第二十話
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目が覚めると目の前に大きな月が飛び込んできた。
一瞬自分がどこにいるか分からない。起き上ろうとして裸なのに気付く。
「目が覚めたか?」
ガウンを着こんだ槇岡がグラスをかき混ぜているのが見えた。
「フルーツジュースだ。酔い覚ましに」
肌を見せるのが気恥しく、私はシーツで胸を覆ってグラスを受け取る。
頭のどこかに靄のように昂ぶりの跡が残ってる。
「月が……すごいわね」
隅のデスクに小さな明かりがともされているだけだった。
薄闇の中で月明りがベットの私と槇岡を照らす。
「ちょうどいい時に来たな」
「ここもサンルーフみたいになってるのね」
窓から天井の半分までがガラス張りで見通せる。
ここまでの美しい月は見れたのは久し振りだ。
ビルの谷間に暮らしてるとほんとに夜空を見上げることすら忘れる。
「…………」
しばらく私たちは月の彩りに浸った。
この白い輝きは未来をいい方に暗示してくれてるのだろうか。
肩に回された槇岡の腕の温かみ。
「……あなたがそばにいるって分かる」
分厚い胸板と体温がしっかりと新しい恋人を意識させる。
幸せと言えば言えるかもしれない。
でも決して目を背けることのできない一つの重荷。
自然とため息がもれた。力なくジュースを口に運ぶ。
「莉奈のことは考えるな」
見透かしたように槇岡は言う。
「うん……」
こうなった以上逃げることはできない。
もう行き先には一つの道しかない。
槇岡は私の頭を引き寄せて自分の額にくっつける。
「俺がなんとかするから」
あらがう気力もない。今は面倒なことは考えたくなかった。
ただそばにいる槇岡を感じていたい。
包むかのように分厚い胸に頬を預け、そっと目を閉じた。