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第二話:こっちん

第二話

 南山さんにどうやって惚れ薬を飲ませようか考えた結果、とりあえず彼女の行動を把握しておくことにした。要は後をつける簡単なお仕事である。

 学園内に私服の中年が現れたら一発で御縄だろうが、学園の生徒が居ても何ら不思議はない。もっとも、女子更衣室や女子トイレに居たらその限りではないが。

「ここぞと言うタイミングで飲ませたいからなぁ」

 みやっちゃんからもらった惚れ薬はいくつかあるものの、持ってきているのは液体なのでやはり、運動した後がいいだろう。今日は珍しく陸上部の所へ風紀委員が行っているのでもしかしたらチャンスがあるかもしれない。

 陸上部の部室はグラウンドにかなり近く、直射日光をガンガン通す窓が備え付けられている。真夏は部室内に居るだけで熱中症にかかること間違いなしだ。今の時期でも十分暑くなるため、喉が渇いたところで飲み物を差し入れれば簡単に口にするだろうな。

 近くの自販機でスポーツドリンクを購入してくる。まだ風紀委員が部室から出てきていないようなのでドリンクの中に惚れ薬を入れて振っておいた。

「しっかし、ここの陸上部はやる気が足りないだろ」

 ごろ寝をしている生徒から音楽を聴きながら走っている生徒もいる。ハードルを飛びつつ服を脱ぐと言った奇行に走る者もいた……陸上部だけに。

「ちとトイレに行って来るか」

 トイレにジュースをもっていくのは何だかばっちいよなぁ……でも、嫌な予感があるので生徒手帳の一ページを破いてそれに『南山さんへ、差し入れです』と書いておいた。

 これなら誰かが間違えて飲む事もないだろう。

 体育館付近のトイレが使えず、結局校舎内まで戻らなくてはいけなかった。

 再びグラウンドへ向かおうとすると風紀委員一同とすれ違う。

「やべっ、戻ってきたのか」

 慌ててスポーツドリンクを回収しに行くとそこに一人の生徒がいた。腰に手を当てて一気飲みなんて身体に悪い事をしているではないか。

「あ、ちょっとやめろっ」

 先ほど以上に急いで走り寄る。でも、間に合っちゃいなかった。スポーツドリンクは瞬く間に無くなってしまい、残ったのはペットボトルだけだ。

「ああーっ」

「ん?」

 眼があった。それは間違いない。そして慌てて俺は隠れる場所が無いか確認する。あの惚れ薬を飲んだ後に眼にした相手を好きになるのだ。

 効果が出るまで少し間があるのは間違いを起こさないためだとか言っていたから多分、大丈夫なはずだ。

 与えられた猶予内で逃げ切れると思っていた俺をがっかりさせる声が聞こえてきた。

「……な、何だろう、生まれて初めてのこの、切ない気持ちは……」

「あ、何だかダメっぽいぞこれ」

 俺よりちょっと高い身長で、ちょっと鋭そうな眼、女子にもてるであろう中性的な顔立ちだ。身体も足に筋肉がついているようで、上半身は痩せている部類に入ると思う。頬を染めるところを見て怖気がした。

「え、えっと、君……名前は?」

「やべぇ、みやっちゃんに急いで解毒剤的な物を作ってもらわないとまずいっ」

 回れ右して全速力で逃げ始める。黒葛原深弥美印の惚れ薬は一定の効果を有し(相手の事を半永久的に好きになるのは確定)、それ以上は使用された人によって効果が異なるそうだ。



『……効果としてはその場で告白してくる、キスされる、押し倒される、貞操を奪われる……場合によっては刺されるかもね。好きな物を自分で壊したいって人がこうなっちゃうよ』



「あ、待ってよっ」

「三十六計なんとやらっ」

 走って逃げ始めた俺を追いかける名も知らない陸上部の生徒。

「つかまえたっ」

 さすが、弱小と言えど陸上部だ。あっという間に追いつかれて振り向かされる。

「んっ」

 まさしく奇跡としか言いようのない行動予測。相手はキスをしてくると俺は思ったのだ。

「あぶねっ」

 唇を右手でふさごうとすると相手がにやりと笑った。今度は右手が股間に向かおうとしていたのだ。

「させるかっ……んっ」

 両手でガードすると唇を奪われる。

 フェイントかよと見開いた目で相手の近づきすぎた顔を見ても答えは返ってこない。

「ぷはっ……」

 腰砕けにされるほどキスされて俺はその場に尻もちをついた。相手もそのまま尻もちをついており、そのすきに俺は這って逃げるのだった。

「ちっくしょーっ」

 初めてのキスは涙の味がした。


作者の雨月です。このお話にはタイトルにもある通り惚れ薬が関係しています。実際にあれば(信憑性問わなければありますが)これを使おうかなと思う人もいるでしょう。有名どころでイモリの黒焼きがあったかなぁと……。作用としては脳内に誰かの顔を思い描いてもらうとして、その人物を思い出すたびに心拍数が上昇、多幸感を脳に与える効果をもたらせばいいわけです。あれ? 使うと捕まる類の薬っぽい。つまり、そういった常習性の高いやばい薬があるというわけで作者個人の意見といては本当にそういった薬があってもおかしくはないと思うわけですよ。やはり惚れ薬はもてない男の浪漫を感じますね……どうしても振り向かせたいって人もいますがね。努力ってもんも必要です。

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