異世界令嬢は部下を手にするようです。
ギリギリGW中に出せました。
妹を助けるため、カルミアに忠誠を誓ったルーン。
しかし、カルミアの旧サロンに来た目的は、まだ終わってはいなかった。
◇◇◇◇◇
「顔を上げてください」
カルミアの言葉に、跪いたままのルーンが顔を上げる。カルミアは椅子から降りると、ルーンの手を優しく両手で包み、微笑みを浮かべた。
「君のその言葉、とても嬉しいです。ありがとうございます。私には今、君の信頼へ返せる物が何もありません。ですが、いえ、だからこそ君の妹は絶対に助けます」
「頼んだぞ」
「はい」
跪いた状態から、ルーンが立ち上がったのを合図とするかのようにカルミアが椅子に座り直し、目を閉じる。それを変に思ったルーンが声をかけた。
「?おい、どうしたんだ?目なんてつぶっ…」
「随分と長話でしたわね」
「うわ!?なんだよ、アンタに入れ替わったのか……びっくりさせるな」
大袈裟に飛び退いたルーンに、カルミアが頬をふくらませる。
「勝手に驚かれたのは貴方ですわ、全く失礼な……」
そう言うとカルミアは、テーブルの上に置かれた甘い方のティーカップに手を伸ばした。
「そもそもその『アンタ』とか『お前』という呼び方が気に入りませんわ」
「なら、なんなら良いんだ?『お嬢様』か?」
嫌味たらしく言ったはずなのだが、カルミアは、人差し指を頬に添え、真面目な顔をして考え込んでいる。
「そうですわね……敬称はあまり好きではありませんわ」
「ははっ、なら『嬢』か?」
「あら、その呼び方気に入りましたわ。これからは『嬢』と呼んで下さいまし?」
本気かよ……と呟くルーンに対して、カルミアは随分と御機嫌な様子で、紅茶を口に運んでいた。
◇◇◇◇◇
事実、カルミアは上機嫌だった。
ルーンを引き入れられたから、というよりは、自分の計画の歯車が目に見えて動き始めたからだろう。
(では、もう一仕事終えてしまいましょうか)
カルミアがおもむろに席を立つ。
「どうしたんだ?…じ、嬢」
嬢という言葉をつっかかりながらも出したルーンに、カルミアは背中越しに声をかけた。
「貴方、木箱を一つ持って着いてきて頂けるかしら?」
◇◇◇◇◇
計画を遂行するにあたってカルミアは、自分の手足となりうる大きな組織を必要としていた。しかし組織というのは厄介なもので、巨大化すればする程、脆くなる性質を持っている。それはあの忌々しいヤクザの記憶が反面教師となってくれた。
しかし、組織は最初から巨大なのではない。小さい物が周りのさらに小さい組織を吸収したり、小さい物同士が合併して巨大化していくのだ。
故に、組織を作るにあたって最も重要なのは最初の者達だ。最初から脆い関係であってはいけない、巨大化したら一瞬で崩壊してしまうし、巨大化する前に崩壊してしまうかもしれない。
しかし今、カルミアの目の前には、『落ちこぼれ』という強い仲間意識で繋がった数十人の生徒がいる。
そしてカルミアは、その『落ちこぼれ』という名前の組織を自分の物にしようとしていた。
◇◇◇◇◇
ドアノブの軋む音をたてながら、旧サロンの物置から出てきたカルミアと、何故か木箱を抱えたルーンに、落ちこぼれ達の視線が集まる。
「この当たりでお願いしますわ」
カルミアが指さした場所は、丁度旧サロンの中心だった。指示された場所に、ルーンが頑丈そうな木箱を置く、ただそれだけ。しかし、旧サロンの落ちこぼれ達にはざわめきが走った。
旧サロンのヒエラルキーというのは、その者の強さで決まっている。三年生といえど、一年生に負けたらその三年生は一年生の使いっ走りとなるのだ。(これを知った時、裏のカルミアは「まるで猿山ですわね」と笑っていたが)
そして旧サロンで最も強者だったのが、『ルーン=ディズヌフ=タンペット』という男だ。それがたった数十分で、女の荷物持ちと化している。彼等に与えた衝撃は如何程だったか。
そんな落ちこぼれ達の動揺を知ってか知らずか、その木箱の上に立ったカルミアは、ぐるりと旧サロンの落ちこぼれの面々を見渡した。
不安、反感、表情は様々だが、全員に言える事は、この訪問者に対して敵意を抱いているという事。
その敵意の塊となった者達に向かいカルミアは口を開いた。
「学園全員からの嫌われ者の皆様」
敵意がその一言で、一気に鋭いものへと変わる。ここは腐っても貴族といった所か。
しかしカルミアは臆する事なく言葉を紡いだ。
「今の嫌われ者という言葉は、何も皆様の事だけを指しているのではありませんわ。ワタクシとしても、人によっては皆様方より私の事を嫌っている方もいらっしゃるぐらいですわ、残念な事にね。
皆様とワタクシは嫌われ者同士、そこを理解して頂いた上でお話がございます」
カルミアはそこで一旦言葉を区切り、あの妖しげな笑みを浮かべた。
ワタクシと世界を変えませんか?
◇◇◇◇◇
カルミアの喧嘩を売るような形で始まった、旧サロンの落ちこぼれ達へ向けた演説を聞きながらルーンは、先程の『表』のカルミアが言った『力』という言葉を思い出していた。
カルミアの演説(説得と言いかえてもいいかもしれない)が始まって早数分、ついさっきまで、この一人の人間に敵意を抱いていた者達が、目に見えて変わってきている。カルミアの言葉一言一言に引き込まれ、今や全員がカルミアに、尊敬の念を抱き、キラキラとした瞳でカルミアを見つめている。これが力でなくて何なのだろうか。
(恐ろしい……)
ルーンは無意識の内に、『カルミア=ヴァン=ミェール』という人間に対して、ほんの少しの畏怖すら抱いていた。
◇◇◇◇◇
全員の視線が変わってきている。その事を肌で感じたカルミア『裏』は、己の弁を最高潮に振るっていた。演説は佳境へと入る。
「先程も言った通り、ワタクシ達は嫌われ者ですわ。皇太子や公爵、他の貴族に比べたら塵ほどの価値も無いと周りからは思われているでしょう。
周囲から理不尽な扱いを受け、馬鹿にされ、気づけば皆さんはこんな隅に追いやられている。これで良いのですか!?このままで!ここで『落ちこぼれ』とせせら笑われたままでいいのですか!?良いわけがありません!
塵芥といえど!我々には己を支える足がある!物を掴む手があり、言葉を発する口がある!『我々の存在意義』を世界に!見せてさしあげましょう!!落ちこぼれで世界を変えようではありませんか!!ワタクシと!共に!!」
カルミアは自身の言葉と共に強く右手を掲げた。
数瞬の静寂、そして…
「「「「「オオオオオオオオオオオオオオオーーーーーーーッ!!!!!!!!」」」」」
大勢の人間の歓声が、旧サロンを揺らした。
次回、少し遅くなります。
感想、そこそこ欲しいです。




