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見合い結婚とはかくありき 〜子爵令嬢は、偽りの肖像画に真実の愛を見出す〜  作者: 阪 美黎


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見合い結婚とはかくありき(1)『肖像画の皇子との縁談』

 帝都に居を構える御白(おじろ)家に、宮中からその肖像画がもたらされたのは、()()()が17歳の時分だった。

 子爵の爵位を持つ父の書斎に妹の撫子と共に呼び出され、丁重に飾られた額装済みの肖像画を前にする。

 肖像画に描かれているのは、おそらく少年から青年に移り変わろうとする年頃のひとりの男性。

 大きな明かり取りの窓の日差しを受けて油絵の具が反射し、肖像画の人物はあたかもそこに存在するような鮮明さを持って彼女らと向かい合っていた。

「このお方は暁宮(あかつきのみや)恒一(こうえい)殿下。今上陛下の第五皇子で、御年19歳であられる。皇后様のご意向によりこの度、殿下の縁談相手を広く募りたいと、恐れ多くも当家にも宮中のご使者が殿下の肖像画をお運びくだされた」

 誉のように語る父の側で、あやめは疑問が過ぎる。

「……お父様、皇家直系皇子様のご縁談とあらば、宮家はもちろん、公爵家や侯爵家、伯爵家のご令嬢にお話が持ち上がるのではございませんか?」

 広く縁談を相手を募るという意図があると言っても大概は建前の方便で、子爵家にまで話がおりてくることはそうそうないことだ。御白家は遡れば宮家の血筋だが、異例のことだろう。

「……それは……」

 当然の疑問を投げかけられ、父は一瞬気まずく言葉を詰まらせる。

「上から順々に話が回ってきたということだ。当家まで肖像画が運ばれたということは……つまり、わかるだろう……?」

 これ以上は具体的な言葉にしたくないらしい。

 その父に代わって、妹の撫子が顔を顰めて口を開く。

「お話がまとまらないのも、これでは仕方がございませんわ。だってこの方、驚くほど美しくないのですもの!」

 そう。肖像画の青年は、まるで歪んだレンズで撮影された写真のように、見目が酷く劣っている。直視することに抵抗感を覚えるほどに。

 家格の高い家柄の令嬢が皆難色を示したため、話が子爵家までおりて来たのだ。

「今時、写真ではなく肖像画なぞ描かせるなんて。きっと実物の殿下はもっと醜くてよ。きっとこれでも整えられて描いている方に違いないですわ」

 嫌悪感を露わにする撫子に、父は嗜める口調で名を呼ぶ。

「撫子」

 不満げに口を閉じた撫子を横目に、あやめはやんわりと問いかける。

「お父様は殿下に拝謁なさったことはございませんの?」

「いや」と父は小さく首を振る。

「私もよく存じ上げないのだ。この方は幼い頃から皇家直轄の荘園でお育ちで、今もまだそちらにおられると聞く。よほどか近しい者でないかぎり、殿下のお姿はもちろん、お言葉を交わしたこともないだろうね」

「……さようでございますか」

 つまり、肖像画の青年を知る廷臣はほとんどいないということになる。

「ご容姿が不味すぎて荘園から出られないのでございませんこと?殿下の肖像画を見た上で、この方に嫁ぎたいと思うご令嬢などおりませんわお父様。私は絶対に御免です」

 顔を背けた撫子は、なおも荒い筆致の奥に何かを見出そうと絵画と向かい合う姉に対して、悪戯心が疼いた。

「ねぇ、お姉様」

「なに?」

「私気づいてしまいましたわ!このお方、お姉様にこそ最適なご縁談相手ではございませんこと?」

「……え?」

 妹の言葉に彼女はようやく肖像画から目を離した。

「輝かしい美貌を持つ私と違って、控えめでおとなしいご容姿のお姉様は嫁ぎ遅れてしまうかもしれませんし……これは千載一遇の好機ですわよね。お話をお受けになってはいかが?きっと()()()()でしてよ」

 心配という体で悪意を笑顔に乗せ、姉を軽んじる撫子の悪癖。

 小馬鹿にするような眼差しと口調はいつものことで、あやめは慣れきっていた。むしろ……。

「撫子こそ、皇子様のお妃になれるかもしれないのよ?」

 高価なものが大好きで、昔から人のものを欲しがる撫子の意思を確かめるように尋ねると、彼女は肩をすくめて言う。

「絶対に御免だと申し上げましたでしょ?皇子妃の身分は惜しいですけれど、私は美しく無い殿方のもとには嫁ぎたくございませんの。天秤にかけるまでもありませんわ」

 と鼻を鳴らして続ける。

「〝控えめな〟お姉様と違って、私は公爵家や伯爵家のご子息から見初められて引く手数多、より取り見取りでしてよ。どうぞご心配なく」

「……そう」

 それまでの令嬢たちも妹も、肖像画一枚で人物を判断するのは、早計過ぎるのではないだろうか。人柄まではわからないのに。

 あやめは決意するように息を小さく吐くと、父に向き直る。

「恐れ多いことでございますが……これも何かのご縁。お父様、お受けいたしますわ。このお話」

「そ、そうか。では、ただちにご使者の連絡をせねばな……!」

 誰もが断った縁談話をあっさり承諾した娘に驚きつつも、彼は慌てて使者に当てて手紙をしたためるのだった。



ご覧いただき、ありがとうございます。

久々の新作でございますよ!しかも、和風恋愛ファンタジー!(たぶん)

短編小説なのですが、なるべくたくさんの方の眼に触れるため、連載形式での毎日更新になります(全四話)。

明日以降も是非是非見に来てくださいませ〜〜!よろしくお願いします!(平伏)

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