戦いの後
城を出て橋を渡り、安全な場所へ移動した。
外に出て初めて、夜が明け始めていることを知る。
遠くの空がうっすらと蒼白さを拡げ始めている。
煙を吸ってしまったのか、喉の痛みを感じる。軽く咳をしながら、高台に上り城を見下ろす。
城の周りを囲むように黒い炎が覆い尽くしたが、それ以上は広がらなかった。城の半分以上は倒壊して瓦礫の山と化している。
城の周りに湖があったお陰で、橋を渡り終えた先には影響が及んでいない。
街の人々は城が燃えているのが気になったようで、橋の近くへ集まってきたが、何が起こったかはわからない様子だった。
兵士たちは負傷した身体を引きずりながら、
またそれを手助けしながら逃げてきている。
だが、助からなかった者もいるだろう。最初に見た時と比べて兵士の数が半数以下になっている。
ゼインはリオールを芝生に下ろし、その横に膝をつき様子を見ている。リオールは相変わらず眠っている。
「リオールはどう?」
話しかけるとゼインと軽く目が合う。
「大丈夫だろう。
見たところ大きな傷はなさそうだ」
「そう……なら良かった……」
呼吸は安定しているし、出血箇所もほとんどない。
目が覚めたらちゃんと話してあげよう。
お母さんの想い、ミサンガの意味。
状況から考えると、リオールにもあるのかもしれない。魔道具を生み出す力が。
「メアリー様! ご無事ですか!?」
白髪、白髭のイーサンが足早に近づいてきた。
「うん、私は。
でもアーシュは中に……」
「申し訳ありません。何か救う手立てがあればよいのですが……」
イーサンが城に目をやり、落胆した表情を浮かべた。
「イーサンのせいではないから……」
「アーシュ様を救うためにも、メアリー様に頼まれていたことを調べて参りました」
「本当!? ありがとう!! どうだった!?」
思わず声を大きくしてしまう。
イーサンと話していると、私の声に気付いたゼインが話に入ってきた。
「何の話だ?」
「イーサンに頼んでたの。
あの野獣は、魔力で作った薬で生まれたものだったでしょ?
ということは、魔力で薬を作れる者がいるなら、逆の薬を作ることも出来ると思ったの。
この国には様々な所から人々が集められているから、解毒薬を作れる者がいるか調べてもらってた。
もしくは、この薬を作った張本人でもいい」
イーサンはゆっくり頷きながら答える。
「この薬を作った者は、やはり国王の手によって殺されていました」
「そう……国王のやりそうなことね。
解毒薬を作れないようにする為に……
だけど殺したってことは、やはり解毒薬を作れる可能性が?」
「ええ、そう考えるのが打倒でしょうな。
野獣になる薬の作り方は手に入れており、大量に製造出来るようになっていたようです。
ところが、解毒薬は作ること自体を禁止されていました。なので今はこの世に存在していません。
ですが、あちこちで話を聞いたところ、その薬を作った者が住んでいた国がわかりました!
そこに行けば、作ることが出来る者に会えるだけでなく、材料も揃うと思われます」
「本当!?
……でも、あの城に閉じ込めた野獣たちは今どうなっているんだろう……
解毒薬が手に入ったとしても、もう生きてなかったら……」
「これはあくまでも推測だが……」
ゼインが話し始めたのでそちらに目をやる。
「あの野獣は魔力によって生み出されたもの。
とするなら、闇とは言えど魔力が充満しているあの城ならば生き延びているやもしれん。
人間の村では食料がなく、家畜を襲うしかなかったのかもしれないが、あの中でなら魔力のみで生きていくことは不可能ではない……と思う」
ゼインは言い切った後、珍しく困惑を顔に浮かべる。
「だが、全てにおいて未だかつて経験したことがない事態ゆえ予測しか出来んのだが……」
「いや十分よ! 少しでも希望があるのならそれを信じる!!」
私が力強く微笑んでみせると、ゼインはほんの少し嬉しそうな表情に変わった。
「じゃあ、私、まずはその国に行ってその薬を……」
「いえ! メアリーさんは他にすることがありますよ!」
声の方を見ると、アーサーが呼吸を荒くして、ぐったりとしたザイオンを肩に背負っていた。
思わず息を呑んで近付き声をかける。
「アーサー! ……ザイオンは無事なの?」
アーサーは苦笑しながら答える。
「ええ……。兄と一騎討ちした際に、立てないくらい打ちのめしてしまってこうなってるだけなので……」
「そっか、でも生きてるなら良かった」
アーサーはこんなにボロボロになりながらも、ちゃんと兄弟を救い出したというのに、私は……。
アーサーは地面にザイオンを下ろしている。
「アーサー、さっきのどういう意味?
私には他にすることが……って」
「それです」
アーサーは私の腰に付けた剣を指差しながら私の目の前に来て、おもむろにそれをベルトから鞘ごと外し、中身を地べたに広げた。
折れた剣とその刃。折れてもなお刃は赤い光を輝かせ、周りの芝生まで赤く染めている。
私が自分自身で選んだ、赤い魔剣……。
アーサーは腰を落としそれに触れている。
「これでは使い物にならないでしょう。
新しい剣が必要だと思われます」




