その2・5 『少年が旅立ったその後』
間奏のような話です。多分。
「異世界召喚」イベントは終了した。
そう、少年が私の目の前で消えた事で終わったハズだけど考えてみれば継続でイベントが起こり続けるのも何ら不思議ではないのだ。
だって、紫色のミニスカワンピの美少女(魔女)が残っているじゃない★
少年を、私が見送って美少女(魔女)が送って・・・隣に私からしたらある意味元凶がいるじゃないか。
「ねぇ、待って」
二人だけになってしまってから「あ、ヤベ」と気づいて意識してスムーズにその場から去ろうとしたら呼び止められてしまった…。
あーあーぁーぁーぁー…。
悲哀の言葉と涙がココロに響き渡ります。
「アナタは何?」
「何って…この辺の高校に通う学生の一人、小鳥遊 小鳥です」
「その『小鳥遊 小鳥』って何?」
「はい…?」
え、この美少女(魔女)は何を私から聞き出したいのだろうか。
私の名前の由来?コレまでの人生?それとも性格や嗜好を聞きたいのか?
何故私がこの場にいるのかを聞かれれば偶然だし、鞄の中に押し込まれた分厚い例の本のせいかもしれない。
だが私が何なのかはコレに当てはまらないし、昨日手にしたものに私を定義付けられるのはいささか不愉快な気分になる。
「…っそ。 ヒトは己がナニかだなんて認識しきるなんてわからないモノだものね」
顔は無表情だが一人納得しているようにウンウン頷く美少女(魔女)。
自然と眉を顰めてしまうのはしょうがない。
「美少女(魔女)さん、私もう行ってもいいでしょうか」
大分ここで時間をくってしまったし、というか登校途中だった。
せっかく早めに来てるのに急がないと。 もしかしたら遅刻かもしれない。
「あぁ、ソレであたしを呼んでいたのね。 っそ、いいわソレで。 じゃね」
去ろうとしていた足を再起動させて私は早足で近道の公園を突き進んだ。
回れ右をした時、美少女(魔女)が表情を笑顔にして手を振ってバイバイしているのを、見た気がする。
近道の公園を抜けてまっすぐ、目の前の青の歩道信号で渡れば学校だ。
ただ信号機の所に来たところで赤になってしまったのでお休み。
車の通りが激しいので赤で渡ろうとするヒトは全くいない。
まぁ信号待ちしているのは私一人なんだけど。
道路の向こうに門があって、その奥には校舎が見える。
そんな風景の中に登校時間内である現在、生徒一人見えないというのは逆に難しい。
「もしかしてもう授業始まっていたりするのかな…?」
車が通り過ぎるので声は私しか聞こえていなく、ポケットに入っている懐中時計を出す。
慣れた動作で時計を覗いてみれば・・・
「し…7時10分?」
何故だ。
いつもならこの+1時間の8時10分に到着しているはずで、あんなイベントがあったなら+2時間としてもおかしくない。 それくらいの時間を感じたんだから。
信号が青になる。
慌てなくてもいい、むしろゆっくりし過ぎたほうがいいんだけど…慌てる。
ズカズカと学校の門を抜け、ズカズカと校舎へ歩く。
この状況でパニックになるのは簡単だけどそれを表現するのは「非日常」を曝け出している様で私が許せない。
私、小鳥遊 小鳥は「日常」をこよなく愛する女子高生である。
何を今更、な顔で脳内のキツネさんが私を哀れむが…許せないのだから仕方ないでしょうが。
この時ばかりは忘れていた名前の無い赤い本ではなく、紫ミニスカワンピの魔女(美少女)を私に意識させた。
ふんっ、絶対に『本』に書いてやるもんかっ!!
そう決意した私は余分な時間を有効活用(睡眠)すべく、誰もいない教室の扉を開けた。
次話から「ラブコメ編」になります。ラブコメの定義が怪しい作者ですが、私なりの「ラブコメ」ということで。 けれども主人公の小鳥は相変わらず「巻き込まれ」なので期待しないでください。