第一話:アオイン
第一話
五月一週目ともなると暑さが勝ちはじめる気候だ。俺個人の好みとしては寒さよりも暑さよりで、照りつけるような日中に意味もなく外に出てぼーっとするのが好きだったりする。
「みんなおはよう」
「おっ」
俺が一方的に想いを向ける南山葵さんの登場である。
容姿端麗、成績は普通、性格は優しさ寄り、比較的ポジティブな女の子だ。俺の理想とするポニーテールよりはだいぶ短く、うなじ一歩手前の為、ちょんまげに見えなくもない。
胸はまぁまぁ、それでも人気のせいか体操服時なんかは良からぬ妄想の対象になることもしばしばあるとのことだ。
「葵ちゃんをストーカーして捕まっても本望かな」
「二年男子憧れランキング二年連続第一位」
「風紀委員長直々にしばかれたい」
「一年三学期から結成されたファンクラブもあるよ」
こんな感じかな。
彼氏はいないために一週間に一度くらいは校舎裏に呼び出されて愛の告白を受ける人物でもある。
その素晴らしさは一年生にも届いており、三年生も情報収集を続けているそうな。
そして、風紀委員長でもある彼女は仕事をするときだけ鬼になる。
「ゲーム機駄目」
「化粧品の持ち込みも禁止」
「えっちな本も当然没収」
こういうのはどうやら男子より女子の方が根に持ちやすいらしく、一部の女子からの評判は良くない。
彼女の敵に成りうるのはこのぐらいかな。
「さて、前置きはこのぐらいにして……惚れ薬を飲んでもらいましょうかね」
友達と話し始めた南山さんを眺めながら小瓶を指で転がす。
「……それで、どうやって飲ませようか」
飲ませればそれでいいものの、周りから感づかれるのもまずい。
タイミングをはかって飲ませるのが一番だろうな。
「……何ぶつぶつ言ってるの?」
「うわぁっ、なんだ南山さんか……はは、びっくりした」
気付けばプライベートゾーンに入りこんでくる飛び込みの名手なのかもしれない。
女の勘が冴えわたるらしい南山さんはじっと俺を見ている。
「どうかしたの?」
「怪しい」
やましい気持ちがあるために身体がびくついてしまった。
いや、待て、この学園には惚れ薬をもってきてはいけないと言う決まりはないはずだ。つまり、別にびくびくする必要性は……。
「何その薬」
「あっ」
ひょいと惚れ薬を取り上げられてしまった。手を伸ばしても華麗に避けられてしまう……そういえば、中学の頃はバスケ部だったとか言ってたなぁ。
「怪しい薬だ。もしかして使用すると気持ちよくなる類の薬?」
「んなわけないでしょ」
「じゃ、何の薬?」
やばい、絶体絶命だ。
しかし、これは考えようによってはチャンスかもしれない。
「飲んでみればいいんじゃないかな」
「え?」
「飲んで実際に効果を知ればそれがどういったものかわかるよ」
俺のこの言葉に南山さんはちょっとだけ迷った末に頷いてくれた。
「そうだね、実際に飲んでみればわかるね」
小気味よい音をたてて小瓶の蓋が開いた。南山さんはそれを一気に俺の口へと流しこんだのだ。
「ごくっ……しまったっ」
「へぇ、しまった?」
「あ、いや、何でもないよ。これはただの栄養ドリンクだからね。ほら、何とも無いでしょ?」
両手を広げてくるりと一回転する。
心臓の高鳴りを感じる。
目の前に居る南山さんを見るだけで心臓がはちきれそうだった。
「本当だ……何とも無いね?」
「でしょ。じゃ、俺はちょっと熱を冷ましてくる」
惚れ薬を飲まそうとしていた相手に逆に飲まされるなんてアホな話、そうあるものでもない。
切ない気持を胸に秘め、俺は逃げるように教室を後にしたのだった。
どうもはじめまして知っている人は知っている、知らない人は知らない気になるシリーズの作者、雨月です。本来は前書きで述べるべきことなのですが、ついでにあとがきで言っておきます。このお話はサブタイトルの名前でわけられています。四種の話がそのまま進行していくような感じですね。分かれていると見せかけて実は一本道だったなんてないので安心してください。おそらく変にシリアスな展開にはならないのでそこのところは安心してください。




