3話・盗賊達との戦い
「トレース・スタート!」
二人のスキルをまとめてトレースする。
直後、ドクンっと何かが入り込む。
う……なんだ、これ。
「おらあっ!」
その隙にリュウジが短剣術で迫り来る。
俺は【回避】スキルで射撃を冷静に躱わし、リュウジの背後に控えるガルダムに向かって跳躍した。
「……く、くそ!」
デタラメに魔法を放ってくるガルダム。
しかし魔法である風の塊は一つも当たらない。
結果、跳躍の威力を含んだ怪力パンチでガルダムは何も出来ずに沈んでいった。
これで、厄介な魔法使いは処理出来た。
「いくぞ……風よ!」
【魔法・風】を使う。
風の塊が三つ形成され、リュウジ以外の盗賊に直撃する。
瞬間、体の中から何かが減る感覚に戸惑う。
そうか、これが魔力か。
さっきのも魔力が増えた影響か。
なんて思いつつ俊足でリュウジの間合いに飛び込む。
怪力に加え、部分強化で強化された腕力から繰り出される剣術の猛攻にリュウジは押される。
リュウジの肩めがけて剣を振り下ろす。
彼は短剣でガードするが、短剣ごと叩き壊して右肩を剣で斬り落としてしまう。
鮮血が飛び散り、周囲を赤で染め上げる。
「ぐわあああああああっ⁉︎」
倒れるリュウジ。
気にせず残りの盗賊目掛けて突っ込む。
「はあっ!」
盗賊の一人を斬りつける。
倒れる盗賊の首元を掴み、盾のように振り回しながら他の盗賊へ投げ飛ばす。
肉と肉がぶつかる音。
そこへ思い切り剣を投げる。
串刺し肉の串のように綺麗に突き刺さる剣。
盗賊二人は苦しみながら地面に伏せた。
「あ、ああ、ああああっ⁉︎」
最後に残された盗賊が、悲鳴をあげながら特攻してくる。
悪いな、盗賊になった自分を恨んでくれ。
リュウジからトレースしたスキル、格闘技術を使う。
何の拳法か分からないが、それらしいポーズを取りながら盗賊の攻撃を紙一重で躱す。
そして素早く盗賊の手首を掴み、投げ飛ばす。
更に地面に叩き伏せられる直前に、片足で顔面を思い切り蹴り穿つ。
鼻が折れたのか、はたまた顔の皮膚が切れたのか、とにかく盗賊の血が大地を汚す。
「ふう……」
一息つく。
周りには成すすべなく倒れた盗賊達。
誰がどう見ても、俺の圧勝だった。
「き、君が全員倒したのか?」
「そうです」
衛兵が来たのはそれから数分後。
その頃には野次馬も集まり相当数の人混みが出来ていた。
ザワザワと周囲の人間が俺を見る。
「凄い強い子……誰なんだろう」
「オレ、昨日祝福の儀式に並んでるの見たよ」
「嘘、じゃあまだ成人したばかり⁉︎」
衛兵に盗賊達を引き渡す。
中々悪くない気分である。
しかし次の瞬間、その気分は吹き飛んだ。
「すみません、謝礼を渡す為にもお名前を教えてください」
「あー、えーと……スペードです。ただのスペード」
俺が自分の名前を言う。
すると、周囲がさっきとは違う雰囲気へと変わる。
盗賊を退治したヒーローから、犯罪者の親族に向ける蔑みの視線へと。
「え……あの犯罪者夫婦の息子じゃない」
「うわあ、やっぱり息子も乱暴なのね」
「盗賊を退治したのも、どうせ気まぐれだろ」
ひそひそ、ざわざわ。
野次馬達は俺の両親の話題を中心に盛り上がる。
強姦魔と殺人犯の息子。
それが、長らく俺を縛る呪いの称号。
ここまで鮮やかな手のひら返し、見た事が無い。
分かっていた、分かっていたさ。
所詮、俺の評価なんてこんなものだと。
俺はギロリと野次馬共を睨む。
もう、遠慮なんてしない。
俺は能力看破を発動し、ステータスを覗く。
そして、全てのスキルをトレースした。
ステータスにどんどんスキルが追加されていく。
ざっと見て三十人はいるから、その三倍……被りも含めて九十前後のスキルを俺は手に入れた。
最初はやっていいのか、悩んでいた。
何だか他人の才能を盗むみたいで、黙ってスキルをトレースするのは控えようと思っていたけど……お前らがそういう態度を崩さないなら、もういい。
この町……いや、世界中のスキルをトレースしてやる。
そして国王を超える最強の人間になるんだ。
コピーしたスキルは、俺が大切に使ってやるからさ。
「……謝礼は全部、壊れた宝石店の修繕に使ってください」
衛兵に告げる。
今日はもう帰ろう。
初めての戦闘も出来たし、方針も決まった。
もう用は無い……
パチパチパチ
「キミ、凄いね」
「……え?」
突然拍手と共に声をかけられる。
振り向くと、一人の少女が立っていた。
それも凄く綺麗で可愛い女の子。
金髪ポニーテールに青い瞳。
肌は白く、身長も高め。
どこかの令嬢と思ってしまうが、軽装ながらも防具で身を固めているので違うだろう。
「複数人を相手にあそこまで戦えるなんて、凄い。私達のギルドでもそういない」
「え、あ……どうも」
美人相手なので緊張してしまう。
けど、それ以上ーー褒められたのが、嬉しかった。
「誇っていいんだよ、お店の人と財産を守ったんだから」
少女は宝石店の人達を見る。
俺は野次馬達の怒りで見えていなかったが、彼らだけは頭を下げてお礼を言ってくれていた。
……少しだけ、溜飲が下がる。
野次馬に惑わされるな。
俺は俺だ、周囲の評価なんて気にしなければいい。
それに、いつかこの町も出る。
一々気にする必要すら無いんだ。
「あの、ありがとう。なんか、助かったよ」
「? 助けたのは、キミでしょ?」
「ハハーーああ、そうだな」
少女のステータスは覗かなかった。
そういう気分じゃないから、な。
◆
「成人したての少年が、複数人の盗賊相手に無双か……」
「どう見ます?」
「何か秘密があるんだろう」
「それは、そうでしょうな」
二人の男が密談を交わす。
話題はスペードについてだった。
「能力看破も解体技術も、戦闘向けスキルではない……となるとトレースというスキルの方に、とてつもない秘密があると見て間違いない」
「監視を続けますか?」
「ああ、また今回みたいな事が起きたら報告しろ。その時は直接、接触してもらう」
「はっ!」
陰謀の嵐は、スペードを巻き込もうとしていた。