第九話 ハルの秘密
身体に付いた土埃を叩きながら、ニヤリと不気味に笑うギルドマスター。
「ちっ、面白くなりそうだったのに……これだから安物の武器は……」
ブツブツ言いながら僕の所まで歩いてきた。
「小僧、刀が欲しいなら王都のヨハンを訪ねろ。ヨハン刀術道場にいるはずだ。オレが会えるように手紙を書いてやるから持っていきな」
「えっと、会ってどうすれば……」
「ヨハンは刀を造れる。お前用に作ってもらえるように話を通してやる。そして刀の扱いを教えてもらってこい。お前は力とスピードに対して剣術が追い付いてない」
「ソマリ!」
「は、はいいっ!」
「オレに一撃与えれたらっていう約束だったな。小僧についていっていいぞ」
ソマリの耳がピョンと立ち尻尾がブンブンしてる、可愛い……。
「お父様ありがとうございます!」
頭を深々と下げるソマリ。そして僕の方に走ってきて――――
「ハルさまああ!」
勢いよくソマリに抱き締められてしまった。僕は身長が低いからソマリの胸に顔が……う、苦しいけど、気持ちいい……。
「うおおお! うらやましいいい!」
「俺も抱きつかれてええ!」
「俺のソマリちゃんがいなくなっちまううぅ!」
「おまえのソマリちゃんじゃねえし!」
周りの野次馬が泣いたり吠えたり……ホントごめんなさい……。
「そのかわり戻ってきたら、新しい武器でさっきの続きをやるぞ! しっかり鍛えてもらってこい! ソマリ! ちゃんと連れて戻ってこい! 絶対戻ってこいよ!?」
「は、はははは……」
僕はひきつった笑いになってしまった。ギルマスはとんでもないバトルジャンキーだったようだ。ソマリを同行させるのも、ソマリの気持ちを尊重したのではなく、僕をこの村に連れ戻すためじゃ……。
こうして僕とソマリは王都に向かうことになった。
鉄ランク昇格試験を予約してあるコング。左腕を怪我しているコングだが、ラルクの見立てではコングなら大丈夫だろうと思っていた。
怪我をしているのに少し無理をしてでも試験を受けるのは、キャンセル料を払わないといけないし、三十日間は再予約できないということ、そしてなによりコングが一日も早く鉄ランクに昇格したいからだった。
昨晩ハルは帰って来なかった。どこで一晩夜を明かしたのだろうか……まさか街の外ではないと思うが少し心配だ。
たしかにハルが剣を使っていたらコングは怪我をしなかったかもしれない。
昨日はイライラしてしまっていて余り考えなかったが、狼との戦いを改めて振り返ると、自分の未熟さのせいだと認識できる。後ろにいるハルの強さに意識がいってしまって、前から来る狼に反応が遅れてしまったのだ。
怪我以外の不満はあった。しかし、怪我の件の責任を押し付けてしまった事が、どうにも落ち着かないコングであった。
「ダメだダメだ! 今から試験だ! 今は試験に集中!」
そしてコングは昇格試験に挑んだ。
筆記は簡単なものだった。心構えや、街の警備の事、採取していけない植物、違反行為などの問題だ。
そして実技試験は好きな長さの木刀を使えるという事で、普段使っている長さのものにした。
「さあ、打ち込んできなさい!」
コングはラルク相手に沢山訓練をした。自己流で一人での訓練と比べると雲泥の差である。
ラルクに教えてもらいだしてから剣の腕は格段に上がっていた。
「ほお、なかなか……こちらからもいくぞ!」
十五歳の銅ランク相手に本気は出さないが、打ち合いは少しずつ速くなっていく。コングは利き腕が使えたのが幸いだった。激しく動いたり、力を込めて打ち込むと左腕に響いてしまうが、我慢できないほどではない。
すると試験官が手を止めて話しかけてきた。
「君の剣はラルクに教えてもらったのか?」
「は、はい! 知っているんですか?」
「まあな、一緒に旅をした時期もあったんだぞ。あいつはお節介焼きだろ?」
「いえ、お節介だなんて。おいらはラルクさんをとても尊敬しています! おいらの目標なんです!」
このコングという少年、いや青年がラルクを本当に尊敬しているのだろうと、コングみてハッキリわかる。試験官は自分の事のように嬉しく思った。
「そうか……。ラルクに、冒険者をやめて安定した職につきたい時はいつでも来いと伝えておいてくれ」
「あの、実技は……」
「合格だ、その歳で、怪我をしていてこれだけできれば大したものだ」
「ありがとうございました!」
筆記も合格しており、晴れて鉄ランクに昇格したコングだった。
この日十五歳の成人になったコング。孤児院ともお別れだ。たまに遊びに来たり泊まりに来るのはいいらしいが、自立するのだから余り甘えるわけにはいかない。
鉄ランク昇格の報告と、挨拶をするために孤児院に戻ると――――
「「「「「コング君おめでとー!」」」」」
拍手と祝声に迎えられたコング。
テーブルにはいつもより豪華で沢山の美味しそうな料理が並んでいた。
「これ……」
コングはビックリして言葉がでなかった。ラルクとシルビアもその場にいたからだ。
「ハルがお祝いをしたいって言い出してな、少し前から準備してたんだ。当の本人がいないけどな」
肩をすくめるラルクは少し残念そうだ。
「ハルが……」
「飾り付けは、私と、サンでやったんだよ!」
コングに飛び付くルイとサン。
「ルイ、サン、ありがとな……。院長さん、セシル姉さん、今までありがとう。ラルクさんとシルビアさんのお陰で剣も上達できました。ありがとうございました」
「コングさん、これからがんばるのですよ。無理だけはしないでくださいね。さぁ、食事をいただきましょう」
院長は俺の背中をポンと押して席に着かせてくれた。
食事も終わり、コングはみんなに挨拶をして外に出たところでラルクに声をかけられた。
手には真新しい剣を持っていた。
「ハルがいたら、ハルから渡すはずだったやつだ」
コングは剣を受けとり驚いた。自分がつかっていた鉄の剣より高価な鋼の剣だった。
「それはハルが買ったんだぞ。ハルは武器を使わないから、いつも負担をかけているコングにいい武器を買いたいってな。
コングが怪我をする前日のギリギリまで硬貨を貯めてそれを買ったんだぜ」
それを聞いたコングは「おいらのために……」と呟き、剣を強く握りしめた。
「それと今から話すことは絶対に誰にも話すな。本当は今日ハルから話すつもりだったらしいが、ハルがいないから俺から話すことにする。コングが診療所にいるときにハルから聞いたことだ」
ラルクとシルビアは真剣な表情をしていた。
「ハルは……本当のハルは一回死んでいるらしい」
「――――はぁ?」
コングは間抜けな声を出してしまった。ラルクは話を続けた。
「死ぬ前の世界では、小さい頃から勉強ができる環境、戦いのない生活、生き物を殺すという考えがない場所だったらしい」
「ハルが獣を殺せない原因はそれだと……?」
「ハルはずっと仲間から苛められ、のけ者にされて、家でも父親に殴られる毎日だったと、そして十五歳の時に父親に殺されてしまったらしい」
「それで……、どうして今、そのハルはここにいるんですか?」
「そこまでは話してくれなかったが、俺もまだ全部は信じられないがそれでも、ハルがそんな嘘をつくとも思えない」
「そう……ですね……」
「この世界の事を全く知らないハルが算学が出来たり、自分の名前を覚えていたり、変な知識があった事を考えると、つじつまが合うかもと、俺とシルビアは思っている」
「これは絶対に誰にも話しちゃダメよ。もしかしたら、その生き返りがハルちゃんの異常な力の秘密かもしれないから」
シルビアのいうことはもっともだとコングは黙って頷いた。
「この話が上の耳に入ったら、ハルは人外の者として扱われる。多分……いいようには扱われないと思うわ。強すぎる力は恐れられるものよ。人体実験や解剖などされてしまうかも。最悪処刑ということもあるかもしれないわ」
「そんなこと……」
たしかにそんな事情があれば簡単に打ち明けれなかっただろうと、コングはパニック気味の頭を必死に冷静さを保とうとしていた。
「ラルクさん、シルビアさん、ありがとうございました! おいら……今からハルを探してきます」
「俺らも街の連中に聞いておいてやるよ」
コングはハルに貰った鋼の剣を握りしめ走り出した。見つけたらまず謝ろうと心に決めたコングだった。




