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Fw:ゼツボウ ト 決意

大切な人々を失い、無力感に打ちひしがれた紡。

しかしそこで途絶えることはなかった。

神によって告げられた「ゲームオーバー」の言葉。それは、彼の人生が単なる「転生シミュレーション」であったという事実を突きつけられる。


後悔の中で紡が見つけた、唯一の希望。それは、失われた命を取り戻し、二度と悲劇を繰り返さないという揺るぎない決意。

神から与えられた圧倒的な力――因果を操る能力の真髄を習得し、再びあの世界へと舞い戻る。


これは、二度目の生を歩むことを決めた青年が、失われた絆を再び紡ぎ、宿命に抗い、大切な人々を守り抜く物語。彼が見たのは、希望か、それとも新たな絶望か。繰り返される「日常」の中で、紡は己の全てを賭け、未来を切り開く。

 神楽郷はまだ夜が明けきらぬ帳に包まれていた。街の明かりがまばらに灯る中、紡は早朝から異事管理局へと向かっていた。

昨夜から、どうやってあの惨劇を繰り返さないようにすれば良いか、その思考の渦に囚われて眠ることができなかったのだ。

脳裏には、1周目で起こった悲劇の光景が、鮮明なまでに焼き付いている。


 寮の部屋を出る際、カイがいつものように紡の足元に駆け寄ってきた。しっぽを振り、散歩に行こうと誘うかのように、甘えた声で鳴く。

しかし、今日はカイを連れて行くわけにはいかない。危険な場所に連れて行くわけには、断じていかなかった。


「ごめんな、カイ。今日だけは、頼むから留守番をしててくれ……。俺が、必ず全部を終わらせてくるから」

紡はしゃがみ込み、カイの頭を何度も優しく撫でた。その小さな瞳をまっすぐに見つめ、今日の自分の行動の重要性を言い聞かせるかのように語りかけた。


 紡の真剣な眼差しから、彼の意図を汲み取ったかのように、カイは「ワンッ!」と一声だけ短く吠え、それ以上は鳴かずに、おとなしく部屋の隅に座り込んだ。

その姿は、紡の決意を応援しているかのようだった。



 管理局に着くと、まだ早朝であるためか、人はまばらであった。

静かな廊下を進むと、室長室の重厚な扉が開くのが見えた。中に石凝が足を踏み入れようとしているところだ。


(石凝さん……!そうだ、石凝さんと一緒に行動すれば、怪異が出現した知らせを、誰よりも早く掴むことができるかもしれない!)

紡の頭の中で、一つの閃きが走った。怪異の発生地点を正確に知ることは難しい。

だが、管理局の室長である石凝であれば、間違いなく最速でその情報を入手するだろう。そうすれば、先回りして怪異に対処することが可能になる。

惨劇を未然に防ぐために、これほど確実な方法はない。


 紡は即座に室長室へと駆け寄った。扉が開いたままになっている室長室の奥では、すでに石凝が執務机に向かおうとしているところだった。


「石凝室長!」

紡の突然の声に、石凝はわずかに眉をひそめた。


「何だ、杜野。まだ勤務時間前のはずだが」

石凝の冷たい声にも怯まず、紡は真剣な表情で食い下がった。


「石凝室長、どうか終日、俺と一緒に行動させていただけませんか!」

石凝は、紡の言葉に顔をしかめた。その視線は、まるで値踏みするかのように紡を見下ろしている。


「貴様の廻環術が強力なのは理解している。確かに頼りになるだろう。しかしな、杜野。貴様は先日配属されたばかりの新人だ」

「この管理局の知識も経験もまだ乏しい。そんな新人の面倒を、俺が見るつもりはない。まずは烏賀陽から、怪異に関する基礎知識の講義を受けろ。それが貴様の役目だ」

石凝の言葉は、氷のように冷たく、一切の妥協を許さないものだった。彼の言うことは、管理局の規則からすれば当然のことだ。


 しかし、紡には、このまま引き下がるわけにはいかない理由があった。


(このままじゃ、同じ悲劇をまた繰り返してしまう……!)


 紡の脳裏に、1周目で見た、破壊された街と、血を流して倒れる人々の姿がフラッシュバックする。

そんな未来を、彼は絶対に許すわけにはいかなかった。


「それでも、お願いします! どうしても、室長とご一緒させてください!」

紡は必死に頭を下げ、懇願した。彼の声には、焦燥と、未来への強い使命感が滲み出ている。


 石凝は、紡のただならぬ様子に、眉間の皺をさらに深くした。彼は腕を組み、鋭い視線で紡を射抜いた。


「……何故だ? 何故そこまで行動を共にしたい? 何故そこまで必死になる?」

石凝の問いかけは、紡の内心の秘密に触れようとするかのように、深く突き刺さる。しかし、紡は冷静だった。

ここでどう答えるかによって、未来を変えられるかもしれない。


(ここだ……!ここで、うまいこと機転を利かせれば……!)


 紡は、自身の『掌理万象』を応用した嘘を、咄嗟に思いついた。

「俺の廻環術は、因果を操る能力……その力で、強力な怪異が現れる因果の歪みが、見えたんです。このままでは、甚大な被害が出てしまいます!」


 紡は、まっすぐ石凝の目を見つめ、力強く言い放った。彼の言葉は、半分は真実だった。


 石凝の目は、わずかに見開かれた。彼の顔に、驚きと、そして深い疑念の色が浮かぶ。


「因果が見えた、だと? ……それが本当なら、どこで、いつ、どんな怪異が現れるのか、詳しく話せ」

石凝の言葉には、紡の言葉の真偽を確かめようとするかのような、鋭い響きがあった。紡は、迷うことなく答えた。


「場所は……転送術式で移動しましたので、具体的な地名は分かりません。ただ、地形は覚えています。神楽郷の街中です」

「時間は……、今日の正午前に、そのの怪異が現れます」

紡の言葉は淀みがなかった。彼は、1周目で見た怪異の姿を正確に描写した。


「一つ目を持つ、異形の怪異です。その力は、石凝室長ですら歯が立たないほどのものです……!」

紡の言葉を聞きながら、石凝の表情はさらに硬くなった。


 紡の口ぶりは、まるで事前に全てを知っていたかのように詳細で、あまりにも正確だった。

その詳細さに、石凝は強い疑念を抱いた。管理局の誰一人として、まだ知ることのない情報を、新人が知っている。その事実は、石凝にとって看過できないものだった。


(この男……一体何者だ? 我々の情報網すら及ばぬ情報を、何故知っている?)

石凝の鋭い視線が、紡の全身を貫く。しかし、紡の目は、一切の嘘偽りなく、まっすぐに石凝を見つめ返していた。

そこには、純粋な使命感と、未来を救いたいという強い願いが宿っている。そのまっすぐな瞳を見た石凝は、逡巡の末、静かに息を吐いた。


「……良いだろう。もし貴様の言葉が嘘だったとしたら、相応の処罰を受けてもらうことになる。覚悟しておけ」

石凝の言葉は、紡の願いを受け入れるものだった。


「ありがとうございます、室長!」

紡は、深々と頭を下げた。未来が変わったことへの喜びと同時に、これから起こるであろう怪異の襲来に向け、彼の心臓は緊張感を高めていた。



 その日、紡は石凝の事務補佐として、室長室で事務処理や書類整理をしながら、怪異の襲来に向けて待機することになった。

石凝は、烏賀陽に紡への講義を事前に伝えていたため、講義を延期するよう烏賀陽に伝えた。


 烏賀陽は、紡の成長を心待ちにしていただけに、がっかりした様子だった。

「杜野さんへの講義は、また後日改めて行わせていただきます。フフ……杜野さんは覚えが早いので、すぐに戦力になってくれるでしょう」


 烏賀陽の言葉に、石凝は何も答えなかったが、紡は内心で烏賀陽の期待に応えようと、改めて決意を固めた。


 室長と聞いていたため、もっと上役のような、重要な意思決定や会議に参加しているものだと思っていた紡は、意外と地味な事務処理をしている石凝の姿に驚いた。

膨大な書類の山と、煩雑な事務作業。石凝は淡々とそれらをこなしている。


「まさか、室長がこんな事務作業まで……」

紡が思わず口にすると、石凝は顔色一つ変えずに言った。


「これも仕事の一部だ。管理局の円滑な運営には、こうした地道な作業も欠かせない。貴様も早く慣れろ」

石凝の言葉に、紡は改めて管理局の仕事を理解した。彼は、石凝の指示通りに書類の整理を手伝い始めた。

元々、サラリーマン時代に培った事務処理能力は高く、その手際の良さに石凝はわずかに感心した。


「……貴様、事務処理の腕は悪くないな」

石凝の賞賛とも取れる言葉に、紡は謙遜しながらも、内心では驚きを隠せないでいた。


(まさか、サラリーマン時代の経験が、この世界でこんな形で生きると思っていなかった……。人生何が役立つか分からないもんだな)


 そんなことを考えながら、書類をまとめていると、一際異彩を放つ書類が目に入った。

それは、この世界では忌まわしいものとされている文様が記された書類だった。

紡が『掌理万象』を発動した際に、彼の腕に刻まれる、あの禍々しい文様と同じものが描かれている。


(あれ? 何でこんな書類が……? これって、俺の能力の紋様と似てる……まさか、これも怪異に関係するのか?)

紡が、何故みんなが嫌うような文様の書類を石凝が持っているのか不思議に思い、その書類を凝視していると、石凝がそれに気づいた。


 石凝の視線が、不審そうに書類を見つめる紡に注がれる。彼の顔に、見る間に怒りの色が浮かび上がった。

「杜野! それをしまえ! 直ちにだ!」


 石凝の突然の命令に、紡は困惑した。彼は石凝の怒りの理由が分からなかった。

しかし、ここで無駄な行動をして、この後の怪異襲来に影響が出るようなことは避けなければならない。


 紡は、怒鳴りつけられたことに怯えながらも、おとなしく指示に従い、その書類を元の場所に戻した。

(何なんだ? あんなに怒るなんて……何か、重要な情報でも載ってたのか? でも、俺の腕の文様と、何でこんなに似てるんだ?)


 紡が書類を片付ける一瞬、石凝の瞳が鋭く細められた。彼は、紡の背中に、まるで獲物を睨むかのような冷たい視線を送っていた。

紡はそれに気づくことなく、再び事務作業に戻った。


 その時だった。室長室の扉が、突然勢いよく開かれた。息を切らしながら、一人の男性局員が飛び込んできた。

彼の顔は蒼白で、額には汗が滲んでいる。


「室長! 怪異が発生しました! 現着した数名の局員では歯が立たず、大至急、応援が欲しいとのことです!」

男性局員の言葉に、紡の全身の毛が逆立つ感覚に襲われた。ついに来た! この瞬間を、彼は待ち望んでいた。そして、同時に、恐れていた。


(来たか……! ここで、俺は、あいつを払う! あいつを払って、俺が守るんだ!)


 紡の瞳に、強い決意の光が宿る。彼の胸の中には、未来を変えるという使命感が、熱く燃え上がっていた。


 知らせを聞いた石凝は、男性局員の報告を聞き終えると、静かに紡を見た。

彼の目には、「貴様の廻環術の予知通りになった」という感情がはっきりと見て取れた。石凝は、紡の実力を改めて認識したようだった。


「行くぞ」

石凝は、紡に短い言葉だけを告げ、部屋を出て行った。紡もそれに続き、怪異の元へと向かった。



 先ほど室長室に入ってきた局員の転送術によって現場に到着すると、そこは既に阿鼻叫喚の地と化していた。

アスファルトはひび割れ、近くの建物は焼け焦げ、地面は大きく抉られている。

血の匂いが鼻を突き、数名の血を流して倒れた調査員と思しき人間が、横たわっていた。彼らは、もはや虫の息だ。


 そして、その惨状の中心に、赤黒い光を放つ一つ目と、そこから下へと不自然に裂けた異常なまでに大きな口を持つ、あの怪異が立っていた。

1周目で、紡の全てを奪い去った、憎き存在。その醜悪な姿は、紡の脳裏に深く焼き付いていた。


怪異が石凝たちの方に気づくと、その巨大な口を裂き、不気味な声で言語を発した。


「新たな獲物が来たか。ふふふ……愚かなる人間よ、我が餌となれ」

その言葉は、確かに人間の言葉として認識できた。


 石凝は、怪異の言葉を聞くと、表情を硬くし、紡に耳打ちをした。

「言語を話せることから、等級は二級の特異に相当するか、それ以上の強さだ。気をつけろ、杜野」


 しかし、その耳打ちした声は、ほとんど紡に届いてはいなかった。


 現場に転送されてから今に至るまで、紡は今までの人生で経験したことがないほどの怒りと、そして殺意で、極限状態の集中状態に入っていた。

彼の視界には、怪異以外のものは何も映っていなかった。


 紡はじっと怪異を見つめる。彼の脳裏には、1周目で経験したあの惨状が、再び鮮明に蘇っていた。

見るも無残に破壊された街、血の海。そして、大切な人々の苦痛に歪む顔、絶望に満ちた瞳、そして紡を案じる最期の優しい笑顔が、次々と脳裏を駆け巡る。


 脳みそが壊れてしまうのではないかと思うほど、怒りと殺意が彼の意識を埋め尽くしていく。

その衝動のままに、紡は廻環術を発動しようと、右手を怪異に向けた。


 その瞬間、ふと、あの純白の空間で神が紡に語りかけた言葉が、脳裏によぎった。


『君の本質は、本心は、何を望んでいるのか』


 神の言葉が、怒りで真っ白になりかけていた紡の意識に、一筋の光を差し込んだ。紡は、ハッと我に返る。

彼の本心は、この怪異をただ払うことがゴールではない。ただ復讐を果たすことではない。


「そうだ……俺はこれまで、あいつを払うことだけを考えてきた……」

「でもそうじゃない……それだけじゃ、いつかまた、怪異にみんなが殺されてしまうかもしれない……」


「それじゃダメだ……俺は……みんなの物語を……みんなの人生を共に紡ぎ、守りたいと願ったんだ……!」


 紡の脳裏を埋め尽くしていた怒りと殺意が、まるで墨汁が水に溶けていくかのように、瞬く間に消え去っていく。

彼の心は、怒りや憎しみから解放され、澄み渡っていく。そこに残ったのは、過去の悲劇を繰り返さないという、純粋で揺るぎない守護の意志だった。


 その場にいるのは、さっきまでの、復讐心に囚われていた紡ではなかった。

この世界で神にチート能力を与えられ、その能力を完全に掌握した、時代最強の廻環術師「杜野 紡」その人だった。

彼の瞳には、全ての因果を掌握する、深遠な光が宿っている。


 紡が考えている間にも、怪異はベラベラと人間を軽視する発言を続けている。

「愚かな人間どもめ。所詮は我らの餌。抵抗するだけ無駄だ!」


 石凝は、何も言わず黙って下を向いていた紡を見て、彼の精神状態を心配した。怪異の威圧感に気圧されたのだと思ったのだろう。

「杜野、俺が相手をする。貴様は下がっていろ」


 石凝はそう言い放ち、一歩前に出ようとした。しかし、その言葉を遮るように、紡がゆっくりと、一歩、また一歩と怪異に近づき始めた。

その足取りは、まるで獲物を狩る捕食者のようだ。石凝は、慌てて紡に怒鳴りつけた。


「杜野! 下がれと言ったのが聞こえないのか! 無駄死にをする気か!」


 怪異は、自分から殺されに来た人間がいることに、巨大な口を歪めて喜んだ。

「ふふ…… 愚か者め! 自ら餌になりに来るとは、なんと大した度胸だ!」


「勇敢な愚か者か、よほど馬鹿な愚か者だn」

その刹那、怪異の視界が、まるでガラスが粉々に砕け散るかのように、無数の破片に分割された。

世界が、歪み、反転し、色と形を失っていく。怪異の思考は、その現象に追いつくことができない。

自身の存在が、根源から否定されていく感覚に、言いようのない恐怖が湧き上がった。


「な、なにを……」

怪異は、その言葉をか細く残したきり、光の粒子となって、いとも簡単に消え去っていく。

その巨体は、まるで最初から存在しなかったかのように、虚空へと吸い込まれていった。


 一瞬の出来事に、石凝は戸惑いを隠せないでいた。目の前で起こったことが、彼の理解の範疇を超えていたからだ。

彼は呆然と立ち尽くし、自分の前に立った男の背中は、先ほどまでのただの青年の後姿ではなかった。


 まるで世界の全てを背負い、全てを掌握したかのような、まさに「最強」を体現する背中だった。



 紡は、振り返り、ニッと微笑みを石凝に向けた。その微笑みには、勝利の確信と、未来を変えた者の揺るぎない自信が満ちていた。

てとまるです。

ここまでお読みいただき、本当にありがとうございます。


ついに紡が完全覚醒しました。「時代最強の」のフレーズは、人生の中で使いたいと思っていた、

中二病フレーズなので、使えて満足しています。


さて、お話はいよいよ紡が経験できなかった、未知の領域に突入します。

どんな出会い・怪異、日常があるのでしょうか。

次回をお待ちいただけると幸いです。


それでは、よろしくお願いいたします。

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