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異世界令息は幼馴染が気になるようです。

PV7000越え記念という事で、活動停止中ですが投稿させて貰いました。

本編より7~8年程前のカルミアと幼馴染のニアの話です。

「恵まれてんのよ、あんた」


白粉を顔に丁寧に叩きつける鏡越しの姉に言われた。


「顔以外は何も冴えないのに長男ってだけでこの家の跡取で。しかもあんなに可愛い婚約者まで……」

「まだ確約はされてない、幼馴染ってだけ」


姉の髪を櫛ですきながらぶっきらぼうに言い返すと、姉がぼやいた。


「あ〜ぁ、私が男だったらなぁ〜、面倒な晩餐会なんて出なくて済むし、なによりカルミアちゃんとの結婚が約束されてるのよ!?一日中ペロペロし放題よ」

「だからまだ婚約者じゃないって言ってるだろ!」


15歳が9歳の同性に抱く感情がペロペロでいいのか、というツッコミはさておき、『ニア=ディス=ティーレ』は近くに住む紅い髪の幼馴染の顔を思い出していた。


「ま、あんたには勿体なすぎる相手よね、カルミアちゃんすごく大人びてるし。ほら出てって、髪は終わったんだからあんたの役目はここで終わりなの!」

「自分で手伝わせといてそりゃあんまりだろ!?」


自分を締め出した無表情な扉を、恨みがましく睨めつけたニアは、ぶつぶつ言いながら先程の姉の言葉を思い出していた。


「オトナびてるって大人っぽいっていう意味だよな…」


『カルミア=ヴァン=ミェール』確かに少し不思議な所のある幼馴染だ。時々、ふふふと笑う仕草は姉の言ったとおり『オトナびている』


「でも……」


プリンが好きなのは大人なのだろうか。かくれんぼが好きなのは大人なのだろうか。そんなカルミアの一面を知っているニアには、カルミアも年相応の少女に思えた。


「カルミアは……オトナびてる子が好きかな?」


ふと頭に浮かんだその疑問を、すぐに確かめようと思える程度には『オトナびている』ニアだった。


◇◇◇◇◇


「カルミア!カルミア!」


自分の家より二回り小さいヴァン=ミェール家、その正門をくぐり、真紅の薔薇の咲き乱れる、昼下がりの中庭を走る。


「おや、坊ちゃん。お嬢様なら自室におられるそうですよ」

「ありがと!」


麦わら帽子を上げて挨拶した初老の庭師に気忙しくお礼を言うと、そのまま見知った幼馴染の家の中を駆け抜ける。


「まぁ!坊ちゃま!」


途中でカルミアの家の唯一のメイドであるメイド長に呼び止められた。


「蝶ネクタイが曲がっております!それに髪も!走ってきたのですか?ボサボサになっているではないですか!!」

「カルミアは!?」


ニアの問にメイド長はため息をつくと、櫛を片手に膝立ちになり、彼の格好を整え始めた。


「坊ちゃまは本当にカルミアお嬢様の事がお好きですねぇ、しかし紳士たるもの常に身支度はしっかりとなさねばいけませんよ」

「…………やっぱり…オトナびてた方が良いの?」

「ま!?……」


メイド長は少しびっくりしたような表情になってから、何かを察したのか、微笑んでからニアのくせっ毛を優しく撫でた。


「人間、自然が一番です。無理にする必要はありませんわ、お嬢様はご自分の部屋にいらっしゃいますよ、何か髪型の事でお悩みのようでしたけど……」

「分かった!ありがと!」


走り出してから、何かを思い出したかのように立ち止まる。

(紳士たるもの常に気を配ること…)

整えられた髪型を気にしながらのぎこちない早歩きを、微笑ましく見つめるメイド長だった。


◇◇◇◇◇


コンコンというノックの音と引き換えに、カルミアの声が聞こえる。


「誰?」

「カルミア!?僕だけど!あのさ!突然なんだけどカルミア好きなタイプって…」

「あらニア、良いところに来たわ。さぁ座って、少し手伝ってもらいたいの」

「え?あ、うん……」


出鼻をくじかれた勢いそのまま、ニアは改めて紅髪の幼馴染を見つめた。


彼女の代名詞でもある艶やかな紅髪に、理知的な感じを思わせる紫水晶の瞳、紅をひいてもいないのに赤い唇は、本当に子供かどうかすら疑わせる程だ。


毎日見ているはずの彼女の容姿に、その日は何故か妙に緊張していると、ある違和感に気づいた。


「あれ?今日は髪を結んでないの?」


カルミアといえば、毎日別の髪型にしては、自分に似合うかを研究するのが彼女の日課ではなかったか。


「ちょっと今日の髪型は難しいのよ、メイド長に手伝わせたんだけどどうも上手くいかなくて」

「ふーん……」


彼女の目の前の三面鏡の前には、一枚の絵が無造作に貼り付けられている。カルミアが描いたものなのだろうか。


「その髪型って、これ?」

「そうよ」


どうやら自分の髪を纏めて、左右に二つの三角錐を。丁度正面から見たら猫の耳になるように結い上げたいらしい。


「ニアは髪結いが得意だったわよね?手伝って頂戴」

「え〜……これかなり難しいよ?メイド長さんにも出来なかったんじゃ、僕にも出来るかどうか…」

「出来るかなじゃなくて、やるの」


櫛やらなんやらと共にぐいと押し付けられた言葉は、有無を言わせぬ響きを帯びていた。


◇◇◇◇◇


「この髪型ってカルミアが考えたの?僕、今まで見た事ないんだけど?」


紅髪と悪戦苦闘しながら素直な疑問をカルミアに投げかける。するとカルミアは、ふふふと笑いながら手元の本を閉じた。


「そうね、そんな感じよ。」

「?そんな感じって?」

「それは……あ、ちょっと!痛いじゃない!」

「ごめん!」

「もっと集中してやりなさいな」

「わ、分かったよう……」


少し誤魔化された感が無いわけでも無かったが、ここで怒らせたらろくな結果にならない。それでなくてもカルミアには嫌われたくない。ニアには、この幼馴染に従うという選択肢しかなかった。


それからさらに数時間……流石に日も傾きかけた頃である。


「出来たぁ!!!あ〜〜……疲れた……」


疲労困憊して倒れ込むニアを横目に、カルミアは今度は三面鏡を相手に色んな方向から髪型を確認していた。


「あら、なかなか悪くないじゃない」

「本当に!?」

「えぇ、ニア。あなた初等学校に行くのやめて理髪屋になったら?」

「やだよ!」


ニアは体を起こして幼馴染を見つめ直した。数時間格闘して完成した少し不格好な猫耳は、確かに彼女に良く似合っている。事実彼女は、これから数年間の長きに渡ってこの髪型を愛用するのだが……


「うん、今までで一番良く似合ってる髪型だと思うよ」

「そう?」


ニアの言葉に相槌を打ったカルミアは、どこか上の空でこう呟いた。


「ふふふ、まるで……」


窓から差し込む西日に照らされる彼女は、いつもよりずっと、大人びて見えた。

ベゴニアの花言葉

優しさ、片思い

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