第1R「違う場所」
人には夢が必要だ。
どんな夢であろうと叶えようとする「意思」が人の生きる目的になる。
夢をもう一度
「さぁ雨の中、全馬進んでいきます、先頭はカシオペア、その内にステルヴィオが並んでいます」
まさか重馬場になるとは思っていなかった、雨が降る予報なんて無かったじゃないか、北海輝天はそう思った
手綱を引く、泥が身体中に飛んでくる、ゴーグルに泥がつき視界も悪かった。
北海輝天、競馬のジョッキーとしてデビューした、戦績は43戦23勝、その内重賞は2勝している、まだ新米だがこれからを期待されているジョッキーだった。
「(仕掛けるか、このままじゃペースを持ってかれる)」
「ステルヴィオ、内から上がってきた、カシオペアに競りかけます、その後ろからペルダンも追ってきました」
これに勝てばGI初勝利となる、獲ったのは最高でもGIIだったから、なおさら闘志に火がついていた、乗っている馬のステルヴィオもこれが勝てば初のGI制覇となる。
冷たい雨の中だったが輝天の心は熱く燃えていた、内からドンドン上がり先頭を目指す、ステルヴィオも脚質的には、先行なのでこのあたりで仕掛けても、さほど問題は無い
一気に加速するのは最終カーブを曲がり直線に入った瞬間、それまでには、何とかペースを得意なペースに持ってけるようにする
「ステルヴィオ、先頭に立ちました。
さぁ第3コーナーを曲がります、依然少々遅いペースでレースが進んでいます、内からはカシオペア、最後方にはミスターアルテマです」
何とかペースを支配できた、この展開なら勝てる、本当に勝てる、そう輝天は心の中で思っていた。今の目標はここしかない、何でもいいGIに勝つという夢がここまで自分を動かしていた、その夢が叶った時にまた新しい夢を見たいと、輝天はそう思っていた。
見えてきた最終カーブの第4コーナー、ここからが勝負だった、輝天は強く手綱を握り最終コーナーを曲がる。その時だった
「直線に入ります、先頭はステルヴィオ、おっと、ステルヴィオ、よれて落馬です!」
急に視点が下がった、気づくと地面の濡れた芝が近づいていた、何かが折れる音がした。
ベチャベチャと濡れた地面に叩きつけられ転がる、痛みは無かった、というか感じれなかった、視界がどんどんぼやけていく、ステルヴィオのシルエット少し遠くに見えた、起きれたらしい、自分も早く起きないとと思っているに身体が動かない、視界が闇に覆われていく、脳裏にはもう終わりかという思いと、まだ走りたいという願いだけだった。
そして完全に視界が闇に覆われた、最後に聞こえたのは雨音と場内のどよめきだった。
おかしな感触を味わった、確かに落馬して死んだはずだった、冷たく若干硬かった所にいたはずなのに、今は温かく柔らかい所にいる
身体も動かせる気がした、目を開けると、そこには知らない女の人が微笑みながら見ていた、綺麗だな一番最初にそう思った
「…私たちの子よ」
「レイラ…本当によくやってくれた、立派な男の子だ」
「名前は…ヘデン、この子はヘデンよ」
「ヘデン…良い名だ」
何を話しているのか理解できなかった
死んだ感覚が確かにあったのに今はこの場所で腕に抱かれている、そんな事を考えていると急激な眠気に襲われた、そのまま眠りについた。
目が覚めると身体が成長していた、物心がついたいうものだった、しかし理解していた、母親と父親の事を、優しい顔を見せるレイラというこの女性が母親で上品で厳格そうなジングという男性が父親だということを
そして2つ上の姉がいる、ルーヴという名前ツインテールと言うのかお下げと言うのか分からないが、そんな髪型をしている、騎士を目指していると言っていた、実力も素晴らしく将来が期待されている、なんてたって岩を剣で刺しただけで粉々に出来るのだから、かなり凄いのだろうと思った、しかしまぁまぁキツい性格をしている、表ではおしとやかで完璧な少女を演じているが、裏では自分の実力を自慢気に語り、俺の事を馬鹿にしてくる
魔法も剣もダメだと、いつも言ってくる
今日も例に漏れず言ってくる
「フンッ、あんたは、いつまでもダメね
もっとまともに剣や魔法を使えないの?本当に私たちって血が繋がってるのかってくらいには実力差があるわよね」
「あぁ…うん、そうだね姉さんは凄いよ」
「今更、当たり前のことを言わないでよね、あんたも精々、騎士になれるように頑張りなさい」
しかし俺は騎士を目指しては無かった、目指すのは騎手だ。
この世界には竜版の競馬の競竜というものが存在する、それは空を駆ける竜に乗り、天空でのレースを行うものだった、競馬以上に乗る者の素質と実力が試される競技だった、競走竜と呼ばれる、竜に乗るというものだった
俺はこれを目指す、前世で叶えれなかった夢をここで違う形で叶えると決心した。
俺は北海輝天ではなく、ヘデン・ヴァレスとして夢を掴みに行く
それが目標だ、この違う場所で前世で絶たれた道を紡ぎ直す。




