第二十一話
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昼休憩でバックヤードに戻ると携帯が鳴った。
「莉奈」の名前に心臓が止まりそうになる。
通話のボタンに指をあてたまま動けない。
話せない…… なんて言えば……
身体が汗ばんでくる。
(どうせいつかは告げないといけない。逃げてても仕方ない)
息を整えてからボタンを押す。
「もしもし」
声が震えないように努力した。
「お姉ちゃん。どうだった? 話してくれた?」
はじけるような莉奈の声が飛ぶ。
「あっ、ごめん仕事中だったよね? 今大丈夫?」
少しはこっちを慮るようになれたのは進歩だ。
「……休憩中だから。話してもいいわ」
「なんて言ってた?美津」
「うん……」
口の中がかさかさに乾く。
罪悪感。うしろめたさ。鉛のように舌が重い。
「私の悪口か何か言ってた?」
「そんなことはないわ」
「よかった。で、なんで距離を置きたいって?」
「…………」
(お姉ちゃんの方が好きだからよ。あんたより)
絶望的なまでに心に響く真実。
「……よく分からなかったわ」
「えー」
「何かあることは確かだけど……はっきり分からなくて」
「も~それを知りたいんだって。美津が言わないから。だからお姉ちゃんに頼んだのに」
いつもならそこまでやるだろう。でも今回は莉奈の後始末役ではない。私が当事者なのだ。
「もう一度ね、三人で話しましょう。それが一番いいと思う」
「……そうよね、それがいいかも。今週の週末は? だいじょうぶ?」
「いいわ」
「また美津の別荘かどこか……お姉ちゃん近いところがいいわよね……後でメールしとく」
甘えるように莉奈は続けた。
「私だけじゃダメかもしんないし……お姉ちゃん、横からフォローしてね」
「……分かったわ」
後味の悪い食べ物を口にしたような不快感が電話を切ってからも尾を引いた。
莉奈は信じ切っている。
自分に向けられる愛情に疑問を抱いてないのだ。
――私を疑うことなどこれっぽっちも考えてもいない。
思わず手のひらで顔を覆って壁によりかかる。
一緒になってから一度も莉奈と心が離れたことはない。
私たちの間に愛以外のものは何もなかった。ずっと。
莉奈の愛を望めば槇岡の愛は得られない。
槇岡の愛を思えば莉奈の愛を無くしてしまう。
(……どうすればいいの?)
私たちは二つで一つなのだ。
離れ離れになって生きていけるわけがない。
『莉奈を守ってあげてね』
遠い日の思いが私の心を軋ませた。




