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異世界の落ちこぼれは決意するようです。

『カルミア=ヴァン=ミェール』

旧サロンに突如乗り込んできたこの女は、俺の妹を取り返してやると言ってきた。


何故知っているのか、何を知っているのか、謎は残るものの、俺はこの女の話を聞いてみることにした。真偽を判断するのはそれからでも遅くない。そう考え、彼女の向かいに座った俺は、心に秘めた大望を叶えるための彼女の『計画』を聞くことになる。


◇◇◇◇◇


「おいおいおいおい、待て待て待て待て。何言ってるんだ?あんたこの国を滅ぼす気か?」


彼女の計画とやらを聞いた俺は椅子の背に大きくもたれながら両手を振った。あまりにもスケールの大きすぎる話だ。


「ふふふ、ご冗談を。ワタクシの目的は飽くまでも女性公爵という肩書きですわ。まぁ確かに、これを手にする過程で国の一つや二つ滅んでしまうかも知れませんが?」


冗談めかして笑う彼女。

しかし彼女の瞳は、俺には公爵よりも遠いものを見つめているような、そんな気がした。


「……それはあんたの本当の目的なのか?」


ほぼ無意識に口が動いた。俺の言葉を聞いたカルミアが小首を傾げる。


「と、言いますと?」

「俺にはなんだか……あんたが欲しているのは公爵という肩書きよりも、この国を滅ぼす事な気がしてならない」


ここで初めて、来てからずっと崩さなかった彼女の微笑みが消えた。俺の言葉に、彼女は少し動揺するような素振りを見せてから、俺と合わせていた目を(うつむ)けた。自然と彼女の肩下まである紅髪がさらりと揺れる。


「…………その話は契約した後、でいかがですか?」


彼女は目を俺と合わせないまま、少し間を開けてからそう言った。

俺は初めて聞く『契約』という不穏な単語に引っかかりを覚えながらも首を縦に振り、再び口を開いた。


「で、本題だが……あんたの『計画』とやらに俺の妹の名前が一回も出てこなかったんだが、どういう事だ?」


彼女は顔を上げると、また先程のような不遜な態度に戻り、妖しげな笑みを浮かべた。


「簡単なお話ですわ、貴方がワタクシの臣下になればいいのです。それと引き換えに、貴方の妹さんを変態公爵から取り戻すお手伝いをさせて頂きますわ」


彼女の物言いに、一瞬言葉を失った。彼女が言った事は何の保証も無いのと同じだ。妹の救出を餌に、彼女の奴隷として使い潰される。そんな自分の姿が頭に浮かんできた。


「それが『契約』か?」

「ええ、これが『契約』です」


俺の言葉にこともなげに頷いた目の前の女に、先程の怒りが腹の奥で再燃する。しかし俺がどれほど睨んでも、彼女は涼しげな顔のままだ、その事が更に怒りを増幅させた。


「もちろんこれは強制ではありませんわ。なので断って下さっても構わなくてよ?」

「当たり前だ!俺はあんたの駒に成り下がるつもりは無い!」


机を強く叩きつけ、妖しげな目で微笑んだままの彼女にそう怒鳴ると、彼女は微笑みを崩さぬまま、机の上に両肘を置き指を組むと、その上に顔を乗せた。


「ふふふ、流石は侯爵位令息、ご立派なプライドですわね。確かにワタクシに協力して、妹さんが帰ってくる保証はありませんわ。しかし、なんの役にも立たないプライドを抱えてこんな薄暗い所で本を読んでいるより、どれほどマシでしょう?」

「な……」


反論出来なかった。彼女の言葉は鋭く、それでいて深く俺の心を抉った。プライド、妹、天秤にかけるまでも無い。だが、この時になっても俺は彼女を信じるべきか未だに迷っていた。ほんの数秒の葛藤、しかし俺は、とても長い時間考え込んでいたように思う。

すると唐突に、彼女の笑みが消え、目に強い光が宿った。


「貴方が動かずして誰がやるのです。動かない、というのはこの世で最も愚かな選択でしてよ」


もちろん俺に向けた一言。しかし彼女は、同時に『自分自身』にもそう言い聞かせている気がした。






































「分かった……あんたに手を貸そう。」


俺の言葉に彼女は、まるで元からそうなる事が分かっていたかのように、微笑んだ。


◇◇◇◇◇


「それではプランのご説明をさせて頂きますわ」

「は?プラン?」

「えぇ、契約を結ぶという事は決定しましたが、どういう契約内容を選ぶかはあなた次第。という事ですわ」


そう言うと彼女は、指を二本立てて見せた。


「一つは、短期型。こちらは妹さんを助け出すまで私に仕えて頂きますわ。当然、貴方は最早ワタクシの計画の一部、計画が軌道に乗るまで仕えて頂くため、従って妹さんの救出も遅くなります」

「……もう一つは?」

「もう一つは長期型。ワタクシの計画が終わるまで半永久的に仕えて頂きますが、その代わり準備が出来次第すぐに妹さんをお助け致しますわ」

「なるほど……二つのうちでは『リリー』の救出にどのくらいの差が出る?」


するとカルミアはこの簡単な質問に、困ったように顎に手を添えた。


「ええと……どのくらい?ですわよね。はい、その……ワタクシにはあまり詳しい事は分からないのですわ」


途端に歯切れの悪くなったカルミアに首を傾げるルーン


「ん?分からないってアンタが計画を考えたんだろ?」

「いや、その、私であってワタクシでないと言うべきですわね……」

「???」


カルミアは、諦めたかのようにため息をついた。


「実はワタクシは、『二人』おりますわ」


◇◇◇◇◇


「う〜ん………」


話を聞いた後、ルーンはずっと頭を抱えていた。一方澄ました顔のカルミアは、カルミアの二重人格の話を聞きながらルーンが淹れた紅茶に、角砂糖を三つも入れたものを飲みながらプリンを食べている。


「お分かりになりまして?」

「ちょ、ちょっと待ってくれ、頭が混乱している。つまり?アンタの中には人格が二人いるんだな?」

「えぇ」

「見分け方は?」

「見分け方……そうですわね……実際見てもらった方が分かると思いますわ」


そう言うと、カルミアは少し目を閉じると数秒してから再び目を開いた。


「初めまして」

「お、おぉ……」

(わたし)がカルミアです」

「おぉ……」

「違いが分かりますかね?私としては自然体にしてるだけなんですけど」

「なるほど……分かる気がする……演技じゃないんだよな?」

「違いますね、一応記憶は共有できますけど考えてる事は共有出来ないようになってますから、あ」


そこで机の上の紅茶の存在に気づいたカルミアはティーカップを手に取り口をつけて一口、とそこで勢いよく紅茶を吹き出した。


「甘っっっつつつ!!!???」


当然一番被害が甚大なのはルーンだ。カルミアが慌ててハンカチを手渡そうとするものの、ルーンはそれを手で抑え、自分のハンカチを取り出した。


「自分で角砂糖入れてたぞ?覚えてないのか?」

「あ〜なんていうんでしょう?ざっくりとした記憶は分かるんですけど細部までとなると分からないというか……いや、本当申し訳ない事を……」

「ふーん……なら俺との記憶はどこまであるんだ?」


自分のハンカチで口元を拭きながら謝るカルミアに、ルーンが訊ねる。カルミア曰く


「君が『契約』に同意して二つのプランによる妹さんの救出にかかる時間の違いを聞いたとこまでです。言うなれば記憶の重要度によってどの『記憶』が引き継がれるかが変わってくるわけですね。あ、悪いんですが紅茶淹れ直してくれません?甘くないやつ」

「少し待ってくれ」


そう言うとルーンは、ブレザーの内ポケットから手帳とペンを取り出して、何か書き始めた。


「ペンなんて持って、何をしてるんですか?」

「二人の違いを書き留めている。これから俺の上司になる人間の事だ、しっかり把握しておかないとな」


カルミアが体を伸ばして覗き込んだルーンのメモには、1とかかれた四角と2と書かれた四角があり、四角の中には二人の特徴が書き入れられている。


「2が私のようですね?」

「そうだ」

「じゃあ私の欄『表』と書き直しといて下さい、彼女の方は『裏』に」

「そうやって呼びあってるのか?」

「はい」


しばらくして完成した表はなかなかどうして、よく出来た物となった。しかし一番表を良く見つめているのは当のカルミアだった。


「そんなに表が気になるのか?」

「いえ、なかなか興味深いと思いまして……なるほど、二人の対比がよく分かります。君をスカウトしたのは正解でしたね」

「俺をスカウトするようにさっきのアンタに指示を出したのはアンタなのか?」

「……ややこしいですが……ま、概ね正解ですかね。彼女は実行役、私は『計画』を組み立てた本人です」

読者さんから『表』と『裏』のカルミアの違いが分かり難いという意見を頂いたので、今回本文でも割と差別化を図ってみました。

一応今まで本文に出てきた二人の違いをまとめたので少しでも読んでいただけるとこれからの話が分かりやすいと思います。


『表』

・ですね、で話を終える事が多い。基本ですます口調、親しい人にはタメ口


・一人称は『わたし


・甘い物が苦手


・ルーンの事を『きみ』と呼んでいる。


・!を良く使っている。


・『計画』を組み立てた本人らしいが?


『裏』


・ですわ口調、親しい人にも安定の『ですわ』


・一人称は『ワタクシ』


・甘い物が好き、異常なくらい好き


・ルーンの事は『貴方』呼び


・!を使うことがほとんど無い


分かっていただけたでしょうか?一番分かりやすいのは一人称だと筆者は思います。


これからも『異世界令嬢は前世の記憶を消したいようです。』をどうぞよろしくお願いします!

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