第67話 「女心は分かりません」
キャメルをサンとの勝負に連れてくるのは嫌だったんだけど。実際、キャメルがいてくれて助かった。
「ここが、剣道場よ」
俺は、剣道場の場所を知らなかった。
だって、誰も教えてくれないし。
「でも、誰に呼び出されたのよ」
そういえば、言ってなかったな。
「サンだよ。勝負に勝ったら、ソディーを守ってくれるってさ」
俺は、言葉と同時に剣道場の扉を開けた。
「来たな」
中には、すでにサンが立っていた。
「シュラ。誰だよ、そいつ」
サンの目線は、キャメルの方を向いている。
「Dクラスのキャメル・マクベスよ。初めまして、サン・メナクス?」
「なるほど。女連れで来るとは」
サンが一気に、俺との間合いを詰める。
「あっぶねー」
サンの横に振られた剣を、何とかブルーを抜いて止める。
「お前、どこまで私を」
「ちょ、ちょっと待てよ。何言って」
サンの剣は止まらない。
正直、以前よりも断然鋭い剣筋に、俺は何とか受け止めることしかできない。明らかに、成長している。
「久しぶりに会ったと思ったら、女の話し。呼び出せば、女を連れてくる」
見たことのないほど狂気に満ちた茶色い瞳が、俺を射抜く。
「何の話ししているんだよ」
「私だって、私だって」
サンが、剣の持ち手を変え、左手を突き出す。
「フィアム・ウッデッド!」
火のついた木が、俺に向かって伸びてくる。
くそっ。特魔法か。どうする。
「なるほど。そういうことね」
キャメルの呆れた呟きが聞こえた。
何か分かったのか?
俺の疑問を聞く間もなく、キャメルが俺の目の前に立ちはだかる。
「な! なにやってんだよ!」
サンの放った魔法は、キャメルの身体に当たり弾け飛んだ。
「大丈夫よ。分かってるでしょ」
「そうだけど」
「それより」
キャメルが、サンに近づく。
茫然としているサンは、キャメルが近寄っても何の反応も示さない。
「サン。大丈夫よ。私も、ソディも、シュラのことは何とも思ってないわ。だから安心して。あなたの」
最後の言葉は、俺の耳にまで届かなかった。
「な、そんなんじゃ」
でも、サンの焦りようから、ただごとではないことは分かる。
なに言ったんだよ。ほんとに。
「そんなに顔を真っ赤にしても説得力ないわよ」
「う、うるさい! シュラ。もういい。ヤンクを守ればいいんだろ」
「え」
いいのか? 勝負はついてない。っていうか、始まってもない気がするけど。
「その代り、これからいつでも私が望んだ時は勝負しろよ! いいな!」
「あ、ああ」
サンは、真っ赤な顔で剣道場から出て行った。
何であんなに怒ってる? 顔も赤いし。熱でもあったのかな?
「良かったわね。サンが、引き受けてくれて」
「なあ。キャメル。お前、なにを言ったんだ? 何で、サンはあんなに怒ってたんだよ」
「あんた、ほんとに鈍感よね」
キャメルは、本日2度目のため息を吐いた。
わけが分からん。