第二十五話 苦手
模擬戦をするのだから多少の怪我は仕方ない。
多少……。ラルクの顔や腕や身体にアザが沢山できていた。
「わ、わたしのせいじゃないし」
たしかにシルビアがミスをした訳じゃないんだから仕方ないといえば仕方ない。
「サイゼンの街のギルドに、ローゼンという剣技試験を担当している職員がいるんだが、ラルク君と似た剣筋でね、知り合いかい?」
「あー。あいつは昔一緒に旅をしていた親友です。二人で腕を磨いていたため似たような剣筋になっちまって……」
オリバー騎士団長は顔が広いみたいだ。
あっ! そういえばコングの試験ってどうなったのだろう……。
「コング君……鉄ランク試験って……」
僕の肩にポンと手を置き、首からかけているタグプレートを服の中から取り出した。
「鉄ランクになったぜ、ハルには心配かけたな」
おおおおおお!
「コング君おめでとー!」
「銀まではポイントが遠いぜ」
僕はコングの手を握り、自分の事のように喜んだ。
「コング君、君の先生はラルク君だね?」
「はい!」
「剣技のセンスはあるからそのままラルク君に鍛えてもらうといい。あとはもう少し筋力をつけるといいね。弓はとても素晴らしい腕だったよ」
「あ、ありがとうございます! がんばります!」
オリバー騎士団長のお墨付きを貰い、満面の笑みのコング君。
ん? ラルクに鍛え続けてもらえば……?
「パーティー組むのって、コング君が鉄ランクになるまでって言ってませんでした?」
「まぁ、ここまで面倒みてきたんだし、コングにパーティーメンバーが見つかるまでは一緒にいてもいいけどな」
頭をかきながらそう言ってくれるラルクに、コングは甘えることはなかった。
「いえ、おいらが鉄ランクになるまでって約束でしたし、いつまでも甘える訳にはいきません」
「そんなこと気にしなくていいぜ」
「そうよ、こんなへっぽこでよかったらいつまででもいいわよ」
「おい、誰がへっぽこだ」
「ふん」
相変わらずこの二人は仲が良い……。
オリバー騎士団長が、みんなの実力を把握したところで、魔物討伐に向けて歩き始めた。
街道から外れ、木々の多い所にきた。
大木ばかりで木々の間隔はそれほど狭くないので戦かうにはいいだろう。
あまり狭いと木が邪魔をして大剣を振り回せないからだ。
全員剣を抜いて周りを警戒しながら森林の奥へと歩き続ける。相手が蜘蛛ということで頭上も注意しないといけない。もちろん蜘蛛しかいない訳じゃないのだが。
どんな魔物が出てくるのだろうか……。多数の種類といっていたが……。
「オリバー騎士団長、報告ではこの辺りにはどのような魔物が出てるんですか?」
「蜘蛛と蛇といったところだな、大型魔物の報告は今のところないが、蜘蛛と蛇は毒をもっているため注意してくれ」
リアムは毒の治療魔法ができるらしい。リアムがいなければこの依頼は受けるつもりはなかったという。
前世の僕も蜘蛛やゴキブリなどは苦手だけど、スリッパで殺すことはできていた。
蛇は前世では直接見たことはないな。蛇は蜘蛛より嫌いではない。
――――っ!?
上から落ちてきたのは腕くらいの太さで二メートルくらいある黄色の蛇だ。鋭い牙を剥き出しにして落ちてきた蛇に、右手に持っていた大剣を一振りすると、オリバー騎士団長の剣と交差した。オリバー騎士団長も気づいていたようだ。
ボトボトと落ちてきた蛇は、三等分に切断されていた。
「ひぃっ!」
モモの目の前に落ちた蛇は、まだピクンピクン動いていた。
しかし、モモが恐がった所を見て、この計画もなかなかよかったなと思った。
「大剣を軽々と扱うとは……すごいな」
ガメットは僕を見て感心していた。
それから背の高い木々の下を歩くこと数分、木の上から無数の黒い物体が降りてきた。
眼は紫色になっていてどうやら魔物化している蜘蛛が三匹いる。……が、問題はそこじゃなかった。
僕の知っている蜘蛛ではない! いや、蜘蛛っぽいけどこれはっ!
まず大きさ! 僕が両手を広げたくらいの大きさ。シャカシャカと音を出しながら動く沢山の足。口からは牙をみせ液体が垂れる口。キモい……。
およそ十匹はいるだろう、ワシャワシャと這いよる蜘蛛達。見たところ眼が赤く光っている蜘蛛が三匹いるようだ。
「なんだってこんなに魔物化してるんだ!」
一度にこんなに沢山の魔物など、ラルクも見たことがなかったようだ。
すべての蜘蛛が魔物化しているわけではないが魔物化している蜘蛛の皮膚は硬くなっていて剣が通りにくい。
「こいつらはそれほど硬くはない! 数は多いがみんなで手分けして倒せば大丈夫だ! ただし毒には気を付けろ! 噛まれたらすぐにリアムに治療してもらえ!」
僕とソマリは青い顔をして、ガタガタ震えていた。身の毛もよだつとはこういうことか。
「お、おい……、ハル君大丈夫か?」
顔面蒼白の僕とソマリをみて心配になったオリバー騎士団長。
本当は今すぐにでも逃げ出したいくらいだが、みんなを残して一人だけ逃げるわけにはいかない。
「わわわわわわわわたし蜘蛛だけはダメなんです!」
「ぼぼぼ、ぼぼくはだいしょぶです!」
なんとか飛びかかってきた蜘蛛を倒す事はできたが本来の動きができていないことは自分でもわかっていた。
「ハル君もダメそうだな……」と、オリバー騎士団長が大きなため息を吐いた。
しかし蜘蛛は待ってはくれない。次々と飛びかかってくる蜘蛛を、軽快な剣さばきで倒していくオリバー騎士団長とラルク。
囲まれないように魔法で炎の壁を作り牽制をするシルビア。
「魔法はあと一回くらいしか使えないわ!」
先ほどのオリバー騎士団長との戦いで何度も魔法を使ったため、少しの休憩では体力が回復しなかったようだ。
ステイタスウインドウが開けれて、マジックポイントがあれば、魔力管理が楽だろうが、残念ながらそんな便利なモノはない。
頭痛、身体の痛み、倦怠感などを感じたら限界間近という合図だ。それ以上使ったりすれば、意識を失い、後遺症が残るダメージを受けることもあり、最悪死に至る。
木の上からゆっくり降りてくる一匹の蜘蛛。
わずかに顔に当たる日差しが陰った事に違和感を感じたモモは上を見上げ悲鳴をあげた。
「きゃああっ!」
ザンッ!
間一髪の所をコングの剣が蜘蛛を真っ二つにした。
「おいらの後ろにいろ」
「う……うん」
コングに助けられたモモは、頬を染めながらコングの背中を見つめていた。
奥から新手の蜘蛛が向かってくるのが見えた。
「ガメット! 手伝ってくれ!」
「ちっ! 俺が手を出すのはダメなんだが……そんなこと言ってる場合じゃねえよな!」
数が数だけに、オリバー騎士団長に頼まれなくても手を貸すつもりだった。
「おい! 倒しながら下がるぞ! 一時撤退だ!」
態勢を整えようと、オリバー騎士団長がみんなに伝える。
「私が壁を作ったら走って! フレイムバースト!」
シルビアが呪文を唱えると、最前線のオリバー騎士団長の正面に炎の壁が噴き上がった。
「走れ!」
一斉に来た道に走り出した。
なんとか振り切り林を抜け、木々のない平原へと戻ってきた。
今から休憩して、再度討伐に行っても夜になってしまう。そうなっては林の中での蜘蛛は危険だろう。
今日はここで夜営して夜明けと共に出発することになった。
日の傾きから約十六時くらいだろうか、携帯食でもいいが、まだ晩食まで時間があるので、僕、ラルク、コング、ガメットの四人で晩食用の肉を調達しにいくことになった。
危険な相手と遭遇したら戦わないで逃げること。オリバー騎士団長に念を押されて出発をした。
そして歩きながら話す事といえば……僕が全く戦えなかったことについてだ。狩りをしながらの反省会であった。
「なぁ、ハルは熊や虎そして野盗までも倒したのに、なんで蜘蛛はダメなんだ?」
以前みたいに怒ってはいないが、不思議そうに僕に質問するコング。
「なんでって……こう……蜘蛛の足がワシャワシャと動くところや、あの不気味な顔などが気持ち悪くて……」
僕は甘えを捨て強くなれた思っていたのに、またこれだ……。神様、僕のハートも強くしといてほしかったです。
いや、凄い力を分けていただいたのに、贅沢を言っていてはだめだな。
「――ル――ハル?」
「は、はい!」
いかん! 考え事をしていて、ボーっとしていたようだ。ラルクの問いかけに気がつかなかった。
「ハル、次は嫌でも戦ってもらう。お前のためにも厳しくいく。次、同じように動けないならハルとはパーティーを組めないかもしれない」
優しいラルクに、ここまで言わせてしまった自分が情けない……。




