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属性無しの怪獣  作者: 黒笠


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14/14

14 追跡〜凶報を受けて2

 レフツは1人、サリアの立っていた場所を見つめる。

 誰かにぶつかられたのだろうか。急に進路を変えていて、同じ臭いに纏わりつかれていた。

(怖かっただろうに)

 大柄な男数人に小柄なサリアが囲まれて、どれだけ恐怖したかを思う。

 レフツはすたすたと歩き始めて、サリアの足取りを辿る。

 やがて追い詰められたであろう、人気のない裏路地に至った。ここでも無体を働かれた痕跡はない。

(もし、サリアの身に、酷い怪我でもあれば、流した血の分だけ、この街を消し飛ばしてやるところだった)

 半ば安堵しつつ、レフツは更に追跡を続けた。

 裏路地を出て、サリアたちの足取りを辿る。ここから数人の男たちの臭いが固着していた。

「もう覚えた」

 レフツは呟く。もう、この世のどこに逃げても逃さない。

 すたすたと歩き続けて、町中を抜けた。

 グンキョの街郊外にある、廃屋敷の前に至る。

 城壁の少し外、ベンドルムの森の南側だ。開けた場所であり、石壁に囲繞されていた。

(ここか)

 正門の方にサリアの臭いが続いていた。

「さて」

 レフツは懐から黒い仮面を取り出す。私人としての独断専行だ。軍人であると特定されたくない。

『破顔黒面』と言う。口元が大きく釣り上がった、無地の黒いお面だ。

 人の気配もしていて、正門にガラの悪そうな若者が2人、座り込んでいる。

 レフツは石壁の周りを歩いて、人目のないところから上がった。

(そして、あそこだな)

 レフツは目を細めた。

 壁の上から屋敷を見渡して、サリアの居場所を察知した。

 屋敷の西端に鉄格子の窓が見える。いかにも、という牢屋だった。

(一体、何に使われていた、屋敷なのやら)

 レフツはため息をつく。

 得物を左手の平に納めた。『手裏剣』という、十字型の投擲刃物だ。隠し武器としては便利である。

 軍服の両脛に専用のポケットを、レフツは縫い付けていた。

 見張りが巡回している。2名の若い男だ。手には安物の剣を握っていた。

(人買いだな。軍部でも注意はして、捜査中だったが)

 見張りが下手だが、多過ぎる。

「間引くか」

 レフツは無造作に左手を一閃させる。

 離れたところを歩く見張りが横倒しに倒れた。続いてもう一人。

 相手から見えない位置を容易く自分は割り出せる。

 数人を仕留めた。味方が減らされたことにも、中の人買いたちは気付かないのではないか。

 密かに期待しつつレフツは壁から飛び降りる。

 両手の懐には手裏剣を忍ばせておく。見張りと遭遇したなら瞬時に殺さなくてはならない。

(まったく、なんて理不尽な)

 サリアのことだ。

(気立ての良い娘としか思えなかった。そんな娘を、直接、知りもしない奴らが。しかも俺の妻だぞ?)

 ふつふつと怒りが込み上げる。ミレディが軍営に駆け込んできた時から、一向に収まりそうもない。

 サリアと数日、過ごしてみて、楽しかった。悪い人間だとは思えない。

 皇太子フレックとの間に何があったのだろうか。誤解でもあったのではないかとは、推測している。

 傲慢なところは何もなく、今は一生懸命、自分との生活に慣れようとしていた。魔術属性至上主義的なところのある、ロックス帝国の貴族社会で育ってきたとは思えない、自分への柔軟な態度だ。

 それだけでもレフツとしては好感が持てる。

「少なくとも、一方的な悪意をぶつけられて、人買いに売られていい娘だとは思えない」

 レフツは呟いて、たどり着いた鉄格子の窓を見上げた。

 飛び上がって、右手で鉄格子を掴み、左手で握る。そのまま左手に力を入れて鉄格子を握り潰した。更にはねじり切って、自分が入るための穴を開ける。

「サリア」

 牢内に飛び込んで降り立つと、レフツは静かに妻の名を呼ぶ。

 諦めたように石の床に倒れ込んでいた。朝、自分を見送った時と同じ、白いブラウスに紺色スカートのままだ。

 特に怪我をしているようには見えない。

「レフツ様、どうして?」

 サリアが驚いて身を起こし、そして自分に気づいて、また目を見開く。

 次に握り潰し、ねじり切った鉄格子に気づいた。だが、魔術属性の無い自分の所業とは思えなかったらしい。

「いえ、どうやって?本当に、レフツ様?どうやってここまで?こんなに早く?お一人なんですか?」

 質問がサリアの口から次から次へと溢れ出る。

 無体を働かれた様子はない。まず、レフツは負傷とその2点にホッとした。

 売り物だから手を出さなかっただけなのかもしれないが。

「訊きたいのは、それで全部かい?」

 レフツは苦笑して訊き返す。

「だって、鉄が、窓から入られたんですか?それにここをどうやって知ったんですか?」

 またサリアが尋ねてくる。

「あ、そんなことより、来てくださって、助けに?本当に嬉しいです。ありがとうございます」

 はにかむように俯いてサリアが謝辞を述べる。

 やはりどこか所作が微笑ましい少女なのだった。見た目の美醜よりも礼儀がどうのということよりも、この無防備で無垢な仕草に自分は惹かれ始めている。

 思わず、レフツはサリアの艷やかな黒髪に手を伸ばしてしまう。

「よく耐えたね。怖かっただろうに」

 レフツは妻を労う。

「なぜでしょうか。絶対に来てくださるって。ちゃんとミレディを報せにやればって。それは、なんでこんな目にって恨めしさはありますけど」

 サリアがボロボロと涙を零す。

「あんな鉄は、おれにとってどうってことはないし、俺は犬よりも鼻が利く。君たちの臭いを辿るぐらい、なんてことはない。人買いどもは屑だから酷い悪臭がしたからね」

 思わずレフツは口元を綻ばせてしまう。

 自分の手の内を晒している格好だ。

 こんな国に自分の能力を役立ててやりたくない。だからいつも隠してきた。

 可愛い妻には良いだろう。もう、レフツは心に決めていた。だから明かす。

「鉄が大した事ない?犬よりもお鼻が?」

 可愛いことにサリアが首を傾げて困惑している。

 自分が誘拐された身だと忘れたのだろうか。もし、レフツが来たことで安心できたと言うのなら、やはり可愛らしいことこの上ない。

「それよりも君だ」

 レフツは真面目な声で切り出した。

「はい」

 サリアが居住まいを正す。

「1つ、どうしてもこれから君と暮らしていくにつけて、訊きたいことがある」

 本当は問答無用で結婚当日に聞いておくべきだったのかもしれない。

(だが、俺も出来なかった)

 遠慮があったうえ、どうしていいか分からなかった。

「君とフレック皇太子、それに聖女ミレイの間には何があった?そして傷つけたというのはどういうことだ?」

 レフツはスラスラと尋ねた。

(俺には、君がそんなことをする人間には思えないんだ)

 心の中でレフツは加えるのであった。

 

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