第四十九話 手料理には気を付けよう
王都アルステムに戻った僕達は、まずギルドに立ち寄っていた。
ラルクは報酬を受け取り、ホクホク顔でシルビアの元へ報告にいった。
「もしかしたらハル様ももらえるかも!?」と、ソマリにそそのかされるまま、淡い期待を胸に受付のお姉さんに聞いてみた。
僕の名前は参加リストに記入されていないとのことで、報酬やポイントは貰えなかった。うん、そうだろうなって思っていた。
「ちぇーっ。ハル様がんばったのにっ」
今回の蜘蛛討伐参加を条件に、刑期や罰金を免除ということだったので文句など全くない。
冒険者ギルドの横にある、キールの親父さんが経営ある診療所。ちょうどそこからキールが出てきたところにばったり出くわした。
キールは軽い挨拶をしてくれた。
「……よぉ」
「げっっ」
気まずいのか僕の後ろ隠れるソマリ。
僕はシルビアの件と、ソマリが勘違いして殴ってしまった件を、改めて謝罪とお礼を述べた。
すると僕に向かって手招きをするキール。ソマリはというと、あっち行けと手で追い払われてしまい、膨れっ面で僕とキールから離れていった。
こそっと耳打ちをしてくるキール。
「『うちの親父にもお礼を言ってくる』って言って診療所に一人で来てくれ」
僕は言われるまま、騎士団の付き添いの一人と、ソマリに一言残し、診療所に一人で入っていった。
今日は蜘蛛討伐帰りということもあり、オリバー騎士団長とリアムは色々と忙しいみたいで、オリバー騎士団長の部下の一人が付き添いになっている。
中に入ってすぐ診療室とは別の部屋に案内された。ドアを閉め僕と二人きりになったキールは僕に内緒話を持ちかけてきた。
頼み事を聞いてくれるなら、診療所での借りとソマリに殴られた借りをチャラにしてくれるという。
「明日の夜、周りに気づかれないように一人で出てこれないか?」
話の内容はこうだ。
キールの妹が僕に惚れてしまったという。一度だけでいいから食事をしながら色々な話をしてやってほしいとのことだ。
なぜ周りに内緒にしないといけないのか聞いたところ、俺や妹にも立場的な事情があるから知られるわけにはいかないとか、監視付きのデートほど楽しめないものはない。特にソマリがいたら絶対邪魔するし。などなど色々と事情があるみたいだ。
抜け出すとなると就寝後、窓から出るしかないだろう。しかし夜中に抜け出してバレでもしたら言い訳がきかない……夜のいやらしいお店を探しにいったとでも言えば済むかもしれないが……。
やはり城から抜け出し、再度城の中へというのは些か危なすぎる。
妥協案として、ヨハン道場のお昼休憩の時にでも抜け出すということになった。少しの間いなくなっていてもお店が混んでいたとか迷ってしまったとか言い訳すればいいか。
話がまとまったところでキールの父親に一言お礼を言い、診療所をあとにした。
次に向かったのはヨハン刀術道場だ。造ってもらった刀のお礼を言わなければ。
「ヨハンさんお久しぶりです!」
「おぅ、久しぶりだな。最近サボりすぎだぞ」
アゴの無精髭を触りながら嬉しそうに返事を返してくれるヨハン。
「実は……オリバー騎士団長達と討伐依頼を行って、牢獄に入って、鉱山奴隷になって――――」
最後まで言い終わる前にヨハンは大笑いしだした。
「だははっ! わかってるって! オリバーのやつから聞いてるよ。ホント退屈しないやつだなぁ。クククッ」
僕の背中をバンバン叩きながらまだ苦笑を続けていた。
「あの、とても高額な素材を使っているだろうとオリバー騎士団長が言っていたのですが……ありがとうございました!」
深々と下げた頭をポンポンとやさしく叩くヨハンは刀の完成までの話をしてくれた。
黒光りしている漆黒の刀身。強度はあるが少し重くなるのがこの素材のデメリットだという。剣や刀の基本素材としてはほとんど使うことはないという。
対魔物用の斧などには使われることはあるが希少鉱石なため一般の武器屋に並ぶことも余りないとのこと。
しかし、僕の筋力ならこれくらいの重さは誤差の程度である。
「大事にします! 家宝にします! 硬貨のお支払もできないのに、こんなすごい刀をいただけるなんて夢みたいです!」
「おおぅ……そんなに喜んでくれると造ったかいがあるってもんだ。硬貨なんかぁほとんど使わねーし。昔のよしみの頼みだしな。
それにな、お前には造ってやるだけの価値があるってことだ。だが、家宝にしないでちゃんと使ってくれよ?」
そのあとも、お互いの刀への情熱を熱く語り続け、ソマリと騎士団の人を長いこと待たせることになった…………。
――――次の日。
ヨハン刀術道場のお昼休憩。僕はソマリに黙って道場を抜け出した。
今日は騎士団の付き人はいない、というか、今後は付き人は付かないとの事だ。
王宮魔法使い総司令のデモンさんが一言口添えしたらしい。
オリバー騎士団長も、僕が悪いことや変なことをしない人間とわかってくれているし。今回の蜘蛛討伐が終わったら監視を外そうと思っていたところだったと。
ヨハンとの幾度も繰り返される模擬戦では、まだ技術面で負けているが、僕もかなり上達していた。神様のギフトで強化されている身体能力で補ってなんとか負けることがほとんどなくなった。もちろんまだ勝ててもいないが……。
ヨハンにたまにでも勝てるようになったら、ソマリの故郷であるドベイルの村に戻り、ソマリの父でありギルドマスターのラグドールとの約束を果たそう。
ラグドールのおかげで、こんな素敵な刀を造って貰えたのだから感謝しきれない。
刀をそっと撫でて、にやけ顔のままキールとの待ち合わせの場所まで走っていった。
「――――ここだ」
指定されていた待ち合わせ場所は、初めてモモとキールに会った場所だった。通りから外れ人気がない。そこにはすでにキールと女性が立っていた。
「お待たせしました」
挨拶をする僕に、手をあげて答えるキールと、会釈をするキールの妹と思われる女性。
キールとはそれほど似ていないようだ、きっと父親似と母親似に別れたのだろう。
顔を伏せて目を合わせようとしない妹。
食事の用意はしてくれているということで、ついていくことになった。
人気の少ない裏路地を進み、倉庫のような小さな建物に案内された。
窓もなく小さな換気口があるだけで、どうやら本当に倉庫に使われていたみたいだ。
今は使われていないようで、小さい木箱や樽が少し置いてあるくらいだ。
暗い倉庫に入って幾つものランプに火を灯し、倉庫内が明るくなった。テーブルと椅子が二脚と酒や飲み物が置いてある小さな棚、そしてテーブルの上にはすでに用意された料理があった。
料理といっても質素な食事で、サンドウィッチや果物といった、冷めても平気なものばかりだ。
しかし用意されている料理は全て妹さんの手作りらしい。
「じゃ、あとは二人でごゆっくり」
そういってキールは倉庫から出ていった。
残った僕と妹さんはとりあえず椅子に座って自己紹介から始めた。
「兄キールの妹キーシアです。ハルちゃんの事は道場で見かけて……その……こうしてお話をしてみたいなと思ったわけで……今日は無理を聞いてもらってありがとうございました」
道場というからには、ヨハンの所だろう。しかし、この人の事は見たことないな……いや、全員知っている訳ではないから僕が知らないだけだろう。
キーシアは照れながら飲み物を注いでくれた。髪の色は金色で肩より少し長い、目付きは少しきつめであるが、不細工という感じではないが美女というほどでもない。
ソマリの方が圧倒的に美人だ。
あ、ついいつも側にいるソマリと比べてしまった。今頃一緒にご飯を食べようと僕を探しているかもしれないな。
最初に果物ジュースを飲み、サンドウィッチを口に運んだ。
うん、味は普通? いや……普通のサンドウィッチの味ではない。なんというか少し苦味がある気がする。隠し味かな?
なぜかジト目で僕を見つめ変な質問をしてくる。
「ね、ねぇ……変な味しない?」
「変というか……にが……いえ、これといって普通ですよ」
僕の分として用意されていた食事を全て食べ終わった。キーシアは食が進まないみたいだし、なぜか途中から話をしてこなくなったのだ。緊張? ……ではなくなにか不思議なものを見る目をされている気がする。
そして、キーシアは驚きの言葉を口にした。
「なんで死なないのよ!」
そして突然立ち上がって呼び笛を鳴らした。




