王族の戦い方
ゼインがトニーたちの反応を聞き、安心したように見えた。意気揚々と言葉を発す。
「さあカルミラ!! 俺たちにしかできない戦いを始めようじゃないか」
「ハハハ! お前にとっては負け戦だろうがな!」
ゼインは担ぎ直したあの巨大な剣を、カルミラは魔導石の眠る黒く太い槍を、互いに血に飢えた怪物の眼差しを交わしながら正面から鋭く構え合った。
トニーとフランの二人は、ゼインたちのその様子を見て、純白のドレスに身を包んだメアリーの華奢な腕をがっちりと左右から引き寄せた。
カルミラという最悪の脅威から彼女を早急に避難させるべく、メアリーを完全に中央へと庇い隠しながら、大理石の長い長い大階段の下へと向かって、一気猛然と足を進め始めた。
――ガキィイイインッッッ!!!!!
背後で、ゼインの大剣とカルミラの槍が激しくぶつかり合い、大広間の天井を焦がすほどの凄まじい衝撃波と火花が爆発する音が響き渡る。
だが、トニーたちは振り返らない。
駆け下りる長い階段のその先、大広間の床の上では、すでに味方の先陣を切ったカイトとアーサーの二人が、押し寄せるカルミラの兵士たちの防壁を相手に、血飛沫の舞う大乱戦を繰り広げているのが見えた。
シュザッッッ!!!!
「ガはっ……あぁ……っ!?」
カイトは骨折した黒い羽根の激痛をその薄赤の瞳の奥へと押し込め、鬼気迫る形相で腰の剣を次から次へと狂ったように振るい、間合いに入った敵の兵士の肉を、容赦なく、冷酷に切り裂いて床へと叩き伏せていく。
そしてその隣では、巨大な白いライオンへと変貌したアーサーが、押し寄せる槍の雨を野生の驚異的な反射神経で瞬時にすべて躱してみせていた。その白銀の大きな身体をバネのようにしならせると、兵士たちの集団へと強烈な弾丸のごとき体当たりを食らわせて骨ごと粉砕し、逃げ惑う敵の喉笛へと鋭い牙でガシッ!!! と噛み付き、一瞬にしてその命を噛み千切っていた。
「……さすが、だな。さっきまで犬の散歩みたいに縄で引っ張られてやがったくせに。
……やっぱり、幻獣の国の王族の血筋というのは、土壇場での格が最初から一味違うな」
トニーは、メアリーの腕を引いて階段を猛スピードで下りながら、目の前で繰り広げられる白いライオンの圧倒的な蹂躙劇に対し、騎士としての深い感心と不敵なセリフをその口元から零していた。
「――そうですよ、トニーさん。
……しかもあのカイトだって、あのデタラメな怪物ゼインと全く同じ父親を持つ、正統なる『王族の血筋』の男ですからね。
……ただの鳥人だとナメてかかってきた雑魚どもを相手に、幼い頃から血の滲むような過酷な鍛錬を死ぬ気で積み上げていただけのことはありますよ……っ!」
フランはメアリーのもう片方の腕をがっちりと引き寄せ、大階段を軽快な速度で駆け下りながら、その美しい青い瞳を獰猛にきらめかせて、トニーへとニヤリと不敵なセリフを言葉を返した。
その熱いリスペクトを背中に受けたかのように、階段の下では、カイトの放つ殺意の白刃の速度がさらに尋常ではない次元へと跳ね上がった。
「がはっ……、お、お前……本当に羽根が折れてるのかよっ……!?」
カルミラの兵士たちが驚愕に顔を引き攣らせるなか、カイトは薄赤の瞳を鋭く細め、折れた黒い羽根を不気味に蠢かせながら地を蹴った。
そして手にした刀を一瞬の間に三度、四度と目にも留まらぬ残像の速度で激しく振り抜き、間合いに詰め寄ろうとしていた重装兵たちの分厚い鉄の鎧ごと、その肉体を一瞬にして綺麗に横一文字に両断して床へと叩き伏せていく。
ガルゥウウウオオッッッ!!!
カイトの凄まじい大暴れに呼応するようにして、白いライオンのアーサーも、大広間全体を激しく震わせるほどの強烈な雄叫びを張り上げた。
その白銀の強靭な巨体を獰猛に翻すと、迫り来る槍の雨をすべて紙一重の躱しで無効化し、逃げ惑うカルミラの兵士たちの胸元へとその巨大な前足の爪を叩き込んで床へと圧殺した。
二人の王族の血を引く若き獣たちが、大広間の床の上を完璧なフォーメーションで縦横無尽に駆け巡り、カルミラの誇る軍勢をまるでゴミのように片付けていく。
トニーとフランの二人は、そのカイトたちが命がけで切り拓いてくれた血飛沫の舞う大乱戦の真ん中へと、メアリーを完全に中央へと庇い隠した姿勢のまま、ついに大階段の一番下へと無事に着地した。
トニーが息を荒くしながら激しい戦場の辺りを見回すと、カイトとアーサーの凄まじい蹂躙劇の前に、あれほど獰猛に襲いかかってきていたカルミラの兵士たちの半分は、すでに大理石の床の上へと無残に地に伏せっていた。
「ふぅ……よし。じゃあ、残ったハエどもも、今のうちにちゃっちゃと終わらせるか……」
トニーが己の腰の剣をすらりと力強く抜き放ち、次なるお掃除へと足を踏み出そうとした、
――まさに、その瞬間だった。
ギイぃぃいいいーーーーーっ……!!!!!
大広間の最深部、閉ざされていたあの重厚な木の扉が、まるで地獄の底から響くかのような不気味で重苦しい軋み音を立てて、ゆっくりと外側から開き始めたのだ。
その扉の隙間から、世界を蝕むあのアーシュの闇にも似た、ぞっとするほど冷酷で、圧倒的な『死の気配』が、大広間の床の上へと濁流のように滲み出てくるのを、トニーたちは肌を刺すような戦律と共に感じ取っていた――。




