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第六十三話 惨劇

 デモンの杖から次々と放たれる黒紫色の魔力。人の顔のようにみえる塊は、僕の方にも向かってきた。


 しかし、身構える僕を通りすぎ、後ろにいたラルクや、コングの身体に侵入してしまった。


「うっ!」

「うわぁあああ!」

 得たいの知れない気味の悪いモノが、口や耳などから身体の中に入ってくる恐怖に、ラルクとコングは叫んだ。


「ラルクさん! コング君!」


 他の人と同じように苦しみだした。なにか助ける方法はないのか!?


 ラルクの異変に気付いたシルビアは、慌ててラルクに駆け寄り、必死に名前を呼び掛ける。

「ラルク! しっかりしなさい!」


 ラルクの名前を呼び叫ぶシルビアにも、デモンの魔法が飛んできた。

「っ!? 危ない!」

 僕は防ごうとして手を伸ばすが、手を透き通ってしまいシルビアの体内へ入っていってしまった。


 次々と禁忌に侵されていく人々を見て、逃げ出したい気持ちにかられた。

 だが、そんな弱い自分を抑え込む。


 デモンを見上げると、宙に浮いたまま、怨念のような不気味な魔力飛ばしている。一体どれだけの人を犠牲にするつもりなのか。

 まずはデモンの魔法を阻止しないと!


 もしかしたら、禁忌魔法をかけたデモン本人を倒せば、禁忌が解けるかもしれない。


 僕は水を圧縮した水の塊、『水弾』をデモンに向けて連続で撃ち込んだ。

 しかし、デモンを囲う魔法の障壁に当たり、水弾が弾かれる音が響き渡る。


「くそっ!」


 デモンは僕の方を横目でチラッと見るが、また正面を向き魔法に集中しだした。眼中にないということか!?


 僕の魔法だけではない、騎士達や兵士は弓を放ち、デモンの部下である王宮魔法使い達がデモンに向けて魔法を放つが、物理攻撃も魔法攻撃も弾かれてしまっている。


 なにか! なにかないのか!?


 しかし、じっくり考えている暇はないようだ。ついに禁忌に侵された民間人や貴族達が、禁忌魔兵となり、禁忌に侵されていない人々を襲いだした。


 禁忌魔兵には、斬りつけても、魔法で燃やしても、(ひる)むことなく襲いかってくる。


 自分の子供や親を殺す者、恋人を殺す者、見境なく殺す者。

 殺されまいと抵抗するが、痛覚も戸惑いもない禁忌魔兵には虚しい抵抗だった。

 まさに地獄絵図だ。


 後ろからラルクのかすれた声が聞こえた。

「はル……にゲ……ろ」


 ラルクは必死に正気を保とうと自分と戦っている。そんな苦しんでいるときでも、僕の心配をして「にげろ」と言ってくれるラルク。

 みんな苦しんでいるのに僕だけ逃げることなんて許されるはずがない!


「ラルクさん! 禁忌魔兵になんてなっちゃダメです! しっかりしてください!」


 必ずなんとかしてみせる! と心で叫んだ瞬間、強い衝撃を横から受け、僕は吹き飛ばされてしまう。

 吹き飛ばした相手を見ると、コングだった……。

 とても普通の状態ではないようだ。白目は黒く染まり、黒目は赤く輝いている。これではまるで、獣が魔物化した時のようだ……。


「コング君……」

「ガあッ!」

 僕がコングの名前を呼ぶと同時に、ものすごい形相で飛びかかってきた。僕はコングの拳を受け止め、コングに呼び掛ける。


「コング君! コング君! 目を覚まして!」


 しかし、聞く耳を持つことなく、もう一方の拳も僕に向けてくる。その拳も受け止め、手四つ状態になった。

 いままでのコングよりも、スピードもパワーも上がっているようだ。


 とうとうラルクまで獣のような声をあげ僕に向かってきた。


「ごめん!」

 僕はコングを振り回し、ラルクに投げ飛ばした。

 今のうちに――――――とっ!? 禁忌魔兵になった貴族が剣で斬りかかってきた。間一髪避けることができて、禁忌魔兵を蹴り飛ばした。


 危なかった! ラルクとコングに気をとられていて、周りに注意を向け損ねていた。


 剣を持っている禁忌魔兵も多数いる。武器が必要になる。


 武器……ぶき…………僕の刀どこ!?


 いつも外出から戻った時に、武器は城門に預け、それから自室に向かうのだ。

 しかし、外出するときはオリバー騎士団長に、一声かけて武器を受け取っている。

 オリバー騎士団長がいないときは、リアムやジャックから受け取っている。


 と、いうことは、僕達の武器は騎士団で保管しているだろう。


 僕はバルコニーにいるオリバー騎士団長に目を向けると、バルコニー上ではカレン姫を守るオリバー騎士団長の姿が見えた。国王とクロエ姫は無事だろうか?


「オリバー騎士団長! 僕の刀はどこにありますか!?」


 僕の大声の問いかけに、オリバー騎士団長とデモンが僕を見る。

「私の執務室だ!」


 すぐに返答をくれたオリバー騎士団長は禁忌魔兵の対応で忙しそうだった。刀を取ってきたら僕も加勢しよう!

 デモンは僕を見下ろしている。しかし、先ほどと同様、邪魔するわけでもなにか言うわけでもなく、目線を僕から外した。

 やはり、僕のことは気にしていないようだ。しかし、変に目を向けられるよりはいいか……。


 とりあえずソマリを放っておけない。

 ソマリを安全なところに避難させ、武器を持ってここに戻ってこよう。


 酔いつぶれているソマリに声をかける。

「ソマリさん! おきてください!」


 身体を揺さぶられるソマリは幸せそうな顔で「むにゃむにゃ……もう食べられにゃいですぅ……」と、寝言をもらした。

 どうやら美味しい食べ物でお腹一杯になった夢を見ているようだ。

 いつもなら微笑ましく思いながら、黙って見ているところだが――――今は非常事態! ソマリのほっぺを強くつねった。

「おきてくださいっ!」


「いっ!? いひゃい! いひゃいれすう!」

 ソマリは涙目になりながら目を覚ました。


 それでも手を離すと、まだ少しトロンっとしている顔のソマリ。

「もういっぴゃい! おかわりいい!」

 ご機嫌なソマリは大声でおかわりを要求した。


「今はそれどころじゃないですって!」


「はぇ?」

 とろ目のソマリは、僕の怒鳴り声にコテンと首を傾げた。

 たった一杯のお酒でなんでここまで酔えるのか不思議なくらいだ……。


 僕はソマリを横目に、寄ってくる禁忌魔兵を蹴り飛ばしたり、投げ飛ばしたり、遠くへと飛ばしていた。

 幸い僕らの所には、禁忌魔兵はそれほどの数が来ていなかった。それよりも城の中になだれ込んでいく禁忌魔兵達。

 もしかして王族狙い?


「ほお? その獣娘。ソマリといっておったな?」

 聞き慣れたその声は僕の真上にいた。


「祝い酒を飲んだのか?」

 デモンは不思議そうな顔で質問をしてきた。

 この惨状の元凶である人物に、苛立ちの声で返す。

「だとしたらどうだっていうんですか!?」


「ふむ……ワシの実験も、まだやり残しておったようじゃな……」


「実験……?」


「ふむ、死ぬ前に聞かせてやろうかのう」


 デモンは杖を強く光らせ、一言発した。

「動くな」


 動くな? 僕に言っているのか?


 すると、奇声をあげながら暴れていた禁忌魔兵が、嘘のようにピタリと動きを止めた。

 不思議なことに、僕の見える範囲の禁忌魔兵は全て動きを止めていた。先ほどまでの騒音の中、遠くの禁忌魔兵にまで声が届いているとは思えない。

 さっきデモンが杖を光らせた時に何か魔法を使ったのだろう。離れていても命令は思いのままという事か……。


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