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異世界編 その18 『アジュラ:ティンガ族』

6人の獣人に見つめられ固まっているとその内の1人の男性が話しかけてきた。

「もしかしてオルブライトからの人ですか?」

狼という風貌にはいささか似合わないような丁寧で落ち着いた言動。

害意というものがまるっきり感じられないので多少警戒しながらも答える。

「はい、任務でコチラに訪ねました。 …あの、何か用ですか?」

未だに離れない視線に居心地の悪さを感じるがそれをそのまんま指摘するのは悪いだろう。

だってただ見ているだけなのだから。

「そうですかやはり…あぁ警戒しないでいいですよ。私は『マライル・マト・ティンガ』」

「あたしは『フォルリレーナ』! リーナって呼んでいいよ、お姉ちゃん!」

「そっか、リーナちゃんだね。 よろしく」

と、突然抱きついてきた1番小さい獣人の子供の頭を撫でつつ…ってすげーフワフワする。

あまりのフワフワ感に両手で撫で回したくなるけど、何とか抑える。

するとヒョコッとリーナちゃんより一回りほど大きい獣人が。

「あの、初めまして。 僕は『ズスフィル・テト・ティンガ』って言いますっ」

「『フィー』って呼んであげてねっ!」

リーナちゃんの後ろに半分隠れるような感じだけど一生懸命見上げてきて…毛が長いタイプなのかフワフワ感倍増で狼というより犬っぽい。

「初めまして。 フィー、『君』って言った方が良いかな?」

フルフルと横に振られる首。

「うん、じゃあフィーよろしくね」

視線をちゃんと合わせてそう言えば恥ずかしそうに俯いてしまうフィー。


…こうしてみると『狼』っぽいという外見からの先入観は彼らに失礼だと思い、改めて子供2人除いた大人4人を見てみるとバラバラな個性が。

そして私と視線が合ったことから彼らからの自己紹介を受けることに。


1番最初に名乗り出た落ち着いた言動はマライルさん。

ギルドの支部の1つの所長さん。 リーナちゃんのお父さんでもある。

その隣にいた細身の姿勢が良いのは『ガザリア・キト・ティンガ』。

ガザリアさんはマライルさんの部下でハンター講師をしている。

で、残りの2人は防具・武器を所持しているからハンターで決まりで、実際その通りだった。

男性の方は『オロキュス・テト・ティンガ』。

腰には剣を下げていて頑丈そうな防具を身につけている。 フィーとは同じ『テト』性で、2人はいとこになるらしい。 

自己紹介の際握手を交わし、好青年といった感じだった。

最後の1人は女性。 『レイルーリ・ト・ティンガ』。

オロキュスさんより軽装で皮製の防具のようだが右腕全体を覆い肩から突出している武器兼防具はキツネさんの防具に施された魔術装飾とは全く異なる装飾が施されていて少しばかり気になった。

彼女からは『レイ』と呼んでくれ、と言われた。


リーナちゃんににフィーにマライルさんにガザリアさんにオロキュスさんにレイさん。

ぐるっと見回して頭の中で名前を反復させて…よし覚えた。

そして顔を上げたら6人の視線が集まり、それが私の番だというのはわかっている。


「私はコトリ。 オルブライト王国国家図書庫管理司書長、とかいうのやってます。

 よろしく」





『ティンガ族』。

アジュラ内でも1・2を争う戦闘能力の高さを誇り、ヒトとは全く違う『獣人』という種族の彼らは100年200年は余裕で生きられる。 

外見は二足歩行の狼といった感じだが手はヒトと同じ5本指、言語も同じでありそこからは特に狼という恐怖感はそれほどない。 毛色は灰色だったりクリーム色だったりと様々で、三毛猫のような模様がそれぞれまた違う色の毛で描かれていて…リーナちゃんやフィーといった子供は正直狼というよりかは犬に見える。 まぁ狼も犬も元は一緒なんだけどね。


しっかし何でみんな私に有効活用をしたがるのか。

主に説明してくれるのはマライルさんとガザリアさんの2人。

職種的にも説明には慣れているだろうしとてもわかりやすくもあるのでついつい聞いてしまう。

そんな和やかな感じで彼らに案内されるがままについていく。


そして現在。

私を含めたティンガ族6人、計7人は『揺るぎなき巨塔エラグラレ・トドヴァール』の中にあるギルドセンターアジュラ連合国本部の1室にいた。


で何をしているのかといえば『治療』。

これが元々の『ニオイ』に繋がるわけだけど、これまたマライルさんがわかりやすく説明してくれた。


ティンガ族はヒトよりあらゆる点で勝っており、その中でも彼らの『獣』が狼らしきものであるから非常に『嗅覚』に優れている。 

それは単純なニオイだけでなく個人の魔力をもニオイとして嗅ぎ分ける。

で私からした「ニオイ」というのは魔物のニオイ。

魔物というのは共通して闇属性の魔力を漂わせているからかどの魔物もほとんど同じニオイがするようで。

まぁヒトによっては魔物のニオイも個々に嗅ぎ分けられるらしいがそれはいらない有効活用というものだ。

ちなみに私にそのニオイがあると指摘したのはオロキュスさん。

やはりハンターとして数々の魔物と相対したことがあるからそういったニオイに敏感らしい。


ちょっと話がずれてきたような。戻そう。

ココで肝心なのは魔物のニオイ、つまり闇属性の魔力がヒトから感じられる、ということだ。

どうも闇属性の魔力というのは魔物を魔物として成り立たせている要因というか。

無機物も闇属性の魔力に侵されればそれは魔物として機能するというし、ヒトが闇属性の魔力によって狂ったとか魔物になったとかは聞かないがともかくヒトから闇属性の魔力がニオうのはおかしい。


…心当たりはあった。というかありまくりだ。


観念した私は正直にココ、コルトベヲラントに来る前に魔物の群れに襲われ部下と2人で戦闘を行ったこと。

そしてその際に左足が魔物の口に入り込んだことを正直に話した。

話せば話すほどその時の情景が脳裏に展開され、思い出せば思い出すほど体が震えたような気もするししなくもない。


マライルさん達は私の話を聞いて『揺るぎなき巨塔』内のココ、ギルドセンターに連れて闇属性の魔力を清める…『治療』をしてくれている。


私の左足を水で洗い、ツンとした匂いのする薬草を巻きつけておりのはガザリアさん。

その隣でにこやかな表情で説明してくれているのはマライルさん。

リーナちゃんとフィーはオロキュスさんに連れられてやや離れたところに。

レイさんは治療に必要な道具を持ってきたりとガザリアさんの手伝いをしながら私の治療を見つめていた。


「しかし人間ヒトが闇属性の魔力ニオイを付けるなんて…お嬢ちゃんは何属性なんだ?」


薬草の上からきつめに包帯を巻きつけ治療も終わりに近づいた頃、子供2人を構いながらオロキュスさんが私に聞いてきた。

属性、か。

「私は“無色”なんですよ。 オルブライトでもめっずらしいようですけど…」

色持ちがほとんど、っていうか大半の中ただ無色の純粋魔力だけを保有する人間。

キツネさんだって「風」と「水」の色を持っているというのに…魔力の量も容量も半端ないらしいが倒れたり痺れたりで良いことなんかない。 まともに魔術も使えないしね。

「へぇー無色か。 そりゃあ俺たちみたいな『白色』と同じなんかね先生?」

「白色?」

炎が赤だったり水が青だったりと色で表現されるのは知っていたが白とはどんな属性なんだろう。

首をかしげる。

「あ、そうですねオルブライトの方でしたら専門でもない限り『白』は知りませんよね。

 いいでしょう、お教えします」

先生と振られたガザリアさんは活き活きとしているように見えた。

まぁハンター講師って言ってたしね…。



「先程のマライル所長の説明に重複しますが獣人・半獣と呼ばれる種族の

 ほとんどは魔術が扱えない代わりに五感・身体能力が人間に比べて桁違い

 なんです。  だけど我々は魔力がないというわけでなく、むしろ保有

 する魔力によってそれらの能力を手にしているのです。 

 人間の水・風・炎・大地といった個々独自の色彩色ではなく、『白色』は

 個々に差異はなく同じ魔力色。 勿論魔術に長けていたりする一族は

 その種族特有の色を所持していますが基本は同じです。 例えば占術を

 得意とするピキアート族がそれですね。

 『白色』は大気から魔力を補充することは一応出来ますが色彩色に

 比べれば10分の1にもならない速さでしょう。 ですから『白色』と

 いうのは獣人・半獣が保有する、あるにはあるがないような扱いの魔力色、

 といったところでしょうか」

質問はありますか?と軽く一回り私たちを見渡すとガザリアさんはまた口を開いた。

「では次に『白色』と『無色』の違いを。 無色もまた白色と同じで保有者

 すべて同じ魔力色となりますが我々と違って身体能力の向上などは一切

 ないです。 特にこれといった効果があるわけでもなくただ途轍もない

 量の魔力とその貯蓄タンクを持ち合わせているといっていいでしょう。

 そして無色、純粋魔力は大気の魔力とほぼ同じ性質を持ているという

 特徴もありますね」

「ん? それじゃあそんなに魔力があっても何にも出来ないってコトじゃないか?」 

「いえいえ。 確かに色持ちが使う魔術は使えませんが魔力そのものの力を動力として

 用いる魔術道具マジックアイテムはちゃんと使えますし、その魔力量から霊珠などで外部供給

 する必要はないんですから。 その点は長所として挙げられると思います」

「なるほどねぇ」





「はい、どーぞ」

「ありがとー!」

「ありがとうございます…」


私は飴玉を袋から取り出し、1個ずつリーナちゃんとフィーにあげた。

結局いつのまにかガザリアさんの説明はレイさんとマライルさんの3人の論議会になってしまって。

蚊帳の外になってしまった私とオロキュスさんはキャイキャイ楽しそうな子供2人のところに逃げ込んだ。

「オロキュスさんもどうぞ」

飴玉はアジュラの砂漠地帯にしかない『リコ』という木の実の果汁が入ったモノ。

獣人の握力でも割れないこの木の実は非常に濃厚な甘さを持ちそのまんま食べるよりもこうして飴や飲み物に数滴入れるだけで充分にその甘さが楽しめる。

アジュラの名物料理というほどではないがB級グルメ的なアピールがしてあったので親切なおっちゃんにせめてのお礼ということで購入したものだった。

「おぉ悪りぃな。 …リコか、なつかしいなーこの味」

左足は薬草と包帯の2重で巻かれていてヘタに動けないので長椅子に座りっぱなし。

そんな私の隣にオロキュスさんがドサッと腰を下ろす。

「何かイメージと違うって感じです」

「んぅ? どの辺?というかどんなイメージ持ってんだ?」

目の前には木で作られた玩具で遊ぶリーナちゃんとフィー。

更にその奥の小さな円状の卓上を囲んで話し込む大人3人。

お互い飴を転がしながら話す。

「いや見た目狼じゃないですか。 だから強さ的な力があれば何でもできる!知識

 なんぞいらねぇ!な勝手なイメージあったんですけどあぁやって議論が行われて

 いると…違うなーなくらいです」

「…ホント勝手なイメージだなお嬢ちゃん。 まぁそれも否定はできないな。 

 事実里の中のヤツらはそういう傾向のが多いって聞くしな」

「ふぅーん、大変そうですねぇ」

「他人事だなオィ」

「だって、そうですし」

ガリガリ。

ずっと口の中で転がしていると疲れるのである程度満足したらすぐに噛み砕く、私の習性。

「そぉいや気になったんだけどさ」

「何ですか?」

「国家図書庫管理司書長ってなんだか引きこもりな職のイメージなんだが、なんで

 ココ(アジュラ)にいるんだ?」

「…言いますねぇ」

「お互いさまだろー」

してやったり顔のオロキュスさん。

好青年というワードに2重線を引く。これはあれだ、その辺の今時な若い兄ちゃんだ。


コホン。

まぁそんなのは後回しにしといて前言撤回の言葉をもらうために頑張りますか。

「国家図書庫はオルブライト王国のあらゆる文化歴史を記録・保管を目的とする

 王様直属の部署になります。 で管理司書長はその部署で1番偉く、国としての

 歴史を纏める職務が与えられた際には全てにおいて公平な立場で書き記す。 

 私がアジュラにいるのも今回の任務で立ち寄らなければならなかったから、です」

「おォー…」

自分でもびっくりするくらいスラスラと言葉が出てきた。

まぁ本当は私とキツネさんしかいない部署でちょっぴり見栄張っちゃったけど…いいか。

私だけではないんだし、ね。

それに前言撤回のリアクションもらえたから良しとする。

「なるほどなーハンターでも商人でもないのにココに来たのはそーいうことか。

 じゃあ調べ物か誰かに会いに来た、とかか?」

「どっちもですね。 今日は調べ物だったんですけど収穫が全くなくて…ハァ」

一応勇者アイザワの過去のこの辺りの戦歴をゲットしたから収穫なしではないけれど最後に大き過ぎる疑問が出てきて台無しだ。

思わずため息が出る。

「ふぅんなるほどねぇ…」

リコの飴玉をぽい、と口に放り込む。 


「なぁお嬢ちゃん。 互いにハラ割って話してみねぇか?

 俺たちティンガ族は『ギルド』の創設・運営しているんだ、損はしないと思うぜ?」

「ほへ…?」


もう一袋買って行こうかな、って考えている場合じゃなくなった。





カリカリカリ。

開けっ放しの窓から差し込んでくる日差しは随分と赤みを帯びていた。

どうやらもうすぐ日が沈むようだ。

部屋の真ん中に置かれたテーブルの上には何枚もの紙が散らばっていて、端には分厚い本を重石として活用中でありその下には『物語』が書かれた紙がまとめられている。

カリカリ、カリ。

何故か共に異世界へと来てしまったボールペンの動きを止める。

顔を上げて窓のほうを見ると『揺るぎなき巨塔エラグラレ・トドヴァール』が窓枠の中に。

「…」

夕日を背後に受けて巨大な影を空に作り出している、そんな景色を目にしてふと思い立ってテーブルの上をガサコソ探る。あった。

『カレリ・マド・ピターチェ』の細工結晶板。

窓際に移動して夕日に透かしてみると結晶板に描かれた『揺るぎなき巨塔』が現実とは反対に光を一身に集めてまるで浮き上がってきそうな絵がソコにあった。

「…」

日が動いていくにつれて結晶板の絵も動いていく。

ユラユラと光が波打つ様をぼーっとして見つめながら、思い返す。




オロキュスさんの提案に私は乗ることにした。

任務については言い触らして得するもんじゃないしなので口にしなかっただけなんだけど、どうやらそれが功を奏したようだ。

まぁお金じゃなくて私が任務を話せば欲しい情報が得られるのなら良い話じゃないか。

「さっきも言ったけど私は『歴史』を纏める職でね、今回は『魔王を倒した

 勇者アイザワの軌跡』を纏めるのが目的。 それであらゆるモノから公平な視点で

 なければならないからこうして旅路をなぞる様に旅をしているの」

「やっぱりな。 しっかしそんなに急かすモンでもないだろ? 

 むしろじっくりと調査して作るモノじゃないのか?」

ガリ、と飴玉を半分に砕く。

「勇者アイザワはもうすぐ帰還するからね。 ブームが去る前に忘れられない大波を

 作りたいんだと思うよ」

というか異世界初日にワケ分からないまま言い渡されて理解した時には遅かった、って感じだし。

3回、4回と細かく砕いていく。

「さて、バラしたんだから私の質問に答えてくださいよ?」

「ハンターの俺で答えられればいいんだけどな」

「駄目なら?」

「マライルのおっちゃんに頭下げるさ」



結晶板の輝きは鈍く続いていた。

けれど頭上の空は暗く青く沈んでいて、もはや視線の先の遠い空しか赤はない。

私はそろそろ来るであろう霧に備えて窓を閉めた。

大事な『物語』を濡らしてはいけないしね。

紙が散らばるテーブルに戻るとどうやら離れた際に一枚紙が落ちてしまったらしく、イスの足元に白いのが。 

腰を折り曲げて拾うとそれは紙ではなく『物語』というか『破片』だったようで異世界の文字が書かれていた。

「『ドラゴン』か…」

ファンタジーなら王道な存在か。

頑丈な鱗に覆われ蝙蝠のような羽を生やし長い尻尾鋭い爪に「絶対王者」の眼差し。

私のイメージとしてはそんな感じであと色は赤で人の10倍以上は大きい。

色は何かの影響かもしれない、覚えていないけどね。

とにかく何故この『ドラゴン』というワードが書いてあるのかといえばこれはオロキュスさんからの情報なのだ。




「SSSランクの任務?」

早速質問するとオウム返しのようにまんま返された。

「もしかして知らない?」

「というか過去にSSSランクの任務が発令された記録はないんだ。 こっちが驚きさ」

「え…けれどセンターで確認したんだけどな…」

私はポケットから勇者アイザワのギルドの達成任務の写しをオロキュスさんに見せながら詳しく説明すると思い当たるのがあったのかポン、と手を叩く。

「そっか、あれかぁ…」

「でこのSSSランクはどんな任務なんですか?」

「『ドラゴン』さ」

「え。」

「ケヲスを襲撃したドラゴン討伐任務、それがそのSSSランク任務だ」


…結局どういった経緯なのかどんな戦闘なのか報酬はどうなのか、とかはオロキュスさんからは聞けなかった。

いや正しくは『知らない』だそうだけど。

というのもオロキュスさんはレイさんと護衛任務でケヲスの武術大会を見に行った豪族に従ってた時にさぁアジュラに帰ろうかというタイミングでギルドから呼び出しがあった。

ティンガ族であるから任務よりそちらを優先し、代理を立ててギルドへ向かうと『ドラゴン襲撃』の情報でパニック状態。 

でその負傷者を治療する為の人員と物資の護衛としてケヲスの西の都へ。

…そっからはちょっと省かせてもらうが襲撃したドラゴンは一通り暴れるとツンボス突山に向かって飛んで行った。 

多数の負傷者が発生したケヲスはギルドにドラゴン討伐任務を申請、でそれを受けたのが勇者アイザワ一行というわけ。 

オロキュスさんとレイさんは欠けたケヲス兵の城壁警備を手伝っていると今度はマライラさんの護衛としてアジュラに帰ってきた…ということだ。

一番最後の任務であるしあの『ドラゴン』討伐ならSSSランクも頷けるから間違いない、ということだ。

でこれは彼の推測でしかないんだけど、任務内容が白紙なのはどこまで情報開示するかとか色々事後処理するためにケヲス支部所長のマライルさんがアジュラに出向いているんじゃないか、とさ。

まぁそれなら話的にも繋がるしこれ以上はすべて推測でしかないので後日「国家図書庫管理司書長」としてマライルさんとお話しすることにした。


オロキュスさんと話し終わって気が付けば大分時間がたっていて、そろそろ宿に戻ろうと呟くとレイさんとオロキュスさんが送ってくれると申し出てくれたので走行獣の引く車に乗って泊まっている宿へと無事に帰還できた。

レイさんにマライルさんへの伝言も頼んだし、欲しかった情報も得られそうで満足しつつ部屋の鍵を受け取りにカウンターに行くと受付のお姉さん(キツネ耳の半獣)にこう言われた。

「あれ? お連れ様はご一緒じゃないんですね」

…忘れてたし。色々。




部屋に置いてあった荷物からガサゴソと漁ってお目当てのもの一式を取り出す。

外を見ればやや白っぽく見えるので霧が出始めたんだろう。

「まぁもうすぐ、ってトコロかな」

やけに響いた声を無視してストックしてある水を感覚で適当な量を沸かそうとする。

電気ポットというのがないので炎の宝珠を利用した小さな簡易コンロが部屋に1つ備えられている。

旅では重宝する今では使い慣れたヤカンを設置し、炎を発生させる。

沸騰、まではいかなくとも人肌以上に温まればいいだろう、2人分のティーカップと陶器製のティーポットに注いで温める。

もう1度水、今度は2人分を火にかける。

これは沸騰直前まで温める。 

ポコポコと浮き上がる泡が5円玉程度になったらそれが目安で、加熱中に温めたティーポットのお湯を捨て茶葉をセットしておく。 確か1人1杯だったかな?

お湯の温度が変わらないうちにポットに高さで勢いとつけて注ぎ、茶葉を踊らす。

注ぎ終わったらタオルを巻きつけて保温しつつ蒸らす。

茶葉は大きいものだったのでいつもより1~2分長く蒸らす。

1式の中から砂時計を取り出し、ひっくり返す。

その間に砂糖やミルクを準備しておき、砂が落ちきる少し前にカップのお湯を捨てる。

「…よし」

砂が下へと完全に移ったのを確認するとタオルを外し、早速注ぐ。

あまり蒸らしても渋くなってしまうから。

ティーポットを揺らしながら、丁寧に注がれたのを均等に。

しっかりと最後の一滴まで耐えつつカップへと落とす。


どこか意識の外で慌しくドタドタ走る音が聞こえた。

それは段々大きくなるような気がした。


ミルクは牛乳ではないもののこの異世界での該当品。

どの動物から絞られたのかは怖かったので聞けなかったが牛乳より濃厚で甘く、ミルクティーのミルクとして扱うのなら此方の方が個人的に好みなんだとか。

誰の好み? そんなのはわかりきっている、キツネさんのだ。


音が部屋の前で止んだ。


残念ながらここにある食べ物といえば旅の食料で、せっかくの『紅茶』に添えられるような菓子はない。

一応菓子といえば私の買ったクコの実の飴があるがこれでは駄目だろう。

おそらく走って乱れた身嗜みを整えているのだろう、彼が1番持っている可能性が高い。

なくても霧の中にいて濡れて冷めた体を温めるのに丁度いい『ミルクティー』を用意した。

持っているであろうクッキーは任せてしまおう。


ガチャ。


「…小鳥さん」

服装はちゃんとしているのに真ん中分けの黒髪が乱れている。

私は冷めてしまうのを避けるため入れずにいたミルクの瓶を持ちながら席に案内した。

「ほらキツネさん早く座って。 折角淹れたんだから、お願いしますよ」

席についたと同時にティーカップの隣にミルクを置く。

まだ湯気の立つ『紅茶』の香りを1度嗅いだキツネさんはミルクを入れ『ミルクティー』に。

そしてゆっくりと1口。


「…色々と改善すべきところがありますが……まぁ今は楽しみましょう」


テーブルの上にコトンとクッキーの入った袋が置かれた。







↓おまけ とある日の火守人の回想~勇者アイザワただ今Lv42です~

「大丈夫か?」

そうアイザワが問えばコクンとしっかりと頷いた。

「…無理しなくてもいいからな。 しっかり休んどけ」

意思表示の動作はちゃんとしたものの目を合わしていないし顔色は青白い。

大丈夫。その返事は明らかにうそだった。

けれどアイザワは隣に腰掛けたまま火の番を続けた。


何もできない。

それが実によく実感できた。

結局自分は足手纏いでしかない、使えるのは「勇者」であるというだけ。


「…」


何で俺は「勇者」としてこの世界に召喚されたんだろう?

気を抜くとすぐに浮かんできてしまう疑問。

召喚されたあの日から今まで。

数えるのも放棄してしまったその疑問が焚き火の向こうにちらつく。

あぁ鬱陶しいと思うがなかったことには出来ない。

だって。


四六時中「勇者」でなければならない。

母親にご飯だよーと声をかけられたから一旦ゲームをリセット出来る

筈が、ない。

起きてもそれまでいた祖父母の家のソレじゃない。

「重さ」を感じる剣が本物であると、現実であると俺の意思を

無視して伝える。

何で画面越しの現実でいさせてくれない?

俺が「光」属性だから?

…そんなの知るか。


こんな俺をフランが知ったらどうするだろう?

俺を消して新しい勇者を召喚するのかな?

カトリーヌだったら何言ってんのよってぶん殴るのかな?

ケルヴィンだったら一応励ましてくれるのかな?


沈んでいく思考と意識にぼんやりとしながらパチパチと鳴る

火を見つめる。

その時。

コテン、と隣から温かい体温が転がってきた。

「やっぱ疲れているじゃないか…」

その温かさとは反してまるで気絶したかのような寝顔。

「睡眠」という安らぎが一切ない、無表情。


こんな外じゃなくて荷車内に連れて行ったほうが良いんだ

ろうけど、しない。

せめてこの温かい体温だけは失いたくなかった。ただそう、漠然に。


火の中に積み上げられた枝の1つが崩れる。


漠然とした思いなのか願いなのかハッキリしないままその温かい

体温を自分の懐に移動し、寄りかからせる。

それにより行動可能範囲が増えた俺は焚き火に枝を足し、また静かに

火を見つめた。

このまま朝を迎えよう、そう決めた時に火の向かいに2本の脚が視界に入る。


「お邪魔しますよ」


夜のソラに凛と流れるような澄んだ声が聞こえた。ピキアートか。

僅かに顔を上げれば肌に奔る鱗のせいでいつも青白い肌が焚き火のオカゲで

赤く見える。

「どうしたんだ? 火番でもないし、今日はとくに疲れているんだろ?」

確かケルヴィンから聞いた。 

俺たちが捜索している時に待機していたピキアートたちが襲撃されたって。

待機組にピキアートしか戦えるヒトがいなかったし、かなりの人数で激しい戦闘が

あった…までしか知らない。

アジュラから派遣された2人のうち1人であるフェオマギ・ルト・ピキアートという

線の細く少し儚げな雰囲気のある青年はティンガのように腕っ節が強いわけではない。

襲撃に気付いて俺たちが駆けつけた時には満身創痍といった感じだった。

フランが「無茶しやがって」と文句を言いながら治癒魔術を行使していたし。

「心配してくれてありがとうございます。 けれど僕は日没前から休ませてもらい

 ましたし…正直言うと寝過ぎて目が冴えてしまったんです」


腰に剣があるのでちょこっと顔を出しに来たわけでもないらしい。

「けれどフランが治癒魔術で治して休んだからといってももう大丈夫ってことは

 ないだろ?」

ここはゲームなんかじゃない、現実リアルなのだ。

「フフ…ならこうしましょうか。 リハビリ、ということで」

「…そんな様子なら大丈夫そうだな」

パッと見元気そうだがよく見れば包帯が体のあちこちに巻かれている。

けれどピキアートが譲りそうもないので俺が折れることに。


「…」

「…」


火を見つめる。

絶え間なく送られる熱に意識が遠のきそうになるが、ふとあの時はこの真逆で

冷たく幻想的だったな、とぼんやりした頭で考える。

あの時とは…そう、俺が「勇者」として召換された時だ。



水そのものが淡く発光しているようで、建物内だというのに床一面水浸しの中俺は

「勇者」として立ち尽くしていた。

最初は何が何だかわからなかった。

お盆だったので祖父母の家に家族で遊びに行き、その裏山を1人で探検してたのだ。

年に2回ほどくるココは周囲が山ばかりで同年代の親戚が居ないので必然的に1人な

俺は毎回こうして近くを探検して時間を潰していたのだ。

たまに叔父が付き合ってくれてアレコレ豆知識を教えてくれるのだがその叔父も

家で親父と一緒に飲んで酔っ払っているんだろう。

なのでいつも通り「探検してくる」と言って裏山に来たわけだが何を思ったのか

奥に進み過ぎてしまい腹の音で引き返すことに。

そんな時だった、踏み出した足がゴポッと水に突っ込み、そのまま前のめりに沈んだのは。

慌てて起き上がるとそこはオルブライト王国の「水晶の間」だったのだ。


小説によくそういう設定のがあるのは知っていたしマルっきり西洋人なヒトたちが

悠長な日本語を話しているし…何より「そうであったらイイな」と思っていた自分が

いたのだから「勇者」という言葉に食いついたのだ。


ソコから先は早送りだ。

というより濃密過ぎて走らなければ進めない。

『光属性』の『勇者』として召換された俺はこれからこの世界に現れる魔王を

倒さなければならない。 

そして魔王の心臓、核となるモノを持ち帰らなければ現実世界には帰れない。

コロスための知識、技術をトコトン詰め込まれ旅は始まった。

震えたのは最初だけであとは…慣れてしまった。

だってそうしなければ生きていけなかったし、『勇者』でいるにはそうしなければ

いけなかったのだ。


ジャラララッ!


「…何してんだピキアート」

不意な大きな音にはっとする。

顔を上げればピキアートがたくさんの細かい白い石を手前にばら撒いていた。

「占いですよ」

その中から9粒をヒョイと拾うと今度は火の中へ放り投げる。

「占い、なのか?」

見たことも無い占い方法に興味というより疑心で注目する。

そんな俺に他の石を袋に戻しながらピキアートは説明してくれた。

「僕たち『ピキアート』は占いが得意でしてね、これはただ一番近い未来を

 教えてくれるんです。 まぁ旅の祈願程度のものですね」

「へぇ…」

するとピキアートは火に手を差し伸べるように近づけると、聞き取れなかったが

何かを呟いた。 すると手から紫の砂粒程度の光が溢れ、合計9本の光の直線が

糸が垂れるように火の中へ。

そして釣り上げるように上に引くと紫色の糸の先には石が。

「…6個?」

ただしその内の3本には何もついていない。

釣り上げられた石を見てみると火の中に置かれたというのに真っ白のままで、多少

汚れが見受けられるがそれだけだ。

「…」

しばらく無言でその石を見つめていたピキアートは軽く手を振るって砂粒の光を散らせ

落ちていく石をもう片方の手で受け止めると静かに口を開いた。


「僕たちはこの旅で3人、失うことになります」


俺は無意識に腕の中で眠る少女を強く抱き締めた。


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