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沈黙の都市  作者: トシユキ
第二章:「広がる沈黙」
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第40話:「残されたもの…」

時刻:12時30分——神戸空港跡・上陸地点


神戸空港へと繋がる神戸スカイブリッジ(神戸空港連絡橋)は見るも無残な状態だった。

連絡橋の中央部分が崩落し、その先には炎と黒煙が立ち上る空港の残骸が広がっていた。

派遣された職員たちは絶句していた。

まさか連絡橋が、ポートアイランド線の橋桁が崩落しているとは、地下燃料タンクが爆発したとしても、橋桁の破断は誰もがっ想定外であり、破断面はまるで外部から意図的に破壊されたかのようだった。


「これじゃあ、陸路での接近は不可能ですね……。」


兵庫県防災課の松井直哉が、焦げた橋の残骸を見つめながら呟く。

当初陸路を使用する想定であったため、救助・確認作業は計画の再考が求められ、貴重な時間が浪費された。

彼らは急遽神戸港から海上保安庁の協力を受けボートでの上陸を試みていた。

県庁職員を中心として、海上保安庁、神戸消防局レスキュー隊員、陸上自衛隊の職員が乗船した船が次々に接岸し、上陸。

安全確認を行いながら、慎重に瓦礫の隙間を縫いながら進んでいく。


焦げた海面、浮かぶ瓦礫、焼け落ちた飛行機の残骸。事故状況の確認と同時に、警察犬を使用し、生存者の救助作業の為、少人数ずつに分散し進んでいく。

そこには、数時間前まで存在していたはずの神戸空港の姿はどこにもなかった。

空港施設を含め、全ての建物が徹底的に破壊されている姿がみられた。


「とにかく、状況を確認する。」


先頭を歩く 兵庫県危機管理監・矢野浩二 が、小さく息をついた。

この場に立つことすら、胸が押し潰されそうだった。


彼らは慎重に瓦礫を踏み越え、、崩れた滑走路の一角を歩く。

滑走路上にある瓦礫の隙間に、ひしゃげた手荷物カートや焦げた看板が散乱している。

そこに、人の姿はない。


だが、その「痕跡」だけが、残されていた。


12時45分——

「……ッ!」


矢野は足元の異物を見て、一瞬動きを止めた。

それは、焦げたテディーベアのぬいぐるみだった。


左耳が焼け落ち、片目のボタンは外れかけている。

ふわふわしていたはずの毛は、熱で縮れ、泥と灰にまみれていた。


「……。」


彼は無意識に、そのぬいぐるみを拾い上げた。

きっと、誰かが大切に持っていたものだったのだろう。

飛行機に乗り、旅先へ。あるいは自宅への旅路。昨日の障害がなければ、とっくに家族と団らんをかこっていた子供の笑顔を想像した時。急激に胸が締め付けられるくらいの感情が溢れる。

「……ふざけるなよ……。」


矢野は拳を握りしめた。


——こんなものを残して、一体どれだけの人間が犠牲になってる。


「……矢野さん、そっち、大丈夫ですか?」


松井の声が背後から響いた。

彼が振り向いた瞬間——


「……!!」


目の前に横たわっていたのは、焼け焦げた人の腕だった。


手首には、溶けかけた腕時計が巻かれている。

時間は、10時15分で止まっていた。


「……おい……これ……。」


誰かが息を呑む。

その直後、背後から大きな叫び声が上がった。

「——ッ!! 兄貴だ!! 兄貴の腕だ!!」


叫びながら駆け寄ったのは、兵庫県庁の市民課職員・山本浩太 だった。


「ちょ、待て……!」

「やめろ!! まだ確認が……!」


周囲の制止も聞かず、山本はその場に膝をつき、震える手で腕を掴んだ。


「嘘だろ……なんで……。」


矢野は山本の隣にそっと膝をついた。

彼の兄、山本健一 もまた、今日神戸空港に派遣されていた兵庫県庁職員の一人だった。


「時計……俺が送った……誕生日に……。兄貴、これ……いつも大切にしてて……今朝も。」


涙で言葉が詰まる。


「こんなのって……こんなのって……ありかよ……!!」


彼は顔を上げた。

その先に広がるのは、焼け爛れた滑走路、崩れ落ちたターミナルビル、爆炎の残骸。

人の姿はない。


ただ、その場にいたはずの人々の痕跡だけが、あちこちに散らばっていた。


「俺の兄貴は、こんなところで……!」


誰も何も言えなかった。

山本の嗚咽だけが、焼け跡に響いた。


「……ッ!!」


矢野は目を閉じ、強く拳を握った。

この空港にいたはずの何百人、あるいは何千人もの人々。

彼らは一瞬で、この場から存在をかき消されたようだ…。


そして、未だに誰一人として、この事態の真相がわかっていない。



山本の悲痛な叫び声が響くなか、矢野は不意に背後からの視線を感じた。

彼は直感的に振り向いた——しかし、そこには誰もいない。


「……なんだ?」


「どうしました?」


松井が不思議そうに尋ねたが、矢野は答えずに視線を巡らせた。


だが、そこには——


“何も見えなかった”。


「……いや、気のせいか。」


そう呟きながらも、背中を這い上がるような不気味な感覚が残っていた。

そして、彼らの視線の届かぬはるか上空——


衛星のように静かに浮かぶ“無人機”のレンズが、彼らを捉えていた。


誰も、それに気づくことはなかった。

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