表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
10/45

 恋の経験が無いことは、もはや恥ずかしくもないが、さりとて面白くもない。俺は自分が恋愛に不向きであると言うことを是認した上で、何故不向きなのかと考えてみたことがある。

 勿論、俺に何の取り柄もないことが第一であろう。特別何かに秀でたものが何一つとしてない、そういう凡庸な輩は文字通り取り柄がない。取り柄のないものは容易には掴めぬ。

 ただ凡庸な輩など周囲に掃いて捨てるほどいる。それが皆俺と同じような境遇にいるというわけではあるまい。俺の場合あるべきものが欠けていると言うよりは、あってはいけない、忌むべきマイナスの要素が顔面にべったりと付着している様な気がした。そしてそれは恐らく分析から生ずる無気力だろうと思う。あるものへの興味関心というものは大抵それがよく分からないから起こるものである。分からないものほど面白いものはない。逆に無気力というものは大抵透徹した分析眼から来るものである。答えが出てしまっては何も面白くない。興味関心が湧くはずもないのである。哲学者に鬱病患者や自殺者が多いのも、この為であろうと思う。世界を明瞭に分析してみると、実に生きるに値しない、詰まらぬものだということが手に取るように分かるのだろう。

 俺の場合、殊に恋愛においては、行動より先に頭で分析しすぎ、自分なりの答えを見つけてしまい、無気力に陥ってしまう傾向があるようだ。

 その証拠に、こんな俺にも全くチャンスが無かったわけではないのである。僭越ながら、こんな俺にも異性から好意を打ち明けられた経験がある。その時俺は彼女に特段の好意を寄せていたわけでもないが、かといって異性として見られないほど無関心であった訳でもない。だがその時俺はこう考えた。彼女が自分の値打ちについておおよそ正確な見当を付けており、そこから得られる妥協点として俺を選んだに過ぎない、と。つまり彼女が俺を選んだのは偏に一夫一婦制の影響に過ぎないのであり、本来より俺でなければならない訳ではない、と。恋愛経験を積む機会の少ない俺が彼女の申し出を断る理由など全くなかったが、そうやって考えを整理してしまうと、恋愛感情など毫も湧いてこなくなった。結果、俺は彼女の申し出を鄭重に断ったのである。

 同じようにして、俺は恋愛を醒めた目で見ることしかできなかった。本来の動物的本能に従えば、一夫多妻が自然である。そこに俺の入る余地はない。すると一夫一婦制を強制されたがために俺などと一緒にされる女が不憫に思えた。そう思うと、俺が某かの欲望を抱いたにせよ、それを他人に強制することが何となく忍びなく思われたのである。だから結果として積極的に行動を起こさなかった。いやいや、良く思い出してみれば、何も最初から消極的だったわけではない。俺だって異性に好意を伝えたことは何遍もある。その全てが結局は結実せずに終わったわけだが、この悲劇的な経験が却って俺を冷静にして、前述の如き分析に駆り立てたのかも知れない。すると恋愛を知るために恋愛を成就させたいなどという考えは馬鹿げていることが分かる。恋愛に失敗した者の方が恋愛についてよく知ることが出来るからである。恋愛小説の大家に恋愛経験の無い者が少なくないのはこういった背景があろう。

 そうしてみると、分かりきったものをわざわざ経験してみるまでもない。勿論知っているのと経験したのではまるっきり違う。経験してみなければ分からんことも多いに違いない。だが経験したときにはもう取り返しがつかないということもある。「後悔先に立たず」とは何事も経験してみなければ分からん愚か者の呪詛である。後悔する前に辞めておくに越した事は無い。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ