彼氏さぁん。最初の見張りよろしく
夜の第一階層へ入り、軽く狩りをした後、三人は野営をすることになった。ダンジョンの中だが、夜空があり、月の光が草原を淡く照らしている。
有島がアイテムボックスから取り出したテントを張った。
その中で二人が仮眠をとり、一人が外で見張りをするという段取りだ。
「じゃあ、彼氏さぁん。最初の見張りよろしく」
「……ああ」
(やっぱり、そう言うと思ったよ)
泉と有島がテントに入り、入口が閉じられる。
中の明かりが消え、静寂が訪れた。
青宮は斧を手に、周囲を警戒する。
だが――五分ほど経った頃。
テントの中から、押し殺したような声がもれた。
「いやっ、だめっ、声、バレちゃうよ……」
「いいじゃん、いいじゃん。気にすんなって」
彼氏が近くにいるということもあって、かなり盛り上がっていた。外にいる青宮にまで、はっきりと音が聞こえる。泉のアレな声はもはや隠す気がなく、外へダダもれになっていた。テントもすごく揺れている。
(……はぁ)
青宮は目を閉じた。
怒りよりも、呆れが先にくる。
(やっぱ、来なきゃよかったな)
ゴースト狩りは建前。
“見張り”という名目で青宮を外に立たせ、二人で楽しみ、盛り上がろうという考えなのだ。
(俺は……〇TR〇ックスのスパイスかよ。まあ、報酬の三等分で十万は入るけどさ……)
重いため息をつく。
その瞬間――ゾクリ、と。背筋を氷で撫でられたような悪寒が走った。
「っ!?」
斧を構える。
草原の先、丘の上からそれは現れた。
漆黒のフード。
中身は影の塊のようで、足はなく、音もなく浮いている。
両手には長い鎌。
銀色の刃が月光を反射し、不気味に光った。
(……死神?)
ここは初心者向けの第一階層。
協会が発表しているデータにはないモンスターだ。
本能が叫ぶ。
逃げろ、と。
心臓を直接つかまれたかのような、冷たい恐怖が走った。
気は進まないが、あの2人にも知らせなければ――そう思って振り返った瞬間。
ずぶり、と。
胸を貫く、鋭い衝撃。
「……っ、ごぼっ……!」
反応する暇もなかった。
刃が引き抜かれ、血があふれ、視界が揺れる。
倒れた青宮の横を、死神はゆっくりと通り過ぎ、テントへ向かった。
「いやぁ!? ちょっと! なに逃げてんのよ!」
「ひいいいいっ!? やだやだ、死にたくなぁぁぁぁい!!!」
2人の悲鳴が遠くなる。
青宮の意識は、暗闇へ沈んでいった。
(……どんな人生だよ、ほんと)
彼女に裏切られ、才能があるかもと言われた冒険者の道にも見放され、わけも分からず殺される。
(あの二人は……どうなったんだ? ていうか、なんで俺は意識がはっきりしてる?)
不思議な感覚だ。
真っ暗な空間で、思考だけが浮かんでいる。
そしてその時――機械的な、システム声が響く。
『――冒険者、青宮 翼の死亡を確認しました』
『――ユニークスキルの開放条件を達成』
『――ユニークスキル「∞ウェポン EX」を習得』
『――解放特典として、青宮 翼の再生を行います』
☆
「えっ……傷が塞がってる!? すご……あっ、気がついた?」
目を開ける。そこには、こちらを覗き込む美女がいた。肩の辺りまで伸びたセミロングの茶髪。まだあどけなさの残る、活発そうな可愛らしい顔立ち。美しく綺麗な白い肌。 ダンジョン産の素材で出来た、頑丈な服は黒のショートパンツに、白のインナーシャツに、ピンクのジャケットを着ている。服を大きく押し返す胸の膨らみはかなりのもので、思わず目に入る。全体的にグラマラスで、スタイルの良い女の子であった。
「あ、ああ……なぜか、生きているな」
起き上がると、服には穴が開いているのに、胸の傷は完全に塞がっていた。
「もしかして、再生系のスキル持ちなの!? すごい!」
彼女は目を輝かせたが、青宮は周囲を見回す。
「っ、鎌を持ったモンスターはいないか!? あれは危険で――」
言葉が止まる。
少し離れた場所で、別のパーティーが有島と泉の手当をしていた。
「君の仲間の状態だが……リザレクト・ポーションと回復魔法で、なんとか傷は塞いだ。意識はないが、呼吸はある。油断は出来ないが、生きていると思う」
(……そうか)
助からなくてもよかった、という気持ちはある。
だが助けてくれた人たちに礼は言うべきだ。
「ありがとうございます」
「いえいえ。ところで……樹さん。僕たちと今後もパーティーを――」
長身の男が美女に声をかける。
彼女――樹は首を傾げた。
「考え中かな。とりあえず、明日は組まないってことで、よろしくね」
男は肩を落とした。
ワープポイントへ向かう道中、最後尾を歩く青宮と樹。
樹は青宮の背中を見つめ、いたずらっぽく笑った。
(ふっ、ふっ、ふっ。再生する体……きっとこの人、なにか特別なスキルがあるに違いない。私みたいな鑑定スキル持ちが、人のステータスを勝手に見るのはマナー違反だけど……ごめんね! 気になるんだもん! ちょっと失礼♪)
樹はこっそり鑑定スキルを発動し、青宮のステータスをのぞく。
(ふむふむ……現状は弱い。ユニークスキルもネタ枠に見える。でも……)
彼女の表情が一変し、華やかな笑顔になった。
興奮した様子で青宮の背中をツンツンと突き、小声でささやく。
「ねえ、君さ。私と一緒に組まない?」
青宮は即答した。
「ごめん。断る」
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