第65話 「変わらないな」
あれから、じいさんと別れて。キャメルを叩き起こして、何とか寮まで帰ってきた。
叩き起こしたことに関しては、もうしょうがいないだろう。抱いて帰るわけにもいかないんだから。
そして、今日。
「居心地悪いなあ」
女子寮の入り口まで来ていた。サンとキャメルと一緒に学校に行くためだ。
別に、男子が女子寮に、女子が男子寮に入ってはいけないという規則はない。寮も隣同士だ。だからといって、そんなに行き来があるわけでもない。
特に、朝。全員が通学するこの時間に女子寮に入っていくのは気が引ける。
「シュラじゃないか! 久しぶりだな!」
「サン!」
女子寮から、サンが出てきた。
別れて1年くらいは経ったか? でも、サンはどこも変わっていない。
「ユアンに聞いたよ。お前、よく説得できたな」
「まあな。絶対に追い抜くって約束したからな」
そうか。サンにも、ソディーのことを頼まなくてはいけない。
「なあ。サン。お前、ソディーと同室なんだよな?」
「ん? ああ。ヤンクのことか? そうだけど」
なんだ? あんまり仲良くないのか?
確かに、気は合いそうにはないけど。
「実はな、お願いがあるんだけど。ソディーが寮にいる間、周りの人から危害を受けないように守って欲しいんだ」
「どういうことだ?」
サンは、いじめられていた事実は知らないのか。
「話すとややこしいんだが。とにかく、ソディーは、BとCクラスの生徒からいじめられてたんだ。今は収まっているんだけど。また、いじめが再燃するかもしれない。だから、同室のサンに守って欲しい。お前も、いじめとかは気に食わないだろ?」
「まあ、気に食わないけど」
けど?
「じゃあ、シュラが私と勝負して勝てたら引き受けるよ」
「はあ? なんで、そんな条件」
「なんだ? お前のヤンクを守りたいって想いはそんなものかよ。それとも、また負けるのが怖いのか?」
サンが、口角を釣り上げる。
こいつ、挑発してきやがった。ここで、挑発を受けなきゃ、多分サンは引き受けてくれないだろう。
相変わらず、口が悪くて好戦的だ。確かに、サンには一度も勝てたことがない。でも、俺も昔と変わってないなんて思うなよ。
「いいだろう。負けても、文句言うなよ」
「決まりだな。今日の昼に剣道場に来いよ」
サンは、先に学校へと歩を進めた。
俺は、ソディーのことを心配しつつも、サンとの勝負を楽しみにしているのを感じていた。