ダンジョンマスター
ドーム型の広々としたフロアであった。
まだ敵の気配はない。
中央のエリアへ向かって歩くと、前で魔法陣が生まれた。
紫と白のまばゆい光が弾けるのと共に、ボスが召喚される。
「お前は……」
「やっほ~」
女の子の、軽い声。
現れたのは、貞雄を殺害した、りりかと名乗った女の子である。
150後半の身長。肩の辺りまで伸びた髪は、右側が黒で左側が紫色。
映像で見た通りの少女だ。
「八層はダンジョンマスターの1体が選ばれるからね~。君の相手してみたかったんだ~」
「ダンジョンマスター?」
「りりかを倒したら――教えてあげる!」
りりかは背中から、禍々しく大きい漆黒の翼を広げ、音を置き去りにして前へ飛んだ。
右腕と左腕が黒くなり、長い爪は血のように赤くなる。
その右腕を真っ直ぐに突き上げ、青宮の胸を狙う。
横へ飛んでそれを回避しながら、青宮は言った。
「人間じゃないのか」
「まあね~。人の形と性質を持った方が面白いかなって。そう思っただけ☆」
凄まじいスピードで距離を詰められ、腕を振るわれる。
長い爪が剣のように一閃、また一閃と走った。
赤い色が残像のように線を描く。
青宮はカウンターとして、斧を振り下ろした。
りりかは両手で斧刃を挟み、強力なパワーで受け止める。
青宮は押し込もうとするように、力をこめた。
「強いんだね~。りりか壊れちゃいそう☆」
ギギギギギ、と力と力がせめぎ合う。
青宮のパワーをもってしても、りりかは耐えている。
りりかはウインクをして、斧を掴んだ状態で天井へ向けてハンマー投げのように投擲。
「っ!?」
凄まじい遠心力と重力によって体が浮き上がり、弾丸のように真っ直ぐ飛ばされる。
青宮と天井の距離が瞬く間に縮まった。
「させるかよ!」
青宮はベルセルクの炎で勢いを殺し、激突を避けた。
すぐさまバランスを確保。
だが、戦闘はスピーディーに進んでいく。
その瞬間に、りりかの背後に闇の矢が複数浮かび上がる。
それも尋常ではない、100を超える数だ。
闇の矢はマシンガンのごとく、数え切れないほどの連射速度で襲いかかってきた。
「簡単に当たるかよ」
青宮は空を飛び、闇の矢を回避する。
戦闘機へ向かって連射しているかのような構図だ。
りりかはふん、と鼻を鳴らす。
「はや~い。しぶといね~」
「……」
青宮はひたすら回避しながら、∞ウェポンに魔力を込める。
ダークブルーの炎が肥大化し――時が来た瞬間、青宮は斧を振るった。
「カオス・クレイブ!!!」
りりかとの間には距離があったが、それすらも巻き込む広範囲のダークブルーの炎。
高威力のスキルは、ダンジョン内を大きく揺らし、炎の爆発によって内装にヒビが入る。
パチパチパチ、と音が鳴りながら、炎の残滓が辺りに散らばっていた。
「……これでやられないのか」
巨大ナメクジのようにはいかないようだ。
りりかの周りには、彼女を包むように真っ黒な球体。
その球体が弾けると、無傷なりりかが現れた。
「びっくり~☆ ダンジョン壊れちゃうよ~。床も天井も削れちゃってるぅ」
青宮は前へと飛び出し、りりかへ距離を詰める。
(これだけの防御手段があるんだ。近距離じゃないと仕留められない)
そう判断し、斧を一閃した。
りりかは空中でそれを回避し、腕を振るう。
空での激しい攻防戦。
爪と斧がぶつかり合うたびに、火花が激しく散った。
「上ガラ空き☆ 人間の死角って色々あるんでしょ?」
青宮の頭上めがけて、闇の矢が虚空から生まれ、発射される。
∞ウェポンの宝石部分が青く光る。
彼の体を守るように、ダークブルーの炎の壁が現れ、闇の矢を受け止め浄化し、消滅させた。
「っ!?」
「……そこだ!」
青宮は左腕を振るう。
瞬間、ベルセルクの青い炎が飛ばされ、りりかの胸を焼いた。
「あっ、うぐっ!」
炎の勢いは小規模だが、ダメージは大きいようだ。
ダークブルーの炎は、高密度高魔力。
多少の量でも大きな火力となり得た。
怯んだことにより、大きな隙が生まれる。
ガードをする暇を与えない。
青宮は斧を一閃した。
重たい斬撃が、りりかの体に深い切れ込みを入れる。
「ぐふっ!?」
悲鳴と共に、りりかは力なく床へと落ちる。
どすん、と硬い床に叩きつけられた。
切り裂かれたところからは、紫色の魔力が漏れ出ている。
瞬間――りりかのいたところから、闇の矢が飛び出した。
青宮はそれを回避しながら、りりかへ距離を詰める。
「あはっ、りりか殺されそう……でも、これはどう?」
りりかはヨロヨロと立ち上がりながら、闇の矢をさらに背後から連射。
まるで背後に砲台が控えているかのような火力だ。
しかし青宮はそれでも、空中でジグザグ飛行し、矢を回避していく。
彼女の攻撃の全てがよく見えていた。
「終わりだ!」
力強い声。
弱ったりりかはその一閃を止められなかった。
りりかの右半身が魔力となって消え、床に倒れる。
「えへへ……すごいじゃーん。りりか満足。君が強くなるところを見れないのは残念だけど」
りりかは何故か、笑みを浮かべていた。
そしてその体は、魔力となって消滅していく。
『――青宮 翼のLVが58へ上がりました。HP+82 MP+27 攻撃+26 防御+19 魔力+26 精神+19 俊敏+18』
『――青宮 翼のLVが59へ上がりました。HP+82 MP+27 攻撃+26 防御+19 魔力+26 精神+19 俊敏+18』
『――ミッションを達成しました。レベルアップボーナスが付与されます』
『――青宮 翼のLVが60へ上がりました。HP+82 MP+27 攻撃+26 防御+19 魔力+26 精神+19 俊敏+18』
『――斧術LV8へと上昇しました』
『――???が解放されました』
『――∞・ワークスを習得しました』
『――水魔法のLVが8へ上がりました。“ハイドロ・ウェーブ”を習得しました』
青宮はため息をついた。
自身の成長で気になることがあるものの、それどころじゃない。
「結局、なにも教えてくれないじゃねぇか」
そう思っていた、その時である。
パチパチパチ、と間抜けな拍手が聞こえた。
振り返ると――そこには、黒いドレスに身を包んだ四之宮がいた。
切れ込みの入った、足のよく見える、肩だしのドレス。
美しい肢体によく似合っていたが、当然、青宮は女性として彼女を見ていない。
「……なんの冗談だ?」
「ふふふ。ようやく、ここまでたどり着きましたね」




