忍び寄る影
ミス・桐澤が死んだ。
その訃報はアメリカの冒険者業界にも届き、震撼させた。
「ありえん」
「なぜだ?」
「彼女は青宮 翼とヤりたいと言っていたな」
「彼にヤられたのか?」
「いや、ありえん」
「彼女が負けるのは、万が一にもありえない」
「絶対にありえない」
「というか、ありえてはならない。ミス桐澤は性格上、どこの国の味方でもなかった。自由な女だった。しかしそれが、ダンジョンブレイクのために働く青年となると……」
「日本が最強戦力の保持国になると!? 冗談じゃない! 我々アメリカこそがトップだ!!!」
「落ち着け。ダンジョンすらも退屈な冒険者だ。たしかに青宮 翼は優秀な才能を持っているが、彼女に勝つのは不可能だ」
「生きている! 彼女は生きている!!!」
そんなわけで、調査をすべくアメリカの冒険者は、1人の人材を日本へと入国させた。
隠密スキルに特化した、今回の任務にうってつけの人材だ。
金髪ロングの、美しいブロンド美女である。年も20代前半と若く、ワンチャン青宮をハニトラにかけようという魂胆が透けて見える。
実際、このブロンド美女――オリビアは、もしも青宮に桐澤を倒せるほどの力があるのならば、籠絡しようと考えていた。
桐澤担当だったので、日本語も喋れる。コミュニケーションも問題ない。
だが……肝心の青宮の行方は、途切れ途切れだ。
所属ギルドに顔を出すが、それ以外の行方が掴めない。
協会に情報を提供しており、LVがありえない速度で上昇しているので、桐澤と接触があったことはまず間違いないが……。
(決定打がないわね)
そこでオリビアは、彼の周囲への調査を始めた。
ステルススキルを使えば、大衆に見つかることなく、他者を尾行できる。
ある日の夜。オリビアはギルドから帰る姫咲の後を追った。
退勤ラッシュの街中を、姫咲が歩いて帰っていく。
ここ最近さらに色っぽくなった姫咲は、すれ違う男の視線を奪っている。
オリビアはピンと来ていた。
(十中八九、彼女は青宮 翼と関係を持っている)
ギルドの中での雰囲気からして、まず間違いないだろうと考えている。
女の勘というやつだ。
そして一度、彼女の姿が突如消えて、行方を掴めなくなったことがある。
神出鬼没な青宮が噛んでいると、そう睨んでいた。
順調に進んでいく尾行。
その上空に――青宮のダンジョンにいる、背中に翼を生やしたのっぺらぼう巨人のミニマムサイズが、飛んでいた。
その姿は気配遮断を使っており、人々の目では探知できない。
「テキダ、テキダ! 青宮サマニ、ホウコク!」
次元のワープポイントが発生し、ミニ巨人は青宮のダンジョンへと向かった。




