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その3 『‘わたし’という名が記された日』

ラブコメ編の前にもう一話あるの忘れてました。 うっかり。

5月14日木曜日 

私は本日の授業を終え、キツネさんのいる喫茶店「たぬき堂」に駆け込み寺の如く逃げ込んだ。

そして今朝あった『初対面の少年を見送る』なんていうイベントについてキツネさんに報告したところ哀れみの微笑を贈られた。いらん。

まぁココまでのことはココまでで。 今日たぬき堂に訪れたのは話したかったからだ。


「その赤い本のタイトル、ですか?」

「うん。 やっているのはただの日記みたいだけどさ、書くことの話題作りにもなるし、

 昨日は本を手に入れた経緯を書いたから今日はソレにしようかなって」

「…そうですか…」

たぶん。いや、きっとキツネさんは今日書くことは異世界召喚された少年のことだろう、と思っているに違いない。 

しょうがないじゃんか、ソレを書いちゃうと美少女(魔女)も付いてきちゃうんだから。 だからダメ。


ふーむ…。

私とキツネさんは二人して考え込んだ。 ただの日記なら「私の日記」やら「Diary」で済むが、また言うが今朝の出来事からトンデもな本であることが分かる。

そんな本に安直なタイトルで良いか、というので頭を悩ましているのだ。


「小鳥遊 小鳥の冒険日記」

「冒険の旅に飛ばされそうなんで、拒否します」

「小鳥のほのぼの日記」

「…異世界ほのぼの、になりかねないんで拒否します」


とまぁ思いつく限りキツネさんに候補を挙げてもらいましたが、全て拒否。

だって全部私にトラブルってかイベント起きるの確定だったし。

何事も!ってか今後は平穏が命!と声を高らかに主張したい。



「ヒナちゃんいらっしゃい」

「あ、タヌキさま」


タヌキさま…このタヌキ堂のオーナーで私のことを小鳥=雛鳥ということから「ヒナちゃん」と呼んでいる人。 

この喫茶店とは別の仕事もしているようで、店に居ないことが多い。

スラリとしたキツネさんに対し、タヌキさまは50代男性の平均的な体型…まぁちょぴっとぽっちゃり系といえばいいだろうか。 

髪は真っ白ではあるが残念な頭ではなく「さま」と敬称をつけている通り上品なオジサマだ。 

そんなタヌキさまは先程まで私以外にいた近所のおじさんと話し込んでいた。 

どうやらおじさんは帰ったらしいので私とキツネさんがいるカウンターに来たようだ。


先程のおじさんは見かけたことあるので、それを振る。

「話してたのこの辺のどっかの店のおっちゃんだよね?この時間ってまだ店開いているんじゃないの?」

「んーまぁそうだけど奥さんが店にいるしねぇ…どうやら外人さん一家が引っ越してくるらしいよ」

それとちょっと話して店に戻って行った、と。

「え、それだけ?」

「ちょーっとな話しにも付き合うのがご近所付き合いに大切だよー」

いつもののほほんとした空気そのままにおっしゃるタヌキさま。

その言い方だとタヌキさまも「どうでもいい」と思っている様子である。


果たしてそれでいいのか?と聞き返したくもなるが、その話はもう終わったとばかりにタヌキさまは私とキツネさんの間にドーンと置かれた分厚い赤い本を見つけたようで。

そうなれば当然話題がコレになるのは当然で。

「あ、もしかしてその本がキツネ君が言っていた『主人公フラグな本』?」

他人事なので興味津々に私の目の前に置かれている本を手に取る。

「主人公ってワケじゃないですけど、面倒事が起きそうで」

えぇ本当に。 

タヌキさまは昨日私が書いた本をゲットした経緯を書いたページを読み、あとは真っ白なページをパラパラと流す。 その様子を見守るような私とキツネさん。

「ふーん……」


「日記形式の物語、ですか。 面白そうでいいじゃないですか」


・・・はい? 返された赤い布カバーの分厚い本を受け取りながら、ちょっと思考が停止した。

何となく嫌な予感、ってか何かやらかした予感がする。

「で、この本でお話していたようですけど、シナリオについてですか?」

「いえタイトルが未定だったので小鳥さんとどんなのがいいか話してたんですが…」

「あぁ確かに中表紙にタイトル書いてなかったですねぇ」

「はぁ…」


タヌキさんとキツネさんを見てみると、キツネさんも私と同様に何やら感じているようだ。

会話をしながらもどこか虚ろで視線が私の手の中の本に向いている。

中表紙…?

耳に入った単語で右の表紙を捲ってみる。 右…?

「……ぁ」

私の呟きでキツネさんも気付いたらしい。 視線に哀れみ感じます。だからいらん。

やらかしたといえばやらかした。


漫画や小説、ノートなど、ご自身のお手持ちの『紙を束ねたモノ』を思い浮かべてもらいたい。

ホチキスやらクリップやらで束ねられたのや一部を除いて。

それらはどちら側から開くでしょうか?


簡単に言えば私は小説や漫画と同じく、右扉で書き始めてしまったのだ。


日記というのはノートと同じ左扉。 

それではなく右扉であり、日付入りの文であったためタヌキさまは『日記形式の物語』と称したのだ。

まぁ間違っていないですよ。うん。

『日記』という受動態な書き物ではなく、『物語』にしてしまったんですから、自分で。

「続き、楽しみにしてますよヒナちゃん」

「はぁい…」

泣いてもいいですか?キツネさん…。


深夜自室。

昨日も同じシチュエーションで日記を書いていたが、寝る前に書くのがタイミングとしては丁度いい。

だから状況については記述無しとして…タイトルどうしようか。悩む。

結局たぬき堂ではあのあとショックが意外と大きくて、タイトルどころじゃなくなったのだ。


ふと机の上の例の本を見て、「もしかしたら」とカバーを見る。

私が右扉としてしまったのは何かしらカバーに原因があったのかと思ったのだ。

そういえば何かコトバやら染みっぽいのがあったのを思い出して、まず『表紙』。

やはり。 そこにはうっすらとだが何かしらあった。

そうだ、このせいで無意識に表紙をこっちにしてしまったんだ、と『裏表紙』を見る。 …ってあれ?

「両方あるじゃん」

え?リバーシブル?んなワケないか。大きさは違うけれど、カバーのソレは両面あって、つまり『勝手に私がやらかした』ですね、えぇコレは。 だから哀れみはいらん。(脳内のキツネさん)


カチ。


秒針が「12」を指し、それでも走り続ける。 あぁ、日付が変わってしまった。

朝の登校時間が魔女(美少女)のオカゲで早まったが友人の突撃な愚痴で潰れたので、眠い。

タイトル…タイトル…たいとる…。

考えても考えても気に入るモノが思いつかない。あぁ、もうシンプルでいいよね。

シンプルイズザベスト。


『この本のタイトルについて今日色々と考えて話し合ったりしたけれど、思いつかない。

 どうも「物語」な感じな強制イベントがくるようなんで何かしら変な方向付けするようなのはダメ、

 そう思ったんでありのままにするとしよう。 ありのまま…まぁそう考えると「本と私」?

 本を手にいた少女が巻き込まれる…えぇまさにそんな感じ。 

 だけどさ、現実だけど否定したい。なら…ん?なら? あ、そうだ。良い事思いついた。

 これならまだマシでしょう。


 【わたしとキツネさんと赤い本】

  

 だって、私だけってイヤ(面倒)だし、それに一人よりも二人いたほうが何かと良いよね!

 …だからキツネさんもご一緒に。』



明日この中表紙をキツネさんに見せてどう反応するかちょっと楽しみになったのだった。



次回から本当にラブコメ編。 この物語は主人公の特性上、脇役以下一般人な視点のつもりで読んでいただけると楽しめるかもしれません。たぶん。

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