なにがNTR〇ックスだ。這い上がってやるよ
病院で検査を受けた結果は、青宮の体に異常はなかった。調子も悪くない。
また、泉と有島は意識不明だが、無事に回復するだろうとのこと。
(無事に回復する、ねぇ)
ついイライラとそんなことを考えつつ、その日の青宮は真っ直ぐにアパートへと帰り、眠ったのであった。
平凡な1Kの一室。フローリングの上に敷いた布団で横になりながら、ふと、あの美女のことを考える。
「え~! 返事早い! なんで、なんで! あの2人が復帰するまでの間でいいんだよ?」
助けてくれたパーティーにも聞こえる声で、樹が叫ぶ。
「俺、しばらくソロで活動しようと思うんだ。自分があまりに弱すぎてな……危険は多いけど、リスクを背負わないと強くなれない気がする」
狩りは危険な状況や格上との戦闘であると、レベルの上がりが良くなる。
ソロというのは手っ取り早い「危険な状況」なので、基本的に成長が早いのだ。
そして彼なりに考えた結果が、ソロでの狩り。
これで己を鍛えレベルを上げて、それでも弱いままだったら、冒険者は諦めようと思った。
ただ、このまま終わるのは色々と、気に入らない。
いざ近くでアンアンされてわかった。ものすごく腹が立つ。
そう簡単に、折れてやるものかと考えた。
「む~。フラれた」
「誤解を招く言い方をするなって……」
「わかった。でも、後で連絡先教えて。私、君のことを諦めるつもりはないから」
「何故……?」
「いいから、いいから。ふふふ、一瞬ショックだったけど、ソロっていうことは、まだ誰の物でもないからね~。私が目をつけとこっ」
「??? まあ、いいけど」
ただ、先ほど樹を勧誘していた男が、チラチラと青宮の方を「なんで彼と親し気なんだ……?」と、嫉妬と疑問の混じった視線をよこしているので、なんだか面倒だなと思った。
しかしなにもトラブルは起きないまま、ダンジョンを出て、無事に街へ戻れたというわけである。
美女の名前は――樹 小春、というらしい。
同じ21歳で、駆け出しの冒険者のようだ。似た境遇である。
(なんで気に入られたのかはわからないが、可愛い女の子の連絡先ゲットか……)
もちろん、なにを考えているのかイマイチわかっていないので、警戒はしている。
それでも、寝取られた後ということもあり、悪い気はしなかった。
☆
朝の6時。元社畜なので、早く起きるのはもう習慣だ。朝礼は9時だが、その前にやることがあるので出勤は7時、なんてことは当たり前であった。洗顔などのルーティンを終えた後、腕立て伏せなどの筋トレ、外でのランニングなどをこなす。
ダンジョンは基本、ステータス頼りだ。
ステータス・スキルによって冒険者の戦力が決まる。
しかし生身の肉体の影響は、ゼロではない。
体を鍛えたり、武器の扱いが上手になると、レベルアップ時のステータス上昇に影響するという説があるのだ。
つまり、筋トレや自主トレが無駄ではない。
青宮は冒険者になってから、このトレーニングを欠かさなかった。
本当ならば、ダンジョンへ早く行きたいのだが、入るには冒険者協会の受付が必須だ。協会の受付は午前9時~午後の18時まで。それ以降はダンジョンからの退室など、ほんのごく一部の手続きしかしてくれない。
「ふう……」
一息つきつつ、アパートへ戻りシャワーを浴びる。
汗を落とし、身綺麗にした後外へ出るための服に着替える。
白のインナーシャツに、青のジャケット、黒のズボンといった恰好だ。一見普通の服だが、冒険者向けに作られた頑丈な素材で作られている。
「ん?」
部屋を出ようと、玄関で何気なく携帯を確認すると、通知が来ている。
樹からのメッセージだ。
――おはよう! 体は大丈夫? 今日も一日頑張ろう! おーっ!
などという文章と共に、猫が右腕を突き上げて、おーっ! と、元気を出しているスタンプが送られた。
樹の明るい雰囲気の容姿と、可愛らしい顔が脳裏に浮かぶ。
「なんというか、学生時代に何人かの男子を勘違いさせてそうな女の子だ……」
そう思いつつ「おはよう。体は大丈夫だ。えいえい、おーっ!」という返事を送信した。
野郎が「おーっ!」とかやっても、気持ち悪いだけだなぁ、と考える。
「さて。今までは、ちょっとぬるかったな。もっと気合入れてやらないと。人間って、月に200時間残業しても、簡単には倒れないもんだしな」
泉と有島がいたので、彼らのペースに合わせていた。
だが、これからは違う。
徹底的に自分を追い込み、冒険者として強くなるため、やれることは全てやろうと考えた。
パン、と青宮は軽く頬を両手で叩いた後、扉を開けて外へ出る。
「ここから、冒険者のロマンを掴んでやる。なにがNTR〇ックスだ。お前らが意識失っている間に、這い上がってやるよ」
彼は冒険者であるにも関わらず、怒りも相まって社畜の面構えとなっていた。
自由を得るため退職したのだが、NTRのショックにより火がつく。身に染みたブラックな考えと習慣は、この時に強い力となったのだ。




