声、バレちゃうよ……。
夜に第一層へ入り、軽く狩りをした後、野営をすることになった。ダンジョンの中だが、夜空があり月の光が辺りをほんのりと照らしている。
有島がアイテムボックスから取り出したテントを張った。その中で2人が仮眠をとり、1人が外で見張りとして立つことになる。
「じゃあ、彼氏さぁん。最初の見張りよろしく」
「ああ……」
(やっぱり、そう言うと思ったよ)
泉と有島がテントの中へ入り、入口が閉じられ、明かりが消える。
青宮はアイテムボックスから取り出した、80センチほどの長さの斧を持ちながら、周囲を警戒した。
5分経過。テントの中から「いやっ、だめっ、声、バレちゃうよ……」なんて甘い声が聞こえてきた。ゴースト狩りなんてものは、建前なのだろう。青宮を見張りにして、2人で盛る。これはそういうプレイなのだ。
彼氏が近くにいるということもあって、かなり盛り上がっていた。外にいる青宮にまで、はっきりと音が聞こえる。泉のアレな声はもはや隠す気がなく、外へダダ洩れになっていた。
(来なきゃよかったな。思った以上に不愉快だ。俺はNTR〇ックスのスパイスかよ。まあ、これで10万円(※ゴーストの報酬の三等分)が手に入れば、良いんだけどさ……金はあるに越したことはない)
はぁ、とため息をつく。
音でモンスターが寄ってきそうである。
それくらいの盛り上がりだ。テントもすごく揺れている。
……と、そんな時であった。
ゾクリ、と。
経験したこともないような、凄まじい悪寒を感じた。
「っ!?」
斧を構える。
広がる草原の先――盛り上がった丘から下って来る、黒い影。
「なん、だ……こいつ!?」
漆黒のフード。中身の黒い影の塊のようなものが、人型の形をかたどっている。しかし足はなく、フワフワと音もなく浮いていた。両手に長く大きな鎌が握られていて、銀色の刃が月明かりに反射して光る。
まるで死神だ。これはゴーストではない。別のなにかだ。
ここは1階層で、レベル帯の低いエリア。いわば初心者向け。
とんでもない強さのモンスターは、出現しないはずだ。
それなのに、本能が警告する。
逃げろ、逃げろ、と。
気は進まないが、2人にも知らせないといけない。
後ろを向いた瞬間。ずぶり、と。
鋭利な鎌の刃が、彼の胸を貫いたのであった。
あまりにも早い動きで、ステータスの加護のある青宮でも反応すら出来ない。
「ごぼぉ、オォっ!!!」
刃を引っこ抜かれる。大量の血を吐きながら、青宮は倒れた。
死神はゆったりとした動きで、テントへと向かう。
遠のく意識の中。「いやぁ!? ちょっと! なに逃げてんのよ!」「ひいいいいっ!? やだやだ、死にたくなぁぁぁぁい!!!」などという2人の声が聞こえたが、青宮はゆっくりと目を閉じた。
☆
(いやいや……どんなクソ人生だよ)
結婚も視野に入っていた彼女を寝取られて、才能があるかもと言われた、冒険者のステータスにも見放されて。
それで、わけもわからず殺された。
(あの2人はどうなったんだろう……ん? ていうか、なんで俺、こんな思考がはっきりしているんだ?)
辺りは真っ暗で、体の感覚はない。
不思議な感覚だった。
意識は薄れているのに、はっきりと思考が出来る。
やがて、無機質なシステム音が聞こえてきた。
『――冒険者、青宮 翼の死亡を確認しました』
『――ユニークスキルの開放条件を達成』
『――ユニークスキル「∞ウェポン EX」を習得』
『――解放特典として、青宮 翼の再生を行います』
☆
「え、ええっ!? この人、なにもしてないのに傷が塞がって……すごっ! あっ! 気がついた?」
目を開ける。そこには、こちらを覗き込む美女がいた。
肩の辺りまで伸びたセミロングの茶髪。まだあどけなさの残る、活発そうな可愛らしい顔立ち。美しく綺麗な白い肌。
ダンジョン産の素材で出来た、頑丈な服は黒のショートパンツに、白のインナーシャツに、ピンクのジャケットを着ている。服を大きく押し返す胸の膨らみはかなりのもので、思わず目に入る。全体的にグラマラスで、スタイルの良い女の子であった。
「あ、ああ……何故か、俺は生きているな」
起き上がる。服に穴は開いているが、胸の傷は塞がっている。血の跡すら消えて無くなっていた。
「もしかして、君って……再生スキルのようなものを持っているのかな!?」
キラキラ~! と、輝いた瞳を向けられる。
だが、そんなことに答えている場合じゃない。
どれくらい気を失っていたのか、わからない。だが、もしも近くにあの死神がいたら、とんでもないことになる。
「っ、鎌を持ったモンスターはいないか!? 低ランクエリアとは思えないくらいに、危険で――」
立ち上がるも、その言葉は止まった。
若い2人の男性と、2人の女性によるパーティーが有島と泉の手当をしていた。
回復アイテム、回復魔法を使えば致命的な負傷や欠損を治すことが出来る。
もちろん、状態や経過時間などによっては「手遅れ」になり治療は不可能となるが。
美女の表情が引き締まった。
「なにかあったみたいだね。でも、大丈夫。私達が駆けつけた時には、近くにモンスターや不審な人物は見当たらなかったよ」
「……そうか」
1人の長身の男が、有島を担いでこちらへ近づいた。
「驚いた。君は、無事なのか」
「ええ。まあ、はい……」
自分でもなぜ助かったのか、まだ呑み込めていないので、生返事になる。
「君の仲間の状態だが……リザレクト・ポーションと回復魔法で、なんとか傷は塞いだ。意識はないが、呼吸はある。油断は出来ないが、生きていると思う」
正直、2人は助からなくても良いという気持ちはあるが、彼らにお礼は言わないとダメだろうと考えた。
「ありがとうございます」
「いえいえ。ごほん。ところで……思わぬトラブルはあったが、い、樹さん。俺達と、今後もパーティーは組んでもらえるのかな?」
なんてことを、突然男は言い出した。なぜかその頬は、赤くなっている。
樹、と呼ばれた先ほどの美女は、うーん、と首を傾げた。
「考え中かな。とりあえず、明日は組まないってことで、よろしくね」
「うっ……そ、そうか……」
男はしょぼくれていた。
よくわからないが、男はこの美女……樹を、パーティーへ勧誘したいようだ。が、この返事の雰囲気からして、彼女は入る気がなさそうである。
「仕方ないか……まあ、諦めるつもりはないが。さて。近くのワープポイントまで行こう。病院へ連れていかないと」
こうして、ダンジョンから出られるワープポイントまで一緒に行こうという話になり、一行は移動を開始した。
最後尾には、樹と青宮。樹は青宮の背中を見ながら、なにやらあくどい表情を浮かべていた。
(ふっ、ふっ、ふっ。再生する体……きっとこの人、なにか特別なスキルがあるに違いない。私みたいな鑑定スキル持ちが、人のステータスを勝手に見るのはマナー違反だけど……ごめんね! 気になるんだもん! ちょっと失礼♪)
樹は青宮へ無断で、鑑定スキルを発動。
メニューを開き、青宮のステータスとスキルをこっそり見た。
(ふむふむ。これは……パッと見は普通。むしろ現状は、弱いかも。このユニークスキル「∞ウェポン」っていうのも、ネタ枠って判断されそう。でも……)
彼女の表情が、やがて華やかな笑顔となる。そして興奮した様子で、青宮の背中を右手の人差し指でツンツンと突き、彼を振り返らせた。
周りへ聞こえないよう、小さな声で言ってくる。
「ねえ、君さ。私と一緒に、組まない?」
だが、青宮は即答した。
「ごめん。断る」
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