その4 『ラブコメ的展開を見た日』上
私がこの『わたしとキツネさんと赤い本』なんて名付けた本をゲットしてから『主人公フラグ』なんていうのを押し付けられ、外を出歩く際に人の視線をよく感じるようになった。
とはいえ平均的な女子高生の外見な私である。
無意識に確認するようなチラ見程度がほとんどで、そういった対象にならないのが現状だ。
悲しくはない、だって「普通」を嫌うのはおかしな話でしょう?
そして今日登校する際にもいくつかの視線を感じたが、三日目ということもあり大分慣れてきた。
脇役以下一般人を自負する私 小鳥遊 小鳥であるからどんなにも敏感なのは仕方ない。
5月15日金曜日。
一昨日昨日と同じパターンで行けば「たぬき堂」に場面が変わるんだけど、今日は違う。
私は今、通っている公立学校の階段広場にいる。
まぁ説明すると、この学校の校舎は上から見ると「8の字」型で、8の二つの穴は二階から三階への階段及び広場となっているのだ。
生徒が出入りできるのは片方だけでもう一つは植物を置いて緑を配置している。
で、私ら生徒が使うのは階段兼広場であるため「階段広場」と呼んでいる。
そこの階段には木の板が設置してベンチとしても使えるため、天気の良い日はそこで昼食を食べたりするのだ。
そして現在、私は友人と二人で昼食をそこで食べていたりする。
天候はどんよりな曇りのためそれほど生徒がいないが目の前の友人は関係ないらしい。
この友人は漆原 有希。
私と同じ中学校出身で、たまたま高校が一緒だったのだ。
中学の時はクラスメイトではなかったので親しくなる機会が無かったのだが、同じ中学出身との事で高校生になってから急に親しくなったのだ。
私は彼女を「有希ちゃん」と呼んでいるが、それは少数だったりする。
というのも、「漆原 有希」は「姐さん」キャラなのだ。
同級生は勿論、上級生にも敬語を無意識に使わせる雰囲気の持ち主で、性格も皆のリーダー格になるような「強い女性」。あと、ついでに当然の如く「美少女」である。
なので彼女を呼ぶ際は「有希」や「有希さん」、「漆原さん」と「ちゃん付け」をする人はほとんどいない。
一緒に食事中の有希ちゃんは私の方に身体を向けながらもキレイに弁当を平らげて行き、その様は男子生徒の「眼福」なるものになるらしい。
まぁ実際有希ちゃんが入学してから撮られた(隠し撮り)写真が密売買されているっつー噂が公然とあるし。
「小鳥、聞いてくれる!?」
「あー現在進行形で聞いてますとも」
「なら良し!」
なんでこんな生まれながらの『主人公』と一緒にランチをしているのかと思えば、彼女は私に愚痴りたいのだ。
ていうか愚痴っていますが。
こんな「美少女」が何故こんなにも不満が溜まっているのか、というと有希ちゃんは確かに「美少女」だが恋愛事は現在NOなのだ。 理由は一部なら私は知っているがそれは置いといて。
告白なんて4月で両手の指が足らないほど連続斬り。
それはもう容赦ないほどの斬り様だったらしく、5月にはいるとよほどの兵しか斬られにいかないらしい。
私もそれほど恋愛事に興味はないので有希ちゃんがうらやましいとかは一切思わないが、他の女子生徒はそうはいかない。
最近、有希ちゃんはある一人の生徒を斬り続けている。
今聞かされている愚痴というのはほとんどその斬り様だし、ってか昨日から十二回斬り続けているって。
純粋に斬る方も斬られる方もすげぇと感心せざる負えない。
そして聞き耳を立てていた男子生徒らはほとんど蒼褪めているが、まぁ問題ないでしょう。
で、話は少しズレたかもしれないけど、有希ちゃんは斬り続けている容赦なく。
けれども散らないのをどう散らしたらいいのか、または散らない不満を話す相手が私しかいないのだ。
他の女子生徒からしてみると「斬らなきゃいいじゃん」で終わってしまう。というのもココが大事。
斬られ役が『美少年』。
何でも外国からの転入生。 幼少の頃向こうに越したため純日本人だが数年の滞在で英語は完璧。
つい二日前に越してきて、有希ちゃんのクラス1Bに編入。
そんな彼・・・君島トオルは有希ちゃんの元お隣さんで現お隣さんでもあって幼馴染だという。
「…何ですと?」
「だからー。 あいつは小学校3年まで家がお隣の幼馴染だったのよ!」
「で、転入早々有希ちゃんに告白したの?」
いつの間にか食べ終わったお弁当を膝の上に置いて熱く語る有希ちゃん。
ちょっと、まだ私食べ終わっていないんですけど。
「『帰り道まだ越したばかりで不安で、同じ方向って先生から聞いたから良ければ
一緒に帰らない?』なんて言って! そんで私の家の前まで来て『久しぶりだね、有希ちゃん』
なんて…なんてなんてえ!!!」
「で、告られたんですか」
「勿論斬り捨てたんだけどね」
あぁさすが姉御。
そんな声が周囲から聞こえた気もするが、怖いから無視する。
けれど確かに言い切った有希ちゃんは迷いがなくカッコ良かったよ。うん。
「色々つーかほとんど聞いてあげたけどさ、私に何をして欲しいのさ?」
カッコ良い有希ちゃんがただ愚痴るだけってのはないと思う。
まぁ友人の愚痴を聞くだけでスッキリするなら聞いてあげるんだけどね。
「ヤツとの接触を最小限にする。 だからそれに小鳥も協力してほしいのよ」
えー。とは内心思ったが出さない。えらいぞ私。
「…具体的に?」
おそるおそる聞いてみる。
「下校登校を一緒に。 明日の休みも私の買い物に付き合って」
えー。とは(ry……
「いいよ。 有希ちゃんがそんだけやる気なら協力したいし」
「ありがと! 小鳥!!」
ガバッと勢いよく抱きついてきた有希ちゃん。
彼女の方が背が大きいため包まれているような感じで。
ちょ…小鳥並な小ささとか思ったのは気のせい!うん、気のせいだよね!
あ、胸が顔の目の前にある・・・って意外とでかかった!?
って、んなコトより私の昼食の残り食べさせて!
慌てて彼女を引き剥がそうと肩に手をかける。
パンも持っているので片手だったが予想してたよりも力が強く、もう片方の手もってパンが…あっ!!
埋もれながらも手から落ちていくパンを見る。…私のお気に入りのパン。
そして気が付く。
パンの先に学校指定の上履きが見える。
各所に配色されているのは「赤」なので、私と同じ一年生。
それにしても随分と新品だな…新品?
「……あ。」
私の声に有希ちゃんも私の視線を追う。
そして露骨に嫌な顔をした。
「有希、もうすぐ授業の予鈴がなるから迎いに来たよ」
「次は選択で私は『美術』、アンタは『音楽』でしょうが」
「俺の授業覚えてくれているんだ? 嬉しいねぇ」
「『一緒じゃない授業』だもの、当然じゃない」
鳥肌が立ちそうなくらい寒い空気がこの場を支配する。
容赦なく存在を斬り捨てる有希ちゃんと微笑を浮かべるまさに『美少年』な君島トオル。
え? 何この展開。
「教材を取りに来るだろうから教室にいても良かったんだけどさ、有希がいないし。
つまらないから迎えに来てあげたんだよ?」
「私のためじゃなくてアンタのためでしょうが。 第一ただのクラスメイトを何で『お迎え』するのよ」
「有希が好きだから。付き合って欲しいから。」
「……」
言い切った…!言い切ったよこの人!
やはり外国の風土のせいなのか、コレは。
そして直視してないけど有希ちゃんから阿修羅のようなオーラがびしびしと…!
うわぁ13回目の一刀両断確定だねこりゃ。
スク…スタスタ…ズドム。
「寝言ほざくのは墓の中でしなさいよね」
一刀両断は一撃必殺でした。
皆が固まる中、一直線にかつ流れるような動作で君島トオルの前に立つとお弁当をグローブに腹に一撃。
崩れ落ちた君島トオルに冷ややかな視線と共に言い放つ有希ちゃんはカッコ良かったが…ちょっぴり怖かった。
「じゃあ小鳥」
「は、はいっ!」
「さっきの話、頼むわね?」
「イエッサー! 出来る限りするよ!!」
頼むわね、と崩れ落ちたソレ(十三回目)をそのままに有希ちゃんは颯爽と教室に戻っていった。
有希ちゃんを見えなくなるまで固まったままでいたらキーンコーンカーンコーンと解呪の鐘がようやく鳴り響き、周囲で固まっていた生徒が次の授業のためにそれぞれ動き始めた。
あ。私も教室に戻らないと。
横に置いてあった飲み物を手にして…どうしよう。
地面に放置された私の昼食の残り(パン)。*人影は無視。
3分ルール適用で良いですか、キツネさん…。