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第八話 対ギルドマスター

 

 朝日に照らされた僕は目が覚めると見慣れない部屋にいた。荷物入れ用の鍵付きボックス、ベッド、窓が一つ、それだけだった。


 ああ……。サイゼンの街から飛び出してきたんだ。


 孤児院のみんなに黙って出てきてしまったのだった。お世話になったラルクとシルビアも……酒場でお世話になった職員さんも……。


 ベッドから起きようとするとお腹が鳴った。身体能力は凄いのにお腹はちゃんと減るんだよな……。でも食は人生の楽しみの一つでもあると思う、これは普通でよかったと思った。



 朝食を食べるため小さなロビーに行くとなんだか騒がしかった。数名の獣人がなにやら集まっているようだ。そしてその中央にいた人物に僕の目が止まった。

 明るいオレンジ色の髪から飛びでている獣耳。その女性は僕を見つけると嬉しそうに大きく手を振った。


「ハル様ー!」


 ソマリだ。周りにいた男性は一斉に僕を見た。いや、(にら)んだと言った方が正しいだろう。ソマリの周りにいる獣人の方々はソマリのファンなのだろうか。


「なんだあいつ、人族か」

「あいつだぜ、例の酒場の……」

「あぁ? 子供じゃねーか、ひょろひょろの身体だし」


 ソマリが近くまで来て、僕の目の前でクルッと一回りして服装を見せてくる。僕より年上で身長も僕より少し高くお姉さんって感じだが、可愛いとも美人とも言えそうな整った顔立ちである。


 黒のノースリーブハイネックにオリーブ色の短パン、オリーブ色のブーツ、小さめのマントはフード付きで雨避けにもなりそうだ。

 昨日の職員の制服とは違って、旅を意識した格好のようだ。


「どうですか?」


 女の子にそんなこと聞かれたのは前世も含めた人生で初めてだったため、気の聞いた言葉がすぐ出てこない。


「す……すて、素敵だと、思います」


「うふふふ~」


 嬉しそうに頬に手を当てて、身体をクネクネ喜んでいるようだ。


「照れてるハル様は格別可愛いです!」


 僕に抱きつこうと飛んで来たソマリ。さすがに抱きつかれるわけにはいかないと思い、ひょいっと避けたらソマリがテーブルや椅子に突っ込んでしまった。


 そんな僕は、周りの獣人の白い目から逃げるように宿から飛び出した。



 宿から出た僕を走って追いかけてきたソマリ。


「ハル様! 避けるなんて酷いです。プンプン!」


 あざといっ。プンプンって口で言う人初めてだ。


「あのですね……『様』って言われると恥ずかしいんですけど……」


「いつも受付では相手を『様』付けするから、私は違和感ないんですが……恥ずかしいですか?」


「……はい」


 ソマリは口に手をやり、ニヤリとイタズラ顔をする。う……嫌な予感……。


「ハ・ル・さ・ま☆」


 ソマリって意地悪だ……。




「今日はどうなされますか?」


「武器も欲しいと思うのですが……何がいいのかさっぱりで……」


「そうなんですか、それでは私のお父様のモノですが、刃を潰した訓練用の武器がいくつかあるので持ってきます!」


「お借りできるのですか?」


「はいっ、私も小さい頃からそれで鍛練していました」


 そしてなぜか冒険者ギルドに連れてこられてしまった。

 ギルドに入った途端、ソマリを見つけたギルドマスターが声を張り上げた。


「ソマリ! どこに行っていた!? もうギルドは開いてるぞ!」


「ギルドマスター、私はハル様としばらく旅に出ると昨日言いましたよ?」


「あああああ!? このバカ娘が! オレは旅に出ることは許可していない!」


 おお……まさかのギルドマスターがソマリの父親だった。


「ギルドマスター、ハル様に武器をいくつか試させてあげたいので、ギルドに置いてある訓練用の武器をお借りします」


「話を聞けよおおおお!」


 お父様怒り沸点ですけど、ソマリはマイペースだな……。




 えっと……武器を試せるのは嬉しいんですけど、ギャラリーが結構いますね……。て、ギルドマスターまでいるじゃないですか!

 ギルド裏に武器をジャラジャラと、まぁ……短剣、両刃剣、大剣、槍、刀……あ! 刀!


 僕は手に持って眺める。日本人なら心踊りますよね!


「ハル様はそれが好きなんですか? 短剣みたいに軽くないし、そのサイズなら両刃の方が良さそうですし、大剣ほど威力もなく、槍みたいに長くないし……」


 中途半端と言いたげな感想ですね。


「刀は鞘に収まってる状態からでも素早く攻撃できるんですよ。両刃だと鞘から真っ直ぐ抜かないといけないので、刀の方が速く流れるように抜けるんです」


 僕は刀を腰に持っていき、ゆっくり刀を抜く動作を見せる。


「勿論、短剣の方が速いのですが、一撃の威力は短剣とは比べ物になりません、リーチも適度に長く、使いやすいと思います。刃の反対側の(むね)部は、斬らずに打撃で敵を倒すのに使えるんです」


 僕の刀への熱い想いを語っていると、ギルドマスターが僕に声を投げてきた。


「おまえ……オレの知り合いにそっくりだな。昔そうやって熱く語られたもんだぜ。

 ただ刀は余り造られないから値段が割高だぞ。王都に行かないと買えないだろうしな」


「そうなんですか……」


 ここでは売っていないのか……。


「そうだ、小僧そいつを構えな。相手になってやる」


「いや……そんな、ギルドマスター様にそんなことしてもらうわけには……」


「なーに、武器を試すんだろ? 相手がいないと試せないだろ?」


「え、いや、もう武器は決まったので……」


 ニヤッと笑いながらガシッと首に腕を掛けられた。前世でよくやられたため、ビクッとしてしまったが、この人はいじめとかそういうつもりでやったのではないと分かっている……うん、大丈夫……。


「とって食おうってんじゃないから安心しな。素手で熊を倒したって話を聞いてな、おまえに興味が湧いただけだ」


 これは逃げれそうにない……。




 僕は刃のつぶれた刀を構える、ギルドマスターも刃の潰れた訓練用の両刃剣を構えた。

 ソマリより少し暗めのオレンジ色の髪をオールバックにしている。身長は百九十センチか二メートルくらいあるんじゃないだろうか。筋肉ムキムキのためギルドの制服が苦しそうだ。


 ギルドマスターか……対人訓練はラルクと少しやったけど、こんなの初めてだ……威圧が凄い。


「小僧おまえ、構えが素人だな……今まで武器はなに使ってた?」


「武器は使ったことがありません」


「なに? そうか……ならばやめておくか?」


「お父様! ハル様を見くびらないでください! ハル様はすごいのです!」


 ――――ソマリさん! 余計なこと言わないで!


「そうか、ならば好きに打ってこい」


 僕は低い姿勢のままジリジリと間合いを詰めていく、そして瞬時に距離をつめて突きを放った。


 ギルドマスターは目を見開き、慌てたように少し大きめに避けた。

「おっ!?」

 思ったよりスピードのある突きだったため、ギルドマスターは驚いたが、二撃目からはそのスピードに順応し攻撃を受け止めていく。


 その後も僕の攻撃は一向に当たる気配はない。ギルドマスターも、たまに反撃してくるが本気でないのがわかるくらい手を抜いているようだ。


 僕は一旦攻撃を止めて間合いをとった。


「スピードは速いが動きに無駄が多いぞ。武器を扱うのが初めてってのは本当らしいな。

 しかし、それで本気じゃないだろ? 昨日酒場で見せた力や、熊を素手で倒したという力はどうした?」


「ハル様! バシっとドカンッと、ヤっちゃってください! 私は信じてますよ!」


「フンッ! そうだな、オレに一撃でも当てれたらソマリが付いていくのを許可してやろう」

「当てなくても私はついていくつもりですけどね!」


 勝手に色々決めないでください……。野次馬がブーブー言ってるようだ。


「当てられなかったら小僧についていくのは無しだからな」


 今度は野次馬から安堵の声が……。


「そんな!? 私はなにがなんでもついていきます!」

「お前さっき小僧の事、信じてるって言ったばかりじゃなかったか?」

「うっ……」


 なんだか、上手く丸め込まれたソマリさん。 これで僕が当てなければソマリはついてこないということだ……。


 まだ昨日会ったばかりで僕はソマリを好きというわけではない。だが嫌いではない。

 世話焼きの近所のお姉さんみたいな。でも、あれだけ好きですアピールされては多少意識してしまう……。



「ソマリさん、昨日会ったばかりで、これほど好意を寄せてもらえるのは嬉しいんですが……僕はソマリさんの思っているような人じゃないかもしれませんよ?」


「私の理想はハル様です!」


 ドヤって見せるソマリ。


「それは見た目のことじゃ……」

「勿論! しかし、まだ私の知らないハル様は、これからの旅で知っていきたいと思います」


 そう言ってニカッと笑ったソマリはとても可愛かった。周りの野次馬がツバ吐いたり、壁をドンドン叩いている。


 初めての旅が女性と二人、というのも気が引けるが……。

 一人旅では野宿も危険になる。寝てる間に襲われてはどんなに能力が高くても、対処できないからだ。

 しかし二人なら交代で寝ることができるし。それにソマリはかなりの実力者だ。パーティーメンバーとして最高であろう。


 ――――いやいやいや、どうして一緒に旅する方向で考えているんだ。


 とりあえず今は、目の前のギルドマスターだ。手は抜いてダラダラやって機嫌を損ねてもよくない。


 僕は深呼吸をしてギルドマスターと眼を合わせる。


「行きます」

 僕は刀を横に構え腰を落とした。そして僕はいままで見せなかったスピードで、横から斬りかかった。ギルドマスターは両手剣を縦に構え、横凪ぎに振った僕の刀を防いだ。


「ぬおっ!」

 いままでとは桁違いスピードに、つい声が漏れてしまったギルドマスターだが、それでもガードが追い付いているのはさすがだった。


 だが、そんなのは関係ない。このままガードの上から全力で振り抜いて凪ぎ飛ばしてやる! 次の攻撃はそれからだ!

「うおおおおおお!」


 ギリギリと激しいつばぜり合いの末、ビシッと、音が響くとギルドマスターの両刃剣が砕け散った。

 僕の刀がそのままの勢いでギルドマスターの胴体横にめり込むと、刀も限界だったみたいでヒビが入る。そして刀が砕けると同時にギルドマスターを近くの建物まで薙ぎ飛ばした。


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