第二十四話 三対一
騎士団が熊魔物編成した魔物討伐隊は、魔物の攻撃を引き受ける盾持ち片手剣を一人。
毛や皮膚の硬い魔物にも大きなダメージが期待できる、斧か大剣持ちを一人。
後方からの攻撃やサポートに魔法使いを一人。治療魔法使いを一人、の計四人編成だ。
しかし、四人とも上級騎士と上級魔術師前提の構成である。
これが魔物化した熊や虎を倒すための最低人数と構成だ。
ただし相手が一頭の時に限る。
四人でならまずに勝てる。しかし三人、二人では勝てないかもしれない。ましてや一人ではかなり腕が立つ者でなければ無理だろう。
しかし、一人で倒す。それを成し遂げてしまったのが、まだ成人にもなっていないような、華奢な身体の少年だった。
いくら不意をついたといっても、圧倒的な力を見せたハル。
怪我をした仲間のソマリも、上位騎士と同等かこれ以上の実力者であった。それもそのはず、オリバー騎士団長の昔の戦友、ラグドールの娘なのだか、しかもかなり剣技を教え込んだみたいだ。
とりあえずソマリの怪我が治るまで、城で寝泊まりしてもらうことにした。
幸いにも、城からそれほど遠くないヨハン道場に用事があるみたいだ。それならば城から通わせる口実にもなる。
城の客室の二部屋を貸し出し、食事も出す。衣類も提供しよう。勿論怪我が治った後も、そのままいてくれても構わない。二人からしたら、かなり良い条件だろう。
ハルの事をもう少し知る必要がある。国に害があるようならそれなりの処置をしなければならない。
僕達がギルドで受けた依頼は、木の伐採指定区域で魔物の出現報告があり、早急に対処を求むという依頼だ。魔物と言っても熊や虎といった大物ではなく、蜘蛛だということだ。蜘蛛の魔物ってなんだかピンとこないな。
普通の蜘蛛に魔物化が数匹混じっていたという事で、金ランク依頼なのだという。それを受けることになった僕達は、魔物用に装備を整えているところだ。
「で……なんでお前が付いてきてるんだ?」
オリバー騎士団長の言うお前とは、ギルドマスターのガメットのことだ。
「これは仕事の一環です。オリバーさんが言うことが本当なら、こんな人材を野放しにしておけません。
なによりこの目で見てみたい! しかし、ギルドマスターである私は戦闘のお手伝いはできないので、その他の事で力になります!」
「そうだったな……ではこの少女と離れたところにいてもらって万が一の時は守ってやってくれ。あとは、夜営の時の設置から片付け、食事の用意、荷物持ち――――」
オリバー騎士団長、容赦ないっ!
そんな雑用をガッツリやらされるのかと慌てるガメット。
「ちょっちょ、オリバーさん? 冗談ですよね!?」
「半分は冗談だ」
――――半分は本気なんですね……。
魔物討伐ということで、モモが心配だったが、ガメット、ソマリ、コングがモモの周りを守ってくれるというのだから大丈夫だろう。
僕が魔物化した虎を倒したと知った時の、ラルク、シルビア、コング、そしてギルドマスターのガメットまで、驚きの声をあげていた。
勿論近くにいた他の冒険者も聞いていた者も驚いていたが、さすがに信じてはいなかったようだ。
しかしラルク達に限っては、僕の身体能力をある程度知っているため、嘘とは思っていなかった。
また、ガメットも、オリバー騎士団長だけが言っているなら信じてなかったかもしれないが、真面目なリアムまで頷いていたため信じたようだ。
オリバー騎士団長の硬貨袋から装備を買っていく。
さすが王都の騎士団長というだけあって、ものすごい高給取りなのであろう。値段を気にしないでドンドン決めていく。
「あ、あのオリバーさん、こんなに装備を買ってもらえるのは嬉しいんですが……」
ラルクは嬉しい反面、申し訳なさがあるようだ。
そう思うのも仕方がない。剣、胸当てを質のいい鋼製で買い揃えてるのだ。
「何を遠慮しているんだ。魔物と遭遇したという報告を受けている場所に行くんだ。しっかり装備を整えないでどうする?
それに君は、私に挑むほどの実力者であろう? 魔物が出たら魔物の攻撃を引き受けてもらわなければならないかもしれないしな」
「わ、わかりました」
「安心したまえ、最前は私が行く。複数魔物がいた場合は前で壁をしてもらうかもしれないがな」
「そういうことなら任せてください」
ラルクは新品の剣を握りしめた。
「あの~、おいらも買って貰っちゃって良かったんでしょうか?」
コングは、胸当てと弓矢を買って貰ったようだ。
「本当に剣は買わなくてよかったのかい?」
「はい、おいらの剣はまだ新品ですし、これはハルが買ってくれた大事な剣だから」
「コング君……」
そんな風に言われるとものすごく嬉しい。
「ハル様からのプレゼント……ハル様からのプレゼント……ハル様からのプレゼント……」
ソマリが羨ましそうにコングを見つめる。依頼報酬が貰えたらなにか買ってあげよう……。
でも女性になにをあげたらいいのかわからない……ソマリさんならなんでも喜んでくれそうだが、旅用品ってのは味気ない気もする。
だからといってアクセサリーなどは着けているのをみたことない。
うーん……。
「さて……あとはハル君の装備だな。魔物を仕留めれる武器にしてもらいたいんだが……。おやじさん、そこの大剣をこの子に渡してくれ」
「オリバー様、この子潰れちまうぜ?」
大丈夫だと黙って頷くオリバー騎士団長。
「よい、しょっ!」
おやじさんは掛け声と同時に、カウンターの後ろに掛けてあった大剣を持ち上げて、僕の方に重そうに持ってきた。
「オ、オリバーさん! 本当にこの子に持たせるのか?」
ガメットも心配のようだ。
僕が剣柄を握ると落ちやしないかとゆっくり手を離すおやじさん。
大きさ的に僕の身長と同じくらいかな? 材質が違うのか、肉抜きしてあるおかげか、ラグドールさんから貰った訓練用の大剣より、少し軽く感じる。
片手で大剣を振りかぶり下に振り下ろした。分厚い切り裂き音が鳴った。
普通の冒険者が、これくらいの重さの大剣を振れば、重さで重心が持っていかれるが、ハルは微動だにせず、地面に叩きつけることなく大剣を止める。
「ラグドールさんに頂いた訓練用の大剣より、軽くて良い感じです!」
あんぐりと口を開けるおやじさんとガメット。
本当は刀がよかったけど、オリバー騎士団長が大剣を選んだ理由としては、万が一大物の魔物が出たときに対処できるようにということだ。
ヨハンの造った刀ならまだしも、量産用の刀では大型の魔物は無理だろうと……。
それならば、魔物化した虎を倒したときのように、重さのある大剣で、ということだ。
門をくぐり、王都の外に出て少し歩いた所でオリバー騎士団長が動きを止めた。
「さて、君達の力を把握しておかないとね」
そう告げられたのは、ラルク、コング、シルビア。
「よしっ」
新しい剣を振り感触を確かめるラルク。
シルビアは新調した杖で魔素を取り込んでは解放を繰り返す。
「ん……、さすがに純度の高い魔石は、魔素の吸収が速いはね」
「三人まとめてきてくれ」
そう言ったオリバー騎士団長は、大盾をドンと地面に突き刺し、剣を抜き三人に剣先を向けた。
三人にオリバー騎士団長の威圧感を浴びせる。
「これが三剣……」
それを見たコングは剣を抜き、恐怖を振り払うかのごとく頭を振った。
僕、ソマリ、モモ、リアム、ガメットは、地べたに座り観戦スタイルだ。できればポテトチップスかポップコーンと、コーラが欲しいところだ。
「いくぞ!」
ラルクの合図で、ラルクとコングがオリバー騎士団長に向かって走り出した。
シルビアの杖からは、野球ボールくらいの小さなアイスボールがいくつも飛び出し、ラルクとコングを追い抜かしていった。
オリバー騎士団長は軽いステップでアイスボールを避ける。着地地点にはコングが走り込んでいて剣を振るった。
コングの剣が大盾に弾かれると、すかさずラルクも斬り込む。
ラルクは何度も斬りかかるが、オリバー騎士団長の盾と剣での防御は鉄壁だ。後ろに下がることなくさばききっている。
ラルクが盾で押されて態勢を崩してしまったが、コングが斬りかかり、ラルクへの追撃を許さなかった。コングはうまくフォローしている。
そんな攻防の中、オリバー騎士団長が大きく後ろに跳んだ、その瞬間アイスボールがいくつも通り抜け、奥の木々に当たり氷が砕け散った。
木々がへこんでいるところをみるとかなり威力はあるようだ。
シルビアは手を休めず、すごい数のアイスボールを撃ち込んでいる。
オリバー騎士団長は大盾で身を隠し、アイスボールを凌いでいる。間を開けず反撃させないように魔法を撃ち続けるシルビア。
「あれは訓練用の魔法だよ。周辺が燃えてしまう心配もないしね」
なるほど、打ち所が悪くない限り死ぬことはないか。
モモは魔法なんて、生活魔法程度しか見たことがなく、こういった対敵用の魔法を始めてみたので目を輝かせてみている。
「魔法……すごい」
ガメットもシルビアを絶賛する。
「しかし、あの魔術師はすごいじゃないか、あれだけの数のアイスボールを、連続して撃ち出せるんだから」
身動きをとらせないように広範囲に撃ち込んでいるため、ラルクは近寄れないがいつでもオリバー騎士団長に飛びかかれるように構えている。
「そんなに撃っていたらすぐ体力が無くなってしまうぞ!?」
「あら、忠告ありがとう!」
オリバー騎士団長の盾に、アイスボールがバキンッバキンッっと、いくつも当たり大きな盾をブレさせる。
ここでシルビアがラルクに目で合図を送る。それを見たラルクは黙って頷き、小声でコングに伝える。
アイスボールが止まると、ラルクは盾の死角からオリバー騎士団長に向けて走り出した。
急接近してきているラルクにオリバー騎士団長は気づいていた。
(私の死角からラルクが走ってきていて、その後ろで弓を構えているコング、シルビアはなにか魔力を練っているようだな)
すると、ラルクが盾を飛び越えるかのようにジャンプしてオリバー騎士団長に斬りかかった。
(――これは陽動だ。私が盾で上からくるラルクを弾き飛ばそうとすれば、私の足には矢が飛んでくるだろう。だが、わかっていればなんてことはない)
上から攻めるラルクを大盾でシルビアの方に弾き飛ばした。
シルビアは、オリバー騎士団長との射線上にラルクが落ちてきたため、魔法を撃つのをためらった。
しかし、シルビアとは別の射線にいるコングの矢は、オリバー騎士団長の足に向かっていた。
これは当たる! 僕はそう思ったがオリバー騎士団長にはお見通しだったようだ。
ラルクを弾き飛ばした盾は掲げたまま、コングの方を見ることなく剣を地面に刺し、剣腹で矢を弾いた。
そして間を空けずにラルクに向けて走り出す。
とても大盾を持っているスピードではない。
すごいスピードで向かってくるオリバー騎士団長にラルクは剣を振るうが、走ってきた勢いのまま大盾で体当たりをされて、剣ごと吹き飛ばされてしまった。
すかさずラルクへの追撃をするために走り出すオリバー騎士団長に、シルビアは慌ててアイスボールが放った。
魔法が飛んでくるだろうことは想定済みのオリバー騎士団長は、うつ伏せに倒れているラルクを掴み上げて、シルビアの放ったアイスボールの盾として前に出した。
持ち上げられたラルクの目の前には猛スピードで向かってくる無数のアイスボール。ラルクはその瞬間、死を覚悟したのだった。
(あ……俺死ぬかも――――)
「ここまでだな」
終了を宣言したオリバー騎士団長の足元には、アイスボールでボコボコになったラルクが転がっていた。




