1.姉ベスタは限界だった
「お母様ぁ~!お姉様がマナーだの非常識だのうるさいのぉ~!どうにかしてぇ~!」
今日も今日とて、公爵家のよくある光景に使用人達は欠伸をして見ていた。
黒髪ツインテールで緑の瞳の愛くるしい容姿の妹はいつものように気に入らない事があると姉を悪者にして楽しんでいた。
「ベスタ。今直ぐ私の執務室へいらっしゃい。」
母の執務室に来る様に言われたのは長い銀の髪と碧眼のクールビューティーな印象の姉。
「でもお母様!ミレーはお茶会で参加者の令嬢の騎士に手を出しましたのよ!そんな非常識な事がありまして!?」
「つべこべ言わずにいらっしゃいっ!」
ピシャリと母に言われた姉ベスタは母と共に母の執務室に入っていく。
悔しそうに唇を噛むベスタにあっかんべーをする妹のミレー。
ミレーが原因で母の執務室に呼ばれる事はよくあり大半が理不尽なお叱りだった。
「いつも言っているわよね?妹に余計な事は言わない!貴女は次期当主として領と家の未来の事だけ考えていればよいのです!」
「ですが!このままではミレーのせいで領と家の評判を落としかねません!いいえ、既に落としています!」
「それは貴女が考える事ではありません!」
「それでは矛盾していますっ!」
「ベスタッ!!!」
突如として声をあらげベスタの名を叫ぶ母にベスタの肩が跳ね上がる。
「私から鞭を打たれたくなければ余計な事を言わずに次期当主として勉学に励みなさい!分かりましたか?妹に関わる事なく、妹が何をしようとほっとくのです!何度も言わせないで!」
「でもっ!お母様!それではっ!」
「ベスタッ!何度も言わせないでと言っているでしょ!次期当主としての資格を剥奪されたいのですか!」
ベスタは何か言いたげに唇を噛み締めると母に背を向けた。
「お母様はいつもそう・・・そんなにミレーが可愛いならミレーを次期当主にすれば良いのに。」
「ベスタ!貴女今なんてっ!??」
「失礼致しますわ・・・。」
ベスタはバタンとドアを閉めると両手で涙を抑えながら走って自室に向かった。
そのベスタの姿を複数の使用人が見て、またかと呆れた様にため息をついたり馬鹿にして笑っていた。
執務室の椅子に1人座る母リーニャは大きいため息を付くと、机の中から古いロケットを取り出す。
そしてそのロケットを強く握りしめると泣きそうに顔を歪めた。
「私だって、どうすればいいのか分からないのよ……。」
ガチャリと音がすると夫のロジャーが入って来て慈しむ表情で妻リーニャを抱きしめた。
「私、あの子が憎いわ。本当は憎くて憎くて仕方ないの。でも耐えているの。母としての残っている一欠片の情で…。」
「分かっているよ、君が耐えて頑張っている事は…。」
「またベスタを泣かしてしまったわ。本当は普通の親の様に優しくしたいのに。」
「ベスタもいつか分かってくれるさ。」
執務室には母リーニャの鼻をすする音が響いていた。




