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人生、だいたい想定外。~創作・育児・日常エッセイ集~

五歳、まだ喋らない。だけど最近、よく笑う

作者: 白鐘
掲載日:2026/05/29


■朝・佐倉家


午前六時十二分。


キッチン。

ジュウウ、とフライパンの音。


「焦げる焦げる焦げる!」


ママ、菜箸を振る。

卵焼き、半分崩壊。


背後。


「ママー!みて!くつした!」


妹、片足だけ履いた靴下を掲げている。


「すごいねぇ!でももう片方どこ!?」

「しらなーい!」


リビング。

パパ、ネクタイを締めながら冷蔵庫を開ける。


「……麦茶、ない」

「昨日飲み切ったー!」

「補充文化が我が家には存在しない…」


ソファ。

長男、ちんまり座っている。

膝の上。

青い電車のおもちゃ。


親指で、車輪を回す。


くる。くる。くる。


光を反射する銀色の軸。

回る速度。

指先へ返ってくる細かな振動。


テレビでは朝のニュース。

妹、急にソファへダイブ。


「にーに!しゅっぱつしまーす!」


長男、電車をぎゅっと抱える。

妹、きゃっきゃ笑う。

ママ、すかさず回収。


「はいストーップ!朝から脱線事故起こさない!」


妹、ぶら下がったまま抗議。


「でんしゃなのに!?」

「電車だからだよ!」


パパ、吹き出す。


その間も。

長男は静かだった。

怒らない。

泣かない。

笑わない。


ただ。

少しズレた連結部分を見つけると。

指先で、かち、と噛み合わせる。


それから床へ三両並べる。

等間隔、まっすぐ、ぴたり。


もう一度、先頭車両の車輪を回した。


カタン。 カタン。


同じ角度。

同じ順番。

同じ強さ。

一両でも向きがズレると、小さな手がすぐ直す。


ママ、ちらりと見る。

ほんの少しだけ。

視線が止まる。

でも次の瞬間には、


「あっ、やばっ」


卵焼き第二陣が焦げた。


「ぎゃー!!」

「ママまた!?」


「今日はスクランブルエッグ風ということで!」 「ただの失敗では?」


「違いますー!創作料理ですー!」


妹、大笑い。

パパ、弁当箱へ焦げ部分を詰めながらぼそっと言う。


「俺の昼飯、毎日アドベンチャーなんだよな」

「愛情は入ってるから!」

「炭も入ってる」


妹、椅子の上で跳ねる。


「たん!たん!たん!」


その横。

長男が、ふとママを見る。

ママ、気付く。

目が合う。

数秒。


長男は何も言わない。

でも。

そっと、自分の電車を一両だけ持ち上げて。

ママへ向ける。


「……あ」


ママ、受け取る。


「貸してくれるの?」


長男、小さく瞬き。

妹、即乱入。


「わたしもでんしゃやるー!」


長男、電車を抱えて逃走。

タタタタタ。


「まってー!」


と追いかける。

リビング横断。


パパ、コーヒー吹きかける。

ママ、笑う。



■保育園前


「はいはい靴ー!帽子ー!連絡帳ー!」


玄関。

ママ、半分しゃがみ込みながら戦争している。

妹、帽子拒否。


「むれる!」

「今日は暑いから被ってー!」


パパ、時計を見る。


「やば、俺そろそろ出る」

「ゴミ!ゴミ持った!?」


「あ」


ママ、無言でゴミ袋を押し付ける。

パパ、受け取る。


その横。

長男は、静かに靴を並べ直していた。


自分の。

妹の。

パパの。

つま先を揃えて。

少しでもズレると、また直す。


ママ、そっとその背を見る。


五歳。

まだ、言葉はほとんど出ない。


発達相談。

検査。

“自閉スペクトラム症”。


何度も聞いた言葉。

泣いた夜もある。

検索ばかりした日もある。


もう、受け入れている。

焦ってはいけないことも。

比べても意味がないことも。


ちゃんと分かってる。


それでも。


「おはよう」とか。

「ママ」とか。


そんな当たり前みたいな一言を、少しだけ。

ずっと待っている。


「ありがと」


長男は返事はしない。

でも、並べ終えたあと。

満足したみたいに、靴を一回撫でた。



■保育園


「おはようございまーす!」


先生、にこやか。

妹、元気いっぱい。


「きょうね!おべんとうにたまごいた!」

「卵いたんだ?」

「こげてた!」


「違うんです、あれは」

「創作料理ですよね?」

「先生まで!?」


笑い声。

その横。


長男は、ママの服の裾を握っていた。

ぎゅう。

先生、自然に視線を合わせる。


「おはよう」


視線を逸らす。

でも逃げない。

先生、そっと青い電車を受け取る。


「今日は一緒に車庫入れしようか」


ぴくり。

ほんの少しだけ、先生を見る。


ママ、その横顔を見る。

ほんの少し。

胸の奥が、柔らかくなる。


「じゃあ、お願いします」


裾を握る手が、ゆっくり離れる。


「ままばいばーい!!」


全力。


長男。

何も言わない。

でも。

ママが振り返ると。


小さく、電車を持ったまま手を上げていた。



■夕方・スーパー併設書店


パート終わり。


買い物かご。

特売の豚こま。

豆腐。

牛乳。

値引きシールの唐揚げ。


ママ、疲れた顔で歩く。

今日は安売りの日。

人が多い。


スーパー横の小さな書店。

なんとなく足が向く。


いつもの棚。

育児本。

離乳食。

発達支援。

児童心理。


しゃがみ込む。

指先で背表紙をなぞる。


『ことばを育てる親子コミュニケーション』

『発達がゆっくりな子との向き合い方』

『焦らなくても大丈夫』


見慣れた言葉。

何冊読んだか分からない。


少し笑う。


「……大丈夫、ねぇ」


小さく呟く。

一冊、抜く。

ぱら。


『まずは目を合わせましょう』


ぱら。


『優しく、ゆっくり、笑顔で話しかける』


ぱら。


『言葉を教えるのではなく、“通じた”を積み重ねる』


読む。

静かな本屋。

遠くでレジ音。


ページをめくる指が止まる。

端っこ。

手書き風の大きな文字。


『三日で変化がありました!』

『初めて目を見てくれた!』

『うちの子が声を出した!』


「……ほんとぉ?」


半分笑う。

でも。

閉じられない。

ページの向こう側に、ほんの少しだけ。

期待が見えてしまった。



■夕方・保育園


「ままーーーっ!!」


妹、ロケットみたいに飛んでくる。

受け止める。


「おかえりー」

「きょうね!きょうね!かぶとむしみた!」


「ほんと?」

「せんせいが“それはセミです”っていった!」


先生、後ろで笑っている。


その横。

長男は、青い電車を持ったまま立っていた。


しゃがみ込む。

今日読んだ本を思い出す。

“目を合わせて” “優しく” “ゆっくり”


少し照れ臭い。

でも。

柔らかく笑う。


「おかえり」


ぴく。

視線が揺れる。

一瞬だけ目が合って。

すぐ逸れる。


床、先生、壁、電車。

忙しそうに視線が逃げる。


ママ、ちょっとだけしょんぼりする。


その時。

くい。

服の裾。

長男が掴んでいた。


いつもより近い。

かなり近い。

ほぼ脚にくっついてる。


ママ、瞬き。

先生も気付く。


「あら」


長男、知らないふりみたいに電車を走らせている。でも離れない。

妹、乱入。


「にーに、まま好きー?」

「しーっ!」


ママ、慌てる。長男、無反応。

ただ、裾を握る手だけ、少し強くなる。



■帰り道


夕焼け。

妹、ぴょんぴょん歩く。


「まま!きょうからやさしくしゃべってる!」

「え、分かる?」

「わかるー!」


長男、ママの隣を歩く。

普段は少し前。

一定距離。


でも今日は。

袖が、たまに触れる。

離れない。


気付かないふりをする。

胸の奥だけ、そわそわしている。



■夜・寝室


「むかしむかし、あるところにー」


絵本。

妹、半分寝てる。

長男、じっと聞いている。

言葉を理解してるのか、してないのか。

分からない。


でも、ページをめくるタイミングだけは、なぜか毎回ぴったりだ。


読み終わる。

電気を消す。

薄暗い部屋。


妹、 いつも通り。


「てー」


小さな手。

ママ、握る。

安心したみたいに、すぐ眠そうな呼吸になる。


そっと長男を見る。

いつもなら、お気に入りの青いクッションの角を指で撫でながら眠る。

それがルーティン。


なのに今日は。

クッションが、少し離れた場所に転がっていた。


代わりに、長男が、ぴったりママにくっついている。


腕、肩、体温、全部。

隙間ゼロみたいに。


ママ、 固まる。


「……え?」


無言。

でも。

服を、きゅ、と掴んでる。


寝ぼけながら。

絶対離さないみたいに。


ママ。

心臓が、変な音を立てる。

隣で寝ていたパパ、小声。


「……なにこれ」

「分かんない」

「え、なに、今日どうした?」


長男。

眠ったまま、少しだけ顔を押し付ける。


思わず両手で口を覆う。


「えっえっ、待って。えっ?」


パパ、小声で笑う。


「ママじゃん」

「うるさい今無理」


「泣く?」

「泣かない」


「もう泣いてる」


目元、ちょっと濡れていた。


部屋の隅。

青いクッションだけが、ぽつんと置いてけぼりになっていた。



■土曜日・夕方


リビング。

テレビでは動物番組。


妹、 床に転がりながら大笑い。


「ペンギンころんだー!!」


パパ、 洗濯物を畳んでいる。

なぜか靴下が片方ずつ消えている。


「……また片方ない」

「洗濯機の妖精だよ」

「その妖精、靴下しか食わないな」


ママ、 キッチンから顔を出す。


「ごはんもうすぐー」


カレーの匂い。

いつもの家。

いつもの時間。


長男は、テーブル横に座っていた。

青い電車。


カタン。カタン。


いつもの音。


「ちょっとトイレー」


パパ、立ち上がる。

妹、即反応。


「いってらっしゃーい!」

「実況しなくていい」


パタパタ。

廊下。

トイレのドア。

バタン。


リビング。

テレビの音。

カレーの匂い。

電車の音。


カタン。カタン。


数分後。

パパ、戻ってくる。

タオルで手を拭きながら、何気なくリビングへ入る。


その時。

長男が、ふっと顔を上げる。


視線が合う。

ほんの数秒。

長男、小さく口を開く。


「……パパ」


静かだった。

あまりにも自然に。

ただ、そこにあった言葉みたいに。


そして。

そのまま視線を戻す。


カタン。


電車遊び再開。



沈黙。

パパ、止まる。

タオルを持ったまま。


ママ、キッチンからゆっくり出てくる。


「……え?……は?」


妹、きょとん。


「ぱぱ?」


パパ、瞬き。


「……いま、言った」

「……俺?」


「いたのお前しかいない」


長男。

何事もなかったみたいに、電車を走らせている。


カタン。カタン。


パパ、だんだん顔が崩れる。


「えっ、えっ…。ちょ、待っ」


ママ、半笑い半泣き。


「いやなんでそんなサラッと言うの!?もっとこう!イベント感とか!心の準備!!」


パパ、膝から崩れ落ちる。


「無理。早い早い。無理だって今のは。分かるけど」


妹、ぴょんぴょん跳ねる。


「にーにしゃべったー!!」


長男。

ちらっとだけ、家族を見る。

その口元が、ほんの少しだけ上がる。


でもすぐに。


カタン。カタン。


いつもの遊びへ戻っていく。


ママ、目元を押さえる。

パパ、まだ床にいる。


五年間。

ずっと待っていた言葉は。


びっくりするくらい、普通の土曜日に。

まるで、前からそこにあったみたいに。

ふっと、この家へ転がってきた。


「ほら!ほら!ママ!ママだよ!?」


ママ、床を滑る勢いで長男の前へ回り込む。


「一文字違いじゃん!?いけるじゃん!?」

「落ち着けって」

「落ち着けるかァ!」


長男、電車を抱えたまま後退。

でも。

嫌そうじゃない。


むしろ。

口元。

ほんの少し、にやり。


ママ、止まる。


「……え」


長男、さらに身をよじる。

逃げる。

とてててて。

ソファの向こうへ。


ママ、呆然。


「今」

「うん」


「笑った?」

「笑ったな」


パパ、涙声で頷く。

妹、興奮。


「にーにわるいかおしてる!!」

「悪い顔!?」


長男、ソファの陰から覗く。

にやにや。

明らかに、楽しんでる。


口を押さえる。


「なにそれ、そんな顔するの」

「初めてじゃん」


声が崩れる。

長男、また逃げる。

ママ、追いかける。


「待って待って!」


「一回!一回だけママって!!お願い!!」


長男、きゃは、と息だけ笑う。

声にならない笑い。

でも。

確かに笑ってる。


ママ、完全に涙声。


「うわぁぁぁぁ待ってよぉぉぉ!!」


リビングぐるぐる追いかけっこ。

妹も混ざる。


「まてまてー!!」


パパ、洗濯物抱えたまま泣いてる。


「なんだこれ……」

「土曜の夕方だよ」


長男、ソファの端へ逃げて。

振り返る。

目が合う。

にや。

いたずら成功みたいな顔。


ついに泣き笑いで崩れる。


「ずるい……そんな顔覚えたのずるい……」

「ママって言ってくれないのにぃ……」


長男、近寄る。

そっと。

ママの服を掴む。

ぎゅ。


しゃくり上げながら笑う。


「……それはするんだ。言葉はくれないのに…」

「それはするんだぁ……」


またにやっと笑う。

ママ、完全敗北。


「もういい……その顔だけで許す……」


パパ、鼻すすりながらぼそっと。


「いや絶対明日ママって言うだろ」

「言わなかったら?」

「一週間くらい引きずる」

「引きずるんだ」


元気よく挙手。


「わたし、ままっていう!」


妹を抱きしめる。


「ありがとうぉぉぉ……!!」


長男、その光景を見ながら。

また小さく笑った。



■数日後・夜


子供たちが寝たあと。

リビング。

静かな部屋。


ママ、テーブルに例の本を置く。

結局、買ってしまった。

付箋まで貼ってある。


パパ、麦茶片手に覗き込む。


「読み込んでるなぁ」

「だって気になるじゃん……」


ぱら。

ページをめくる。


『子供は、思っている以上に愛情を“認識”できていないことがあります』


読む。


『だからこそ、“伝わる形”で届ける必要があります』

『顔を見て、ゆっくり話す』

『安心した声で』

『愛情は、分かっているはずと思わない』


少し止まる。

視線が落ちる。


「……分かってると思ってたなぁ」


パパ、隣へ座る。


「愛情?」

「うん」


苦笑い。


「だって毎日抱っこして、ごはん作って、一緒に寝て」

「好きなのなんて当然じゃんって」

「……伝わってると思ってた」


本を見る。


「でもまあ」

「こっちも、伝えてる“つもり”だっただけかもな」


静かな夜。

ページだけがめくられる。



■次の日・ファミレス


珍しく休日が合う。

子供たちは保育園。

夫婦二人だけの昼食。


「静かだねぇ」

「静かすぎて逆に落ち着かん」


ドリンクバー。

湯気の立つハンバーグ。

久しぶりに、料理が最後まで熱い。


少し笑う。


「横から“それちょうだい”されないもんね」

「ポテト防衛戦が存在しない」


間仕切りの向こう。

賑やかな声。


「だからちがうってー!」

「ママぁ!お兄ちゃんがー!」

「あーもう二人とも静かに!」


兄弟の声。

父親の笑い声。

フォークの音。

よくある、どこにでもある家族の昼食。


ママ、手を止める。

視線が、少し落ちる。


「……長男も」

「うん?」


「自閉症じゃなかったら」

「あんなふうに、お話できる年齢なのにね」


間。

向こう側では、まだ賑やかな声。


「ハンバーグ交換してー!」

「やだー!」


パパ、水を一口飲む。


「……そうだな」


それだけ。

慰めない。

否定しない。

でも。

同じ痛みを知ってる声。


小さく笑う。


「ごめんね、なんか」

「何が」


「せっかく二人でご飯なのに」

「夫婦会議みたいになってる」


肩を竦める。


「まあでも」

「俺は今の長男、結構好きだぞ」


「……うん」


「電車並べてる時の職人顔とか」


吹き出す。


「あれは確かに職人」

「あと妹避ける動き速い」


「すごいよね」

「未来見えてる時ある」


少し笑う。

でも。

笑ったあと。

ぽつり。


「……ママって、呼ばれたいなぁ」


パパ、少しだけ困った顔で笑う。


「それは俺も思った」

「パパはもう呼ばれてるでしょ!」


「一回だけな!?」

「でもゼロと一は違うの!」



■翌日・保育園


夕方。

ママ、いつもの時間に迎えへ来る。


廊下。

小さな靴箱。

子供たちの声。


その時。

教室の奥から。


「ママー!!」


大きな声。

ぴたりと止まる。

反射で周囲を見る。


他のお母さん? 誰か来た?


でも。

教室から出てきた先生が、ものすごい顔をしている。


驚愕。

その後ろ、長男。


先生、半分笑いながら口を押さえる。


「い、今」

「はい?」

「お母さん見つけた瞬間、“ママー!”って」


「……はい?」


脳が追いつかない。

長男。

何事もなかった顔で、いそいそ靴を履いている。


ぺた。ぺた。

真剣。


しゃがみ込む。


「……いま言ったの?」

「……」


「ママって?」

「……」


長男、無言。

靴を履く。

ぺたぺた。


先生、興奮気味。


「私もびっくりして!」

「お友達も“えっ!?”ってなって」

「すごいはっきり!」


長男を見る。

ちら。

一瞬だけ目が合う。


そして。

口元が、ちょっとだけ上がる。

にやり。


「~~~~っ!!」


顔を覆う。


「わざとか!?絶対分かってやってるでしょ!?」


「家では言わないのにぃ!!」


先生、笑ってる。

長男、もう片方の靴へ集中。

でも。

耳だけ、ちょっと赤かった。



■一ヶ月後・佐倉家


夕方。

キッチン。

ぐい。

冷蔵庫の扉に、小さな手。

長男、じっとママを見る。


「……ミルク」


振り返る。

一瞬、固まる。

そして自然に返す。


「はいはい、牛乳ね〜」


冷蔵庫を開ける。

コップ。

牛乳。

いつもの流れ。


……数秒後。

ぴたりと止まる。


「いやなんでミルク!?」


リビング。

パパ、盛大に吹き出す。

妹、床を転がって笑う。


「みるくー!!」

「なんで英語!?」

「ママより先に!?」


長男、牛乳を受け取りながら、口元をにやっとさせる。

完全に分かってる顔。


頭を抱える。


「絶対楽しんでるこの子……」

「最近ちょいちょい言葉選ぶよな」


「“ブーブー”じゃなくて“カー”って言った時もあった」

「誰に教わったの!?」


長男、こくこく牛乳を飲む。

満足そう。


そのまま。

空いた片手で、自然にママの服を掴む。

ぎゅ。


ママ、言葉が止まる。

長男、離さないまま、牛乳を飲み続ける。

もう、それは特別なことじゃないみたいに。


そっと頭を撫でる。


「……ママは?…いつ言ってくれるのかなぁ」


長男。

ちら。

目が合う。

にや。

でも、言わない。


パパ、笑う。


「完全に理解して焦らしてるだろ」

「五歳児に翻弄されてる……」


「でも距離は近くなったな」

「……うん」


本当に。

少しずつ。

少しずつだけど。

言葉は増えていた。


笑う顔も増えた。

触れてくる回数も。

目を合わせる時間も。


まだ、“ママ”は無い。

でも。

夕飯の匂いがする部屋で。


服を掴んだ小さな手は、もう前みたいに遠くなかった。




ママ「さあ!今日はどんな言葉が出るのかな!?」

パパ「俺はミッキーに今月のお小遣いを全額ベットする!!」

妹「にーにあそぼー!」


長男「……だいこん」

ママパパ「なんでだ!?!?」


妹「だいこん!だいこん!」

パパ「待ってくれ!どこで覚えた!?」

ママ「しかも発音めちゃくちゃ綺麗!!」

長男「……だいこん」


パパ「二回言った!!」

ママ「ママは!?まだ!?」


長男、にや。


パパ「完全に分かってやってる顔だこれ」

妹「にーに!にんじんは!?」

長男「……ココナッツ」

ママ「野菜ですらなくなった!?」


パパ「…あ、そう言えば今日のテレビ枠何があったかなー」

ママ「お小遣い、全額ベットなんだよね?」


にっこり。


パパ「にげろー!」

妹「にげろー!」

ママ「待てー!」

長男「あはは!」




※作者の実体験をもとにしていますが、物語として読みやすくするため、一部出来事や時間軸を再構成しています。

また、子どもたちのこれからの成長への願いも、少しだけ物語に込めました。


※よければこちらもどうぞ!


こちらも実体験をもとにしたエッセイです。


「先生、もう腹切ってください。36時間出産レポ」


初めての出産の日を、当時の気持ちを交えながら書きました。

https://ncode.syosetu.com/n1149mh/

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感想の返信ありがとうございます♪ >「こぶたたぬききつねねこ」の歌 あの歌かわいいですよね〜♪お気に入りがどんどん増えていくかもですね〜、挨拶もするようになったのですね。 あ、妹ちゃんが教えてく…
少しずつ、少しずつだけど。 よかった……よかったね(*^^*)♪ 長男くん、なかなかの策士だな??ww
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