第百一話 おかえりなさい
僕がハルとして死んでしまった後のことだ。
第二の人生、ハルとしての人生が終わってから、どれくらいの時間が経ったのかわからないが、僕は三度目のあの場所で寝転んでいた。
真っ白な場所。建物などはなく、床一面どこまでも続く白い床。見上げれば雲などはなく水色一色の空。
起きる気力が出ない。
「そっか……やっぱり死んじゃったのか……」
意識が途切れる時、ソマリともっといたいと強く思った。目が覚めた時、怪我がなくなっていれば……と。
しかし答えはこの場所にいるということだ。
「でも、やれることはやった……」
自分に言い聞かせるように一人呟いた。
「悠さん、おかえりなさい」
「あ……」
僕は身体をカバっとお越した。
そうだ、もしかしたら前回みたいに!
「もしかしてまだ死んでないとか!?」
しかし僕の期待とは裏腹に神様は無言で首を横に振った。
「ですよね……」
僕は身体からの力が抜けうなだれるように地面に顔を向けた。
がっかりはしたがやることはやった。自分に自身も持てた。それは神様が僕にすごいギフトを与えてくれたからだ。
「僕にすごい力を与えてくれて…そして転生してくれて…ありがとうございました!」
僕は深々と頭を下げた。
「ふふふ、私の気まぐれでやったことなので気にしないでください」
「あ、そういえばデモンもここに来るものなんですか?」
「デモン……? というと……あの悠さんと争っていた、空を歩くおじいさんですよね?」
「空を歩くおじいさん……」
なんか言葉だけ聞くととてもシュールである。僕はクスッと笑ってしまった。
「あの人が私と話す事はありません。遥さんやある一部の人のみ私が望んで対話するのです。他の方々はすぐに次の命に生まれ変わるのです」
へぇ...…そうなんだ……
「ただし故意に無差別に命を奪うような人はすぐに生まれ変わりはできません。長い時間、最大限の苦しい罰が与えられます」
えっ、なにそれ、こわい!
そんな物騒な事を、ニコッと笑顔で言ってしまう神様を少しこわいと思ってしまった。
「あの、これから僕はどうなるんですか?」
「どうしたいですか?」
笑顔のままの神様は質問に質問で返してきた。まったくこういう返しが一番困る……。
「どうと言われましても…………あっ! 生き返ることはできますか!?」
無茶な事を言っている自覚はある。しかし「どうしたいですか?」と聞かれたら期待してしまう。
ソマリのことが頭をよぎる。そんな僕の淡い期待を胸に神様に聞いてみた。しかし、そんなに甘くはないようだ。神様はまた黙って首を横に振った。
「です……よね」
僕はその場にあぐら座りをして空を見上げた。ソマリはどうしているのだろうかと、ぼんやり考えてみた。
あのまましばらくは泣くのだろう。
落ち着いたらきっとドベイルの村に戻って、僕と会う前みたいにギルドの受付嬢として働くのだろうか。
ソマリの性格だ。きっとまた、周りを巻き込みながら楽しくやっていけるだろう。
「生き返ることは出来ませんが、転生をさせることはできますよ」
転生……別の人生として生まれ変わってもソマリとは他人だし、同じ世界とは限らないのではないだろうか?
かえって記憶が残ったままでは苦しいだけでは?
「心配されていることは大丈夫ですよ。ソマリという女性がいる世界、遠くない所、なるべく早く産まれる命への転生を約束しますよ」
「ほんとですか!?」
これから産まれてくる赤子への転生。
「遥さんの今までは記憶は、物心つく頃には思い出すと思いますよ」
と言われた。
でもソマリは僕の容姿が気に入っていたのだ。次の僕が受け入れられる保証はない。
それに赤ちゃんから成人になるまで10年以上経ち、僕の事を恋愛対象としてみてもらえるのだろうか……。
神さまは優しく微笑んだ。
顔についてはこれから芽生える命ならどうにでもなるのだという。
「遥さんは自分の命を犠牲に多くの命を助けたので特別サービスですよ」
と、ウインクした神様はとてもかわいかった。
前々世の悠でも、前世のハルでも、それとも産まれてくるそのままの顔でも……。
――――もちろんハルの顔にしてもらう。ソマリが大好きだった顔だ。もちろん僕も気に入っていた。
前世のハルの顔立ちにしてもらい、赤子から始める。そしてソマリに会いに行くまでに強くなる!
記憶がそのままならヨハン刀術や魔法の知識も残っている。それをベースに鍛えればいい。……後は身体作り。
どんなに苦しくても頑張って強くなる。
もしソマリが年の離れた僕を相手にしなくても、それでももう一度会いたい。友達にはなってくれるだろう。
こうして僕の新しい命となる条件の合う命の芽を探すことになった。
あまりにも苦しい生活になるであろうと思われる命には転生させないという。
たしかに、その通りだ。転生できるならばどの家庭にでも……というわけではない。
できるならば自主トレーニングができるような環境がいい。
生活でいっぱいいっぱいの家庭では、剣術の訓練などしていられないだろう。
そんな都合の良い転生先がすぐに見つかる訳もなく、しばらくの間、神様の話し相手として付き合うことになった。
神様は僕がここに来るのを楽しみに待っていたらしい。僕との会話なんて楽しいものじゃないと思うのだが……。
悠としての話、ハルになってからの話、そしてこれからどうしたいなどを沢山話した。
こうして、一年後。ハルはハルカとして新しい命へと転生することとなった。
神様のギフトの件については聞かなかった。チートみたいな力がなくても、生まれ変われるなら自力で強くなればいいと考えていたからだ。
しかし、そんな悠の思いとは関係なく、神様が色々と根回しをし、ギフトまでも分けていたなんて思いもしないのであった。




