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…… 青天の霹靂 1




夜会は苦手だ。

だから滅多に顔を出す事はない。


今夜来たのは先々代の公爵夫人に来るよう『 お願い 』されたから。

 …… もちろん断る事はできる。


でも断れば、もっと面倒な事をお願いされる。

すでに経験済みの事だった。


人で溢れかえった広間を見渡した。

なるべくお開きの時間近くに …… と思ったのが仇となった。


これほど人がいて小柄な先々代公爵夫人を見つけるのは、大変だろう。

階段の上からジェイソンはゆっくりと視線を走らせた。

 ……そして。






長身に薄茶色の髪。

 …… 優しく連れの女性に微笑む横顔に見覚えがあった。

どんなに彼になりたかっただろう。

俺の大切な人の心を盗んだドロボウ野郎。



ずっと好きだった。

あの人も好きだと言ってくれた。

きっと迎えに行くからと言うと、あの人は笑った。



幸せになったと思ったのに。

なぜ、あの人じゃない女を連れている?

あの人と雰囲気はにてるけど

ずっと若い女。




俺は酷く混乱していた。

あの人はずっと遠くに去ってしまって会えなくなった。

 …… 幸せだったんじゃないのか?

親しげに顔を寄せ合って話す二人に、いつしか我を忘れていた。

あの男の後ろ姿を見送って若い女に近づく。




 「 …… ねえ君、さっきの男なんか忘れて、私の愛妾にならないか? 」




視線があった瞬間、欲しいと思った。

肉感的な身体ではない。

むしろ少年を思わせるバネの効いた身体。

一瞬の間に湧き起こった欲望に俺は我を忘れて、声をかけていた。



 …… どうかしていたんだと思う。

見ず知らずの令嬢に暴言を吐いた。

 …… というより多分あの人の娘に。

心の中は絶望の嵐に苛まれていると言うのに冷静に答える俺がいる。


いきなり叩かれ、痺れる頬。

覗き込んだ瞳は怒りで燃えている。

 …… 素晴らしいな、俺のドラゴン ……

きっとベッドの中でも激しく燃えることだろう。











 「 …… いったいどうしたの? …… ジェイソン。 」

 「 …… おばあさま。 …… とんでもない所を見つかりました。 」

 「 …… そうでもないわ。 …… 人が恋に落ちる瞬間を見るのは初めてだもの。 」



先々代の公爵夫人が悪戯っぽく微笑んだ。

孫を溺愛している癖に、それでも虐めずにはいられない。

いくつになっても子供のような無邪気さをみせる。

 …… でもそれは見せかけで誰よりも策略家なのだ。



 「 …… あの娘を知っているんですか? 」

 「 …… よくは知らないわ。今年、伯爵の娘と姪がデビューするってことしか。 」

 「 …… それで私を呼んだんですか? 」

 「 …… 良かったでしょ? 今日、出会えて。 」



最悪の出会いを目にしたと言うのに何を言うのか。

先々代公爵夫人には退屈しのぎの一幕にしか見えないのか。

 …… たぶんもう無駄とは知りつつ、なんでもない顔をする。

どのくらい動揺しているのか、俺より把握しているだろう。

物心つく前から知られているのだから。



 「 …… そろそろ失礼しますよ。約束があるので。」

 「 …… それなら、伯爵に挨拶して令嬢と踊ってからになさい。 」

 「 …… な、なぜです。 」 

 「 …… そのくらい取り繕えずにどうするんです。 …… 公爵ともあろうものが。 」



まるで何事もなかったように、挨拶を交わし令嬢にダンスを申し込んだ。

断られる事もなく、小柄で華奢な令嬢とワルツを踊った。

羽のように軽く踊る令嬢とは何も話さなかった。

 …… 話さなくても、彼女の目は非難の言葉で溢れている。


社交界の当たり前より令嬢と従姉妹は親しいようだ。

 …… 二人の間に似た所は、見て取れなかったが。






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