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この庭の芝生は青い  作者: 心愛
無実行きの切符
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真犯人

 木山は、『最近落とし物が多い』と言った。だがその割に出てきたのは駅近くで財布を落としたという例だけ。それだけではとても多いとは言えない。他にも落とした物があったんだろう。しかしそれを大っぴらに言うことはできなかった。何故なら小事ではなく大事だったから。でもそれなら財布を落としたというのも大事だ。では言えない件と財布の件とでは何が違うか。それは、解決したかどうかだ。自転車の盗難ともなれば、立派な窃盗罪が成立する。自転車の本体は帰ってきても、肝心な犯人はまだ捕まっていない。だから表沙汰にはできなかった。




「木山が取った行動はこうだ。先週水曜日、自転車の鍵を何処かに落としたか、抜き忘れていたかで、自転車は盗まれていた。それで木曜日、仕方なく電車で来ることになったが、切符の有効期限が1日であることを知らずに2日分の往復、4枚を買った。そしてさらなる災難が、その財布を落としたこと。それは梶原が拾ったおかげで、返ってきた。そして最も災難だったことは、自分の知らないところで、自分の自転車に乗ったやつが自分の知らない所で事件を起こしたこと。張り紙でもされない限り、出頭するはずもないだろうな」




「事件があったのが木曜日で、集会があったのは昨日でしょ?その間は何なの?だって、通報は木曜にあったんだから、集会は金曜でも、月曜でもよかったと思うんだけど。なんで、昨日だったの?」




 千春は、毎回鋭いところを突いてくる。




「単純だ。木山が昨日まで自転車で登校してこなかったから。もっと言うなら、自転車が月曜日に返ってきたから。先生たちも、通報された自転車の番号が実際にこの目で確認できない限りは表沙汰にはできないさ。そもそも自転車がないとなると犯人が学校にすらいない可能性だってある。そんな中集会したって、無意味だろう」




「どうして月曜やって断言できんねん」




「俺は今日、偶然木山の自転車の隣に止めているんだが、木山の自転車は錆びていて年季が入っているのにサドルやハンドル、その他の所もピカピカに磨かれていた。きっと捨てられた自転車を発見して車体を拭いたんだろうよ。悪い、趣旨からズレているがたとえ月曜よりも前に帰ってきていたなら、月曜から登校すればいい。




 先生たちも、悪魔でも生徒の自主性を尊重し、自ら出頭させるように集会を開いた。『お前のせいで何人もの生徒の時間が奪われてるんだぞ』と言わんばかりに。出るわけもない。持ち主と犯人が違うんだから」




 事実を辿れば真実に辿り着く。いつか読んだ小説で探偵はそう言っていた。探偵でない俺でもできるんだ。何も特別なことじゃあない。




 ここまでくれば、少なくともここにいる3人は信じるはずだ。そして案の定、誰からも反論は出てこなかった。




 そして納得するだけが梶原じゃない。清々しい笑顔になっていたかと思うと少し真剣さが交じる表情で言った。




「明日木山君に話を聞いてみようと思う。もしつばちゃんの言うような証言が出た場合、すぐにその証拠と、自転車の盗難届を見せれば、彼の無実の証明は完了するってことだね」




 概ねそうなるだろう。




 西日が差す教室は、まぶしくもあり、窓ガラスに遮られなかった熱が入り込み、少し暑さも感じる。明日どうなっているか、少し楽しみだ。梶原の事だ、きっとうまいことやってくれると思う。




 





 数日経って、梶原はいつものように俺のところへとやってきた。




「やれやれ、ほんとに時間がかかったよ」




 今は放課後で、6限授業を受けた後では確かに疲れていてもおかしくはない時間帯だ。いつもの梶原は疲れをほとんど見せず底なし元気を見せつけているが、今日は珍しく顔に疲れが表れている。




「おつかれだったな」




「被害届の受理とか、警察とどういう話になっているかっていう確認に時間がかかったんだ」




「無事にできたのか?」




「うん。木山君に何も処罰は下されないみたい」




 当然だ。これで下されたなら、法廷にまで教師たち連れて行くところだった。




 聞くところによると、ちゃんと話を聞かない上に説教をしたことについて謝罪はきちんとされたようだ。謝罪と礼が言えないのは大人としてということ以前に人としてどうかしている。




「今日はしっかり休んだらどうだ。戸締まりもしとくぞ」




 まだ2人は来ていない。相川は既に来ていて、いつものように絵を描いている。




「お願いできるかい。流石にちょっと帰って休むよ」




 歩く姿はまるで風に煽られる風船のようだ。きっと俺の見えない所で暗躍していたんだろう。俺は梶原の背中を見送ったあと、誇らしい気持ちで小説の栞に手をかけた。



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