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プロローグ

遠くから電車の走る音が聞こえてきて、歩道橋を歩いていた僕は思わずそちらへ目を向けた。


秋だからだろうか。


歩道橋の上には枯れ葉があちこちに積もっていて、それを見た途端、ふと感傷的な気分になる。


――ここで開くのも悪くないかもしれない。


そんなことを思い、僕は手にしていたバッグを足元に置いた。


中から取り出したのは、一通の茶色い封筒。


差出人の名前も、宛先も書かれていない。


そこに記されているのは、太い黒字で殴り書きされた「10」という数字だけだった。


なぜ宛先がないのか。


それは、この手紙の来歴が少しばかり奇妙だからだ。


僕の世界に、一人の架空の少女が現れたところから始まる。

僕は封筒の端を慎重に開き、中から丁寧に折り畳まれた便箋を取り出す。


見慣れた筆跡を目にした瞬間、思わず笑みがこぼれた。


三十歳の誕生日、おめでとう!


今、この手紙をどこで読んでいるのかな?


十年って、すごく特別な時間だと思うんだ。


秋生くんはどう思う?


確かに。


もう十年になるのか。


毎年開くたびに、この手紙は前より何枚も増えている気がする。


僕は顔を上げた。


夕陽に照らされた街並みが黄金色に染まっている。


秋という季節はいつもそうだ。


まるで世界そのものが少し古びて見える。


僕は再び手紙へ視線を落とし、欄干にもたれながら続きを読む。


周囲を通り過ぎる人たちは、ときおり不思議そうな目でこちらを見ていた。


けれど、そんなことは気にならない。


意識はすべて手の中の便箋へ向いていた。


なぜこれほどまでに、この手紙が気になるのか。


理由は単純だ。


この手紙を書いた相手は――


この世に存在しない人間だからだ。


これは今から十年前の物語。

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