第十九話 コング獣人の村へ
太陽が真上にきた頃、コング、ラルク、シルビアは獣人の村ドベイルに着いた。
サイゼンの街に、ハルはいないであろうという結論になり、近くの村を探索してみようということだ。
そしてなぜ獣人の村ドベイルを選んだかというと、ハルとコングが最後に話をした場所から、一番近い門から出ていったと仮定するなら、獣人の村ドベイルではないかということになった。
「ハル君いるかなー」
シルビアは被っていた魔導帽子でパタパタ仰いでいる。
水筒の水をグビグビと飲むラルク。
「ぷはぁー! 食べるのも宿に泊まるのも、お金は必要だし、とりあえず冒険ギルドに行っているはず。
そして人間の子供の出入りなんてまずないだろうから覚えている獣人もいるんじゃないか?」
「おいらの問題なのに、結局お二人には一緒に来てもらってすみません……」
「水くさいこといいっこなしだぜ。ハルが心配ってこともあるけど、かわいい弟子が困ってるんだから、助けるのは当然だろ?」
ラルクに弟子と言ってもらえたことがコングは嬉しかったようだ。
「こんな師匠じゃ恥ずかしくて人に言えないわね、クスクス」
「よし、そのケンカ買ってやろうじゃないか」
コングの後ろでラルクとシルビアが、取っ組み合いをしている中、コングは冒険ギルドの扉を開けた。
チリンチリンとドアの上に付いている鈴の音が鳴ると、数人の獣人が三人の方に向いた。
見たところ獣人以外いなさそうだ。カウンターに受付のお姉さんが二人いるだけで、ギルドマスターらしき人物は見当たらない。
二人の受付嬢のうちの一人は、ソマリの代わりに働きだした新人だった。
コングは受付カウンターの奥で書類に目を通している獣耳のお姉さんに、ハルのことを聞いてみることにした。
達成依頼の帳簿にハルの記録があるかもしれない。
「すみません、聞きたいことがあるんですが……」
「は、はい! どうぞ! ああっ!」
コングが話しかけると整理していた帳簿をバサバサと床に落としてしまった。新人の受付嬢は慌てん坊のようだ。
「ハルという人族の男の子で、銅ランクなんですが、こちらのギルドで依頼達成の記録などありませんか?」
「申し訳ありませんがそういう内容はお教えできないことになっています」
「だよなぁ……」
がっかりしていると後ろの冒険者から声をかけられた。
「ハル!? あの女みたいな馬鹿力のガキのことか?」
三人の探しているハルで、間違いないであろうことに、三人で顔を見合わせ、笑みがこぼれた。まさかこんなにすぐ簡単に見つかるとは!
「では、ここでハルが戻ってくるまで待っていましょう!」
コングは嬉しそうにラルクさんに話しかけるが、獣人の冒険者から残念な事を聞かされた。
「いや、あいつなら村から出ていったぜ」
三人はその言葉に固まった。せっかく会えるとおもったのに一体どこに行ったのか? 詳細は獣人の冒険者が話してくれた。
そしてハルがこの村に来てから何をして出ていったのか教えてもらったのだが、どうにも本当にハルなのか、疑いたくなる内容だった。
「一人で熊数体を殺しに行くって言うもんだから、俺が親切に引き留めたら、俺の手を机にバーン! って叩きつけやがってな」
ええっ? ハルがそんなことするかな……?
三人は顔を見合わせた。
「ちょっと油断してたのさ、まさかあんな小さい身体で想像以上の馬鹿力だったからな。まぁ、俺様は頑丈だからな、擦り傷程度だったけどな」
擦り傷程度と言った手には包帯が巻かれているが……。三人は黙って頷くだけにしておいた。
「それから熊を素手で殴り殺して、全身返り血だらけで、一人で熊を担いで帰ってきやがったな」
ハルなら担げるだろうけど……しかしあの臆病なハルが? いや、それよりも戦ったことも驚きだが、素手で熊を倒したって……。
「その次の日には、ここのギルドマスターに向かって剣を向けてな」
「「「ええ!?」」」
そもそもなんでギルドマスターと戦ってるのか……。
「幸い、刃のない剣だったから大怪我はしていないがな。それに剣を二本も壊していきやがったな」
コング達三人は唖然としていたが話はまだ続いた。ハルにひどいことを言ってしまって、ハルがめちゃギレしてる!? などとコングはあらぬ心配をしていた。
「終いには、ギルドマスターの娘をたぶらかして、村から連れ去っちまったってわけだ」
「「「ええええ!?」」」
ハルが女の子を? 一緒にいる時は女の子に興味無さそうだったが、だからといって男に興味があった訳ではないが……。
「本当にハルなんですかね?」
「うーん……。しかし、他に手掛かりはないし……」
「そ……それで、ハルはどこに向かったんだ?」
動揺を隠せないラルク。
「王都アルステムに行くって言ってたが……他のやつにはそのガキのことを聞かない方がいいぞ」
「ど、どうしてです?」
シルビアも信じ難い話に戸惑っているようだ。
「その連れ去った娘はこの村一番のアイドルだったから。みんなかなり恨んだり、妬んだりしているからな。とばっちり受けたくないなら黙っとくことだな」
隣で一緒に飲んでいる獣人の冒険者も同意見にのようで、ウンウン頷いている。
話が終わった冒険者は手をだしニヤリと笑った。
コングだけはこの手の意味をりかいできなかったが、ラルクが小銀貨を一枚を手渡すと、満足したようで満面の笑みで酒の追加をしていた。
なるほど情報料か……。
三人は今すぐ王都に向けて出発したいが、獣人の村ドベイルから王都アルステムまで数日かかることから、今晩の宿探しをしてから数日分の保存食等を調達し、その他準備をして明日の朝出発することにした。
そして準備を済ませた三人は、宿の食堂で食事をしながらハルの話をしていた。
ラルクが口に食べ物を運びながら、ハルの話を始めた。
「あの話の人物はハルで間違いないだろう、そしてハルが壊れてしまっている……」
やっぱり俺が文句言ったことで腹を立てて……。などとコングは頭を抱えていた。
いや、でもハルはそんなやつじゃ……。いやいや、ハルだって人間だ、怒ったり泣いたりするんだ。
頭を抱えて唸っているコングをよそに、食事を進めるラルクとシルビア。
「なんだコング、頭が痛くて食べられないのか」
そういって俺の食事にまで手をつけ出した。
「あ、私にも頂戴」
「なに二人しておいらの食事にまで手を出しているんですか!」
こうして次の日、コング、ラルク、シルビアは、ハルの滞在している王都アルステムに向かって歩き出した。
三人が王都に向かって歩き出した頃、獣人の村ドベイルに二人組の冒険者が来ていた。
「俺、獣人の村来たの初めてだ」
まだ駆け出しの冒険者、鉄ランクのダルマン。
「俺は来たことあるけど、村としてはまぁまぁだな。料理は肉類が多かった気がしたな」
ハルが初めて冒険ギルドに入った時に、絡んできた酔っぱらい男のオークスだ。
ドレイク・マティアに雇われた二人は、禁忌の魔法の実験体となった身体を探していたのだ。
酒場で実験体となったハルと絡んだのはたまたまて、そのときは捜索対象の人物とは思っていなかった。
ドレイクから与えられた情報は『黒髪で十三歳前後の男か女わかりにくい顔、そして話すこともできないような廃人』と教えられていた。
そのため、酒場で絡んだ時は気づくことができず、後に『女の子みたいな細腕なのにとんでもない怪力のハル』という噂を聞き、『廃人』という以外は一致していたため調べてみたら、捜索対象だったのだ。
しかしその後、ハルがコングと喧嘩別れをしてしまい、見失ったというわけだ。
「ガキんちょの顔は、俺知らないからな。ガキんちょ探しはオークスに任せた」
「でも獣人の村には、人間のガキが来ることなんかほとんどないんじゃないか?」
人族が獣人の村に来るのは、商人か冒険者くらいのため子供が来ることはまずないのだ。
「たしかにそうだな……。じゃあ、黒髪の女男のガキんちょ見つけたらお前に教えればいいな」
「おう、俺はギルドを見に行くぜ。ダルマンは宿の方頼むわ」
「村なのにギルドがあるんか……大したもんだな」
「なんでも三剣のラグドールが、褒美で冒険者ギルドの設立のを許可を願い出たらしいぞ」
「ふーん……」