勇者B、熱弁する
「整理しよう」
勝手に人んちに上がり込んだ勇者B、もといブライトは、眉根を寄せながら人差し指を立てた。
いちいち芝居がかってるんだよなこの人。
「まず、君自身は村人であると」
「はい。ですね」
「そして、この……あー……ここにいるのは君の【ペット】だと」
「まあ、俺が餌やってるんで、そうですね」
「……で、そんな君たちはいつもどうやって過ごしているかというと」
「野菜を作ってますね」
「納得がいかない!」
そんなこと言われても困るんだが……。
「村人が野菜を作るのは何もおかしいことじゃないでしょ」
「ちがう! そこじゃない! 君は分かってるのか? この世界で属性に制限を受けずに魔法を使うのは、魔法使いであってもほぼ不可能なんだぞ。君のペットはただの魔獣ではない」
「スペシャルな猫……」
「猫じゃない!魔獣だ!というかその大きさの獣を猫と言うのは無理がありすぎる!」
ブライトはまだ庭で凍りついている真っ二つになったドラゴンを背景に熱弁を振るった。
「いいか。村人の職務も野菜作りも大切な仕事だ。領民の生活を支える尊い仕事なのはよく理解できる。ただ、もう一度よく考えてみてくれ。この国の騎士団であってもドラゴンを無傷で一刀両断なんて無理だ」
確かに一般人代表として、あのとき死を覚悟した。
「あー、その、勇者さん……」
「ブライトでいい。敬語もなしだ」
「いや、ちょっと、すみません、年上には敬語で話さないと気持ちが悪くて……時間かかるかも……」
「難儀な性格だな」
そうだよな、日本人の悲しい習性だ。
「ブライトさ……ブライトは、勇者なんですよね? 勇者ってなんなんです?」
「何、と言われてもな……魔王の殲滅を目指し、国のために戦う者のことだ。僕は勇者の家系に長男として生まれたので、生まれた瞬間から成人を期に諸国を巡ることになっていた。まあ、王族の宿命だな」
マジか。
勇者すごいな。
っていうか、王子!?
リアル王子様!?
すごい、初めて見た。
「魔法師団は自治組織だから国のためには動かない。君と君の……ペットが力になってくれるならこの国にとって、いや、僕にとってとても有難いんだ。よければ、どうか一緒に旅に出てくれないか」
ブライトはどことなく言われてみれば高貴な感じのする口角をあげて、俺を勧誘した。




