が止まってないと使えないしね。」

 「だから儂の術で動きを止めないといけない訳じゃ。」


 なので飲むぞとばかりにワンカップを口にしている。

 いつも以上にペースが早いな。


 「本当は明後日くらいが良いんだけどね〜。」


 確か明後日は新月だ。


 「そういや、俺が刺されそうな時に菜衣が貼ったのが効いたけど瑞千穂が貼らなくても良いのか?」

 「うむ。霊力と相性が合えばな。」


 俺のが効かなかったのは霊力ってのが無いか相性が合わなかったってことか。


 「相性はなかなか合わないのですけどね。姉様以外に使える人を殆ど見たこと無いですから。」


 なにはともあれ菜衣のが効いてよかった。

 ビール、チューハイ、ワンカップと飲み干し瑞千穂の手が焼酎に伸びた所で一時間経ったらしい。


 「さて始めますか。」


 部屋の電気を消す月子さん。


 「俺は出ていた方が良いか?」

 「大丈夫。ただ静かにしていてね。姉様も菜衣ちゃんも。」

 「はい。」


 言うと上着のポケットから蝋燭とマッチを取り出す。

 準備して来ているってことは元々、記憶を書き換えるつもりだったんだな。


 「大介さんはそいつらソファーに並べて。そう。こっちを見るように。」


 蝋燭に火をつけ最後の電気も消す。

 カーテンも閉め切っているため蝋燭に照らされた鈴だけが目を引く。

 瑞千穂の力が強いせいか、男達は瞬きもせずに鈴を見ている。


リーン リーン

 月子さんの鈴が鳴ると俺と菜衣の鈴も共鳴して鳴り出す。


ふっ

 蝋燭の火が消される。


リーン

 真っ暗なはずなのに揺れている鈴が見える。


 「私は貴方。」


 奥には月子さんの瞳が鈍く光っている。


 「貴方の心。」


 さらに二組の瞳が闇の中からこっちを見ている。


 「人の形をした者が人以外のモノであることなどない。」


 おそらく瑞千穂と菜衣の瞳だ。


 「この常識が崩れることなどあり得ない。」


 そのことに男達は気づいているのか。


 「貴方達は酔っている。」


 それとも気づいていないのか。


 「飲み過ぎて喧嘩をした。」


 まるで関係ないように鈴だけを見ている。


 「喧嘩をしたが楽しかった。」


 もしくは、その奥の月子さんの瞳に魅入られているのか。


 「楽しく酔って一度寝たら明日の朝まで寝てしまう。」


 空気と共に時間も止まったかのような感覚に陥りそうだ。


 「起きたら今夜起きたことは忘れてしまう。」


 鈴の音が小さくなっていく。


 「よい夜だったの。おやすみなさい。」


 鈴の音が消えると共に男達は眼を閉じた。


パチ

 電気が付く。


 「上手くいったようじゃな。」

 「はい。おそらく大丈夫でしょう。」


 月子さんの顔が青白い。


 「共鳴が大分起きていましたから。」

 「大介。紐を解いて適当に転がしておけ。」


 言われた通りに男達の紐を解き適当に寝かしておく。


 「すごいな。全然起きる気配がない。」

 「すごいでしょ。でも凄く疲れるから滅多に使わないけれどね。」


 やはり、顔色が良くないのは術のせいか。


 「鈴の音はさっきも鳴ったから分ったけれど、皆の瞳が光っていたのも共振ってやつか?」

 「そうじゃ。お主の瞳も鈍く光っておったぞ。」


 俺の瞳も?


 「あまり月子に聞いてやるな。さっさと帰ろう。」


 確かに疲れているのに色々聞くのは悪かった。


 「姉様。私、暖かいご飯が食べたいです。」

 「そうじゃな。お主も頑張ったし帰ったら飯にしよう。」


 早々に後にして車に乗り込む。


 「皆さん迷惑をかけてすいませんでした。そして助けてくれてありがとうございました。私どうなっちゃうかと・・・。」


 菜衣が安心したのか涙をこぼす。


 「気にしない。気にしない。今後もう起きないわよ。」

 「でもまた狐に戻って誰かに見られたら。」

 「なに大丈夫じゃよ。」

 「私ちょっと疲れちゃったから寝るね。菜衣ちゃん膝貸して。」


 そう言ったと思ったら、月子さんはすでに菜衣の膝枕ですやすやと寝ていた。



 「本当にありがとうございます。」



 菜衣の呟くような声が月子さんの寝息と重なって車の中に消えていった。



 なにはともあれ無事でよかった。


 

 

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