②
部屋には木とダンボールとボンドの匂いが混ざっていた。棚には工具や「4年生」と手書きされたダンボールが積まれている。机上の白い粘土をいじっていると、何人かの子どもの笑い声が廊下から流れてきた。
「先生、何作ってるの?」
体操着を着た男の子が一人で入り口に立っている。
「ああ、健太くん。四年生の授業の見本だよ。粘土を使って自分の好きなものを作るんだ」
健太は見本に顔を向ける。
「みんなもクラゲ作るの?」
「へ?」
「だって先生、それクラゲでしょ?」
授業開始を知らせるチャイムがスピーカーから響いた。
「あ、時間だ。バイバイ」
健太は足早に、どこかに行ってしまった。窓の外では風が木を揺らしていた。
三十人の子どもたちが教室に入ってきた。一人ひとりの顔を見渡すと、子どもたちのおしゃべりが止まった。
「さあ、みんな。今日はこれを使います」
黒板の前に置いた箱から、シーグラスを取り出す。
「宝石みたい」
「先生、これどこで買ったの?」
子どもたちの目がシーグラスに集中していた。
「これはね、シーグラスって言って、材木座海岸で先生が拾ってきたんだよ」
最前列にいた男の子が、急に眉をひそめて言った。
「えっ、拾ったの? じゃあ、ゴミじゃん」
子どもたちの息を吐く音が教室に広がった。
スタンドライトをつけてシーグラスをゆっくり回すと、光が複雑に反射した。
「わあ」
女の子が息をのんだ。周りの子どもたちも、静まり返ってその揺れる光を見つめた。
「あ、先生、こんな茶碗のかけらもあるよ。貝殻も」
「そう、これも同じ場所で拾ってきたんだ」
子どもたちに背を向け、チョークを手にする。黒板とチョークのぶつかる音が教室に響いた。書く文字に合わせて読み上げる数名の声が聞こえた。
『ちきゅうからのおくりものからイメージをひろげて、ねん土の作品を作ろう』
「今日の目当てはこれです」
チョークを置いて、再びシーグラスを掲げると、子どもたちの視線が手元に集まる。
「地球の贈り物っていうのはこれね。これらの『地球からの贈り物』と粘土を使って作品を作ります」
机の下に置いていた粘土板を取り出し、机に置くと紙粘土の匂いがわずかに香った。
「あ、クラゲ」
「そう。これにこんなふうに」
模様のついたかけらをとり、触手の先に付けた。粘土には他にいくつかのシーグラスが組み込まれている。
「うわ、変な模様のクラゲ」
教室に笑いが起きた。
「こらこら。いいんだよ。自由に、思うがままにね。人の作品を笑っちゃいけないよ。さあ、好きなものを選んでください」
シーグラスや陶器のかけら、貝殻を机いっぱいに広げた。子どもの一人がまじまじと見たり、ライトにすかしたりしていた。
窓の外は曇り空だが、隙間から澄んだ青が覗いていた。窓の近くのカレンダーには二十六日に小さく星のマークが書かれていた。
賑やかな声が聞こえ、子どもたちの輪に戻った。




