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異世界編 その21 『まず』

ケヲス『東の都』2日目。


以前も使用したことのある主従タイプの2つの寝室がついた宿屋で霧に囲まれる朝の中目が覚めた。

ケヲスは岩山に立つ国なので霧の時間が長くそして早い。

「午前4時半…」

ようやく昇り始めた朝日は霧のせいでほとんど明るくないはずなのに起きてしまうとは…何故だ。

寝た時間は11時半ごろだったと思う。

で出発は8時半で合っているハズだから…うん早過ぎた。


早起きは三文の得とかいうけれど思い返してみれば早く起きてしまって良いことが起きたことがない。

だからといって二度寝するほどの眠気がどこかいってしまっているし…散歩したいけど今回は外ではなく下のホールにでも行くか。


部屋を出るにはキツネさんのいる従者用の寝室の前を通らないといけない。

「……」

流石のキツネさんもこの時間はまだ寝ているだろう。

それに睡眠という休息も大事であることは重々承知のハズ。

ちょくちょく抜け出している気がする私を止めることはしないだろう、無駄だと分かってるし。




ギルド運営のこの宿屋はギルドに登録している冒険者なら割安で泊まれる。

また所有するランクによっては借りられる部屋のランクも上がるようでSランクにもなれば個室専用風呂といった高級旅館のような待遇が受けれるらしい。

ちなみに私とキツネさんが借りたのは依頼者専用の部屋。

勿論冒険者ではないから割安でもなく適正価格の「安心」な寝床の提供だ。

やはり遠方からの客にぼったくりを仕掛けるのはいるらしい。

ま、その辺は所属国からのお墨付きがあるので安心、ということでラバルという特殊な条件がないので今回利用することになった要因の半分である。

もう半分は「誘われた」というのが正しいのだろうか?

というより案内されたらそのまま泊まるよう勧められてこうなってしまった、感じだけど。



朝日はまだ霧に遮られて微弱のため壁のランプの明かりを頼りに歩いていく。

時間が時間のためか足音が響いている気がして、つい泥棒のように気を配る。



昨日のキツネさん待ちの最中に再度出会った親切なネコ耳少女のいる4人のヒトたちに遭遇した時。

「今度は何をお困りしているのですか?」とネコ耳少女に問われたので素直に「宿屋の地区」と答えたところ、どうやら彼女たちも宿屋地区にある自分たちの宿屋に向かうところだというので渋るキツネさんを「起動アクセル」状態で引き摺ってご一緒することに。

オルブライト風の装飾が施された鎧を身にまとう金髪青年。

ふさふさの尻尾を持つ半獣の少女。

背の低い色白でゴーグルをしてる少年。

そして親切なネコ耳少女。

そんな中々愉快そうなメンバーは金髪青年をリーダーとするギルドチームのようで。

上から「ノイ」、「タニア」、「ジェイ」、「メア」と簡単な自己紹介をされたのでこちらもオルブライト王国から任務で派遣された上司「小鳥」と部下「キツネ」であることを。

あながち嘘ではないし「国家図書庫管理司書長」というのはそれなりな役職だそうなので彼らを取材しない限り身分は明かさないでおくことにした。


そんで彼らに案内されたのがギルド運営の「宿屋」だった、というわけ。



ホール…足に低い長方形のテーブルをソファーで囲んだのを1セットにしたのを8セットほど設置してある大きな部屋…に着いた。

やっぱり予想通り誰もいない。

そんなひっそりとした清閑とした空間に踏み入れる。

端っこの1セットの2人がけソファーの真ん中に腰掛け、ベルトの中から「物語メモ」やら「お話」やらをテーブルに広げる。

視界に入るよう一面に広げられたそれらの上に今度は「有効活用」と「白紙」。

随分と増えた「有効活用」を一枚一枚一行一行に目を通し、記憶に欠ける部分を補うように白紙に綴る。

実はコレ、私のテスト勉強の仕方だったりする。

それまでの授業ノートを見直してノートだけで分からない箇所は教科書とかで調べて、理解したトコロだけをテスト用のノートに書いていく。

まぁ暗記系の教科にしか使えないんだけどね、コレ。


重ねられる白紙と有効活用が増えていき広げられたモノたちが見えてきた頃。

周囲を感じられなくなるほど集中していた私に何かの気配が感じられた。

そして顔を上げてみると…


「おはよう、早いのだな」

「おはようございます。 ジェイさん、でしたね」

「Jでいい」


背の低いゴーグルをした少年、Jがいた。




トントン、とまず有効活用と白紙を回収。ポケットへ。

続いて「物語」と「お話」を束ねて流し読みで読んでいく。

やはり書類なので他人に見せて良いものではないだろう。

勿論昨日会ったばかりのJがそんなヒトではないのはわかっているのだけれども。


「んで、Jも早起きしちゃったんですか?」

とりあえず「ながら」ではあるが会話をすることに。

「俺は…自主練だ。 飛行時間が半日だと聞く。 ならこの時間しかないだろう」

「それは、ご苦労様と言うべきかな? 私はヒマ潰しみたいなので構わないですよ」

というか今気付いたんだが手の中の紙に「日本語」がチラホラ見受けられて…見られたら絶対にヤバイ。

「……」

「え」

見送る、という動作を希望していたのだがそれに反してJは私の向かいに腰を下ろした。

慌てて文字の面を自分に押し当てることで見れないようにはした。

「…気が変わった」

「どうかされましたか?」

何か私に聞きたいことがあるのだろうか。


「どうしてコトリたちは南の都に行く? 任務に差し支えのない程度で良い。教えて欲しい」


「…そうですね」

理由は勇者一行(変装済み)のBチームが行ったから。

何故行ったのか、そこで何をしたのか、どんなイベントが起きたのか。

Aチームのように真っ直ぐ中央都市に何故向かわなかったのか。

無論それらのことは任務に関係してしまうのだから言えない。

「私たちは『情報』を追っていて、南の都はその通過点のようだから?」

「何故疑問系?」

「正直なところ私らが追う対象ソレが何故南の都に行ったのか、

 そもそもそれの調査ためですからね」

対象ソレは話せないほど極秘なのか?」

うーん、勇者アイザワは別に話しても良いのかな?

もしかしたら不明のSSSランクに関してのとか知っている可能性あるし…。

「それほどのもんじゃないですよ。 『アイザワ』という人物の跡を追って、

 そこで何をしたのか調査しているだけです」

自己紹介でJはケヲスのヒトだと聞いているから、私の役職で『アイザワ』を追うことが

どのように重要なのかわからない筈なのでこの程度の開示は良いだろう。

そう思って軽く口にしてみれば。

「……」

相槌さえも聞こえないJに顔を上げて視線を向ける。

すると、暗いゴーグルの奥にある瞳に真っ直ぐぶつかった。


「『光聖騎士団ナイト・サラパテトリア』のアイザワ、か? お前たちもか」

「はい?」


お前たちもか?

頭の中でリピートさせるが混乱が収まらない、むしろ加速する。

そして納得。

「……」

混乱に割いた感情が一斉に「面倒」と呟いた。 






「ということは何です? 勇者アイザワ達がケヲスでギルド任務を受けて

 いなかったのは中央都市で行われた『武闘大会』に出場したからで」

「うん」

「出場したらしたらで準優勝をして、それも人数制限が4人の

 ところ3人で出場したチーム戦で」

「うん」

「そしてチーム戦の優勝は昨日出会った4人、チーム『ルト・ララサ』で」

「うん」

「優勝した彼らは中央都市に居辛くなりここ東の都に逃げてきて今度は『勇者

 アイザワは南の都で飛行魔獣なるものを手に入れた』という噂から南の都へ

 行こうと決めたところ偶然、我々と出会って行き先が偶然、同じだったので」

「…うん」

「こうして本日共に南の都へと行くことになりました、と?」

「おっしゃる通りです、キツネさん」

 


カチャン。

普段ならしないはずのカップを置く音が何気に部屋に響く。

まるで今のキツネさんの気持ちそのもので責められている感じだ。

まぁ偶然、であるけれどやっぱ私の持つ『赤い本』に起因するんだろうな。

ポテとテマに出会ったような、偶然。


前向きに考えれば旅のゴールが近づいた、つまり現実世界への帰還が早まるか確実になる…だけど。

そんなのとっくに気付いているしありがたいとは思うけれど、本音を言えば

『ありがた迷惑』なんだよね、キツネさん。

うん、それは私だって同じだっていうことは忘れずにして下さいね?


「ではそんな、彼らと合流しましょうか」

「…ですね。 飛行魔獣については歩きながら話しましょ」

いろいろ引っかかるけど。

しょうがない、話し込んでいたら時間がたっていたのだから。



窓の外をちらっと見てみれば清々しいほどに晴れ渡った青い空が。


……あぁ何だか、イラっとした。





おまけ~武闘大会 チーム戦決勝 『ルト・ララサ』VS『光聖騎士団』の一部分~



ガキィンッ…!


振り下ろされた刃は単純に重く、捉えるのも避けることも出来たが敢えて受け止める。

パラノイラ・ガエロ・マニエシュ…長いので本人も公認「ノイ」は逃げられないよう剣を巻き込みながら

仲間を確認する。


半獣のタニア・ママト・アイル…愛称は「ニーア」、は相手チームの女性剣士の相手を。

投石という攻撃スタイルの彼女は接近戦が苦手に見えるがそうではなく、どっちでもいい。

己の持つ加護属性の風を纏わせて女性剣士の飛ばす石や砂を防ぎつつ、その場の足止めをしている。


そんな俺たちの後ろからは魔術による砲撃が発射されている。

グロット・Jによる広範囲の火属性魔術。

腕の魔術機具よって連射とはいかないものの間隔をそれほど空けずに精密な計算によって配置された火の雨を降らせている。

さらにはメア・マロン・ターチによる風の魔術。

杖となるのはケヲスでも珍しい拳銃で彼女は2つ、両手に持つ2丁拳銃使いだ。

『斬撃』と『圧縮』の回路が刻まれた弾は魔力によって発射されることにより、発動する。


2人の相手は後方より援護する弓使い。

これまでの闘いを見ると弓と双剣、治癒魔術も使えることがわかっている。


そしてこれが重要なのだが…女性剣士と弓使いはオルブライト王国の騎士、それも第一騎士団のエリートだろう。

精錬された動きはとてもじゃないが無名のギルドチームにふさわしくないし、何より身に着けている防具は個々に作られた特注品だ。

防具に刻まれた装飾はエルフの装飾回路だろう…自分たちでは敵わない。

ただし一対一なら、に限るが。


そうこれはチーム戦。

チームリーダーの腕にある宝玉は騎士ではなく1番若い剣士がつけている。

どうみても未熟な彼に勝敗を決定するソレを持たせるのは…余裕?罠?

確かに決勝まできたのだ、特殊な技能か何らかな隠しがあるのか…情報がないので答えなどない。

俺とニーアで2人を分断させているしJとメアで回復術を使える弓使いの騎士を抑え込んで入るのだ。

さっさとこちらのペースにもっていき俺らが、勝つ。


「はぁあ!…『氷結(ファースト・アイス』!!」

「なっ…!」


オルブライトの人間がケヲス式の魔術機具を使用するワン・ワード・キーによる魔術を使うのはあまり良い目で見られない。双方から。

けれど俺たち4人は『仲間』だ。

仲間の魔術技術を利用しているのを後ろめたいなんて、思わない。


剣とその周囲に冷気を巻き散らかして相手を斬りこむ。

「アイザワ!」

女性騎士が若いリーダー…アイザワというのか…に気が逸れたのを狙ってニーアが己の魔力によって強化した蹴りは腹部を狙うが女性騎士の方がすばやく剣の腹でガードする。

しかしあまりの威力に地面を削りながらも3mほど後退する。

…充分だ。


「『我が呼び声よ届け導け 彼の結びは■■において不変なり!其の癒しと友愛をここに…風の調べフィルル・マーチ)!!』」




勝利を呼び込む風が、吹いた。



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