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第十八話 対ヨハン

 

 ギシリギシリと木の床を鳴らせながら、ヨハンを連れて道場入り口に戻ってきたオリバー騎士団長とクロエ姫。

 そこには先ほど、ここを通ったときにはなかった人混みがあった。



「なんでぇこんなに人が集まってんだぁ?」


 ヨハンから直接声をかけられた門下生は、憧れのヨハン師範に加え、オリバー騎士団長にクロエ姫までいたことに驚き、興奮気味に質問に答えた。


「ぉおはようございます! え、えとっ! 可愛い女性二人が絡まれてるとかなんとか……で、自分も見てみようと……。じ、自分も事情をよく知らないもので!」


「女性二人? もしかしてハルとソマリかしら? 二人とも可愛いから求婚でもされてるのね」


「さすがに求婚はないとおもいますよ……」


 オリバー騎士団長も、多分ハルとソマリであると思っていたが、まさかケンカをしているとは思ってもいなかったようだ。






 僕に向かって木刀で殴りかかってくる門下生。

 僕は木刀を受け止めようとしたが、その門下生は振りかぶったまま固まってしまった。

 どうしたのだろう?


「――っく! やっぱりキールの頼みでも、武器も持ってないこんな可愛い子を殴れねぇよ!」


 このグループのリーダーはキールというのか。


「こ、こいつは男だぞ!」


「知ってるよ! でも武器も持ってない子供を殴ったら、それこそ俺が悪者になっちまうじゃねーか!」


 ソマリがスタスタと、この門下生に近づき、力強く握手をした。

 ……ソマリ。なに素敵な笑顔してるんですか……。

 握手された門下生困ってますよ。あ、照れてるのか……。


 すると僕を囲んでいた他の門下生達も木刀を下ろしだした。キールとは気まずいようで目を合わせないようにしているようだ。

 そりゃ、子供相手に囲んでなにやってるって感じだよね。

 キールだけが僕に恨みがあるわけだし。


 そんな仲間達に苛立ちをみせ、僕に向かって走り出した。


「ちっ! どいつもこいつも!」


 キールは、悪態を吐きながら地面を這うように接近してきて、低い姿勢のまま膝辺りを狙ってきた。


 木刀を掴みにくい所に攻撃したのだろう。


 それを後ろに下がり紙一重で避ける。空を切って横に通りすぎた木刀が跳ねたように左手で斜め下から切り上がってきた。

 速い切り返しに少し驚いたが、ソマリほどのスピードではない。

 手に打ち付けた音が響き、僕はまたキールの木刀を掴んだ。


「ちっ!」


 キールは舌打ちをし、木刀に力を入れるが引き抜くことはできない。



 左手の木刀は掴まれたまま、右手が腰の刀を抜きかけた。

 僕は危険を感じてとっさにその右手の刀身が鞘から抜けきる前に下から蹴りあげる。

 とっさの事だったので、上手く手加減することができず、キールの腕の骨が砕ける感触があった。


「ぐぅっ!」


 うめき声と共に後ろに転がるキール。すこしやり過ぎたかな……やり過ぎると恨みを買いそうだ。

 腕を押さえながらうずくまっているが、苦しみながら僕と目が合った。目が血走ってて怖い……。



「おうおぅ、ちょいとゴメンよぉ」


 人混みを掻き分けて現れた人物は、真っ赤な髪で黒い着物に花びら舞う模様……わずかに顎髭を生やしてワイルド漂う雰囲気だ。


 もしかしてこの人がヨハンなのではないだろうか? 



 するとそれに続くようにオリバー騎士団長とクロエ姫もやって来た。



「クロエ姫様がなぜここに……」


 うずくまっているキールが驚いた顔で、クロエ姫を見上げている。


「彼は私の連れなの。あの子達はラグドールの紹介でヨハンに会いに来たのよ」


「ラグドール……まさか三剣の……?」


「来て早々、なんでケンカになるのよ……」


 ため息を吐き、呆れた様子で僕を見るクロエ姫。


「どうせなら私が観ているときにやってほしいですわね」


 クロエ姫らしいですね……そういうところ……。



「俺はぁヨハンだ。この道場の師範だ」


 やっぱりヨハンだったようだ。もう50歳前後のはずだが年齢より若く見える。


「僕はハルといいます」


「お前がぁラグドールのお気に入りだな。そしてぇ、そこの獣耳の嬢ちゃんがラグドールの娘だなぁ?」


 そう言って、僕とソマリと握手を交わす。


「ラグドールの娘、ソマリといいます。父ラグドールは、ヨハン様とお会いしたかったみたいですが、私がハル様に同行したため、冒険ギルドを離れられなくなりまして、今回は留守番となりました」


「そうか……あいつとはもう一度酒でも飲みたいぜぇ」


「村に戻ったら伝えておきますよ」


 フッと優しく微笑むヨハン。そして僕らに背を向けキールを見おろすヨハン。


「誰にやられたぁ?」


「…………そこの少年に……」


 うずくまったまま悔しそうに歯ぎしりをするキール。子供にやられたと言いたくない感じだが、仕方ないですよ。

 神様の力を分けてもらってるし……。


「ふーん……」


 キールからオリバー騎士団長に視線を移し、僕を指差す。


「こいつぁ強いか?」


「「「強いです!」」」


 ヨハンの質問に対し、オリバー騎士団長、ソマリ、クロエ姫の三人でバッチリ声を揃えた。そういうこと言わないで!

 ヨハンが僕をまじまじ見ているし……。

 ああああああ、この流れはヨハンと一戦ありそうな予感……。




 とりあえず中に案内されたが、なぜ道場……。木の床の道場か、懐かしい。

 前世でも中学の体育で……。あー……授業で苛められた記憶しかない……。


 門下生達は道場の壁に沿って座っている。全員正座。


 ヨハンは手紙を読み終えると、僕の手を取り、まじまじと観察している。


「武器を使ってきた手じゃないなぁ。おまえに合った刀を造ってくれぇと、書いてあるが?」


「ラグドールさんと打ち合ったときに、お互いの訓練用の武器が粉砕してしまったので、今度は壊れない武器で続きをやろうと……。

 対人の戦闘技術や剣術も僕はできないのでヨハンさんに鍛えてもらってこいと……」



 ヨハンは顎に手をやり、なにやらジっと僕を見ている。


「どれほどか見てからだな」


 そう言って僕に木刀を投げるヨハン。


 やっぱりこうなるのね……。


「ハル様の力みせつけちゃってください!」


 だからそう言うこと言わないで! ハードルあげないでください!


 クロエ姫は嬉しそうにしている。戦いを見るのが好きなんだよねぇ。

 いや、腕まくりして木刀持ちだし、ヨハンとヤル気満々の所をオリバー騎士団長に止められているようだ。




 後ろの門下生から腰の木刀を抜き取ると、僕に向かってきた――――っ速い!


 僕は初擊を受け止め、そのあとの数擊をすべて弾いてみせた。


「ほぅ、さすがにこの程度は防げるかぁ」



 それからしばらくヨハンの攻撃続く。攻撃から攻撃の繋ぎに無駄がなく、太刀筋が読みにくい、そして速い。

 手加減されているのはわかるんだが、弾くので精一杯だ。

 とてもこちらから手を出す暇がない。

 周りの門下生は声も出さずにじっと戦いを見守っている。


「たいしたもんだぁ」


「ヨハンさんは余裕たっぷりそうです……ねっ! っと!」


 おっとと、しゃべってる暇がない。


 ヨハンが距離をとり、打ってこいと手を招く。


 むぅ、こうなると僕にも意地がある。せっかくのお誘いだ。遠慮なくいかせてもらいます!


 僕はまだ見せていないスピードで間合いを詰め、ヨハンを驚かせるが、もちろん初撃を防がれる、そしてその後の僕の猛攻撃に少しずつ後ずさっていく。

 技術がない分スピードにモノを言わせて相手に攻撃させない。


 ――――つもりだったんだけど、打ちにくい!


 受けてくれればいいのだけれど、綺麗に流されてしまうので次の攻撃が遅れてしまう。


 攻撃するのが怖いと感じるのは初めてだ。

 その気になれば僕の攻撃を流された後に攻撃できそうだが……。


 静かな道場に木刀の打ち合う音が響き渡り続ける。



「ハル様頑張れ!」


 ソマリの声が一際大きくて苦笑いしてしまう。


「お前タフだなぁ」


「それは――っどもっ!」


 僕は攻撃を続ける。


 しかし……終わりはあっけなかった。


 僕が上から振り下ろし、ヨハンが木刀で受ける構えを見せたのに手応えがなくスルリと透き通ったように空振りしてしまい、僕の首元には木刀が寸止めされていた。


 僕はこの身体になってから初めて負けたようだ。

 いや、ラグドールとも続けていたら、多分技術のない僕はやられていたのだろう。


 僕はその姿勢のまま敗北を認めた。


 その瞬間、周りの門下生は大歓声と共に僕とヨハンに駆け寄ってきた。


 ヨハンと僕に汗拭き布を渡し、ヨハン には憧れと尊敬の眼差しを、僕にはよくやった! おまえすごいな! っと、称賛の声をかけてくれた。


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