8−2.
粗末な寝床に横たわりながら、ミレーは天井を見つめていた。
体中が痛い。
喉も渇いている。
――そして。
胸の奥が、じくじくと痛んでいた。
「(・・・どうして。)」
ぽつりと、心の中で呟く。
「(どうして、こんなことに・・・。)」
答えは、地下牢の中で分かっているはずだった。
けれど。
認めたくなかった。
「お姉様・・・・・。」
ふと、思い出す。
ベスタの顔。
怒り。
悲しみ。
そして――
「・・・誰からも愛されてないし。」
自分が吐き捨てた何よりも酷い言葉。
胸が、きゅっと締め付けられる。
「(・・・違う。)」
誰からも愛されていなかったのは。
「私だったんだ・・・。」
ベスタは、自分を何度も止めようとしていた。
何度も。
何度も。
そして忠告を無視してたくさんの人達を傷つけてきた。
思い出すほどに、胸が痛む。
「なんで私は・・・・。」
姉を陥れようと笑っていた自分。
姉を傷つけていることに、気づきもしなかった自分。
「・・・・・いや。」
首を振る。
否定したい。
けれど。
逃げられない。
今、自分がいるこの場所。
この痛み。
この苦しさ。
――すべて。
「わたくしが。」
声が震える。
「わたくしが、悪いの。」
やっと自分の行いを認めた。
ぽろり、と涙がこぼれた。
初めてだった。
自分の行いを、こんな風に振り返ったのは。
「お姉様・・・ベスタお姉様。」
かすれた声で、名前を呼ぶ。
返事はない。
「ごめんなさい。」
その言葉は、誰にも届かない。
ただ。
静かな闇の中で、ミレーの小さな後悔だけが、ゆっくりと積み重なっていった。
ミレーは嗚咽を漏らした。
次の日からミレーは事あるごとに姉の名前を叫ぶ様になった。
「助けてお姉様助けて!」
「お姉様ごめんなさい!助けて!」
「お姉様!お姉様!」
「ベスタお姉様ァ!!」
でも姉ベスタは助けてくれない。
何度も助けようとしてくれたのに・・・。
「ミレーいい加減にしろ!ベスタは助けてくれないんだ!自分でどうにかしろ!また鞭で打たれたいのか!?」
アレックスが座り込んで泣きながら姉の名を叫ぶミレーを無理矢理立たせる。
「いや、いや!お姉様!お姉様ァ!」
その光景を遠くからカイザルが見ていた。
「ベスタからミレーへ手紙を頼まれたが・・・働かない者にはベスタからの手紙はおあずけだな。」
その手紙にはベスタからの『いつまでも待っています。』という言葉が綴られていた。
「妹に甘い姉だ。」
姉の愛は深かった。
ただ、それを理解した時には全てが遅かった。
遠く離れた空の下、姉ベスタはミレーを想っていた。
「貴女に嫌なことも酷いこともいっぱいされたのに、どうしても嫌いになれなかった・・・・・何故かしらね。」
ベスタは小さく笑った。
「また再び会った時にわかるかしら?」
ベスタは真っ青な空を見上げた。
「待ってるから。」
この想いがいつかミレーにも届く様に。
「ずっと。」
end
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