異世界編 その11 『元パーティー:エルフの巫女さん』
*今回は時間が前後交互に入り混じっている書き方をしています。
大変読みにくい、理解し難い等あると思いますが一番コレがしっくりきたので、ご理解をお願いします。
ストン、と私が彼女の隣に腰をかけたトコロで始まる。
「…じゃあ落ち着いたところだし、自己紹介がまだだったよね?
私は『オルブライト王国 国家図書庫管理司書長』の小鳥。
アナタはどちらさん?」
「私はエルフの巫女。 ヴィフィールの里に住まうエルフの民と『自然』を繋ぎ、互いの
『幸福』を願う者…名前は巫女になった時に無くしたわ。 だからごめんなさいね、
自己紹介がこんなで」
「まぁそれなら仕方ないでしょう」
なら「エルフの巫女さん」とでも呼ぶことにして。
で。
それからヴィフィールの里に訪れた理由や勇者アイザワについて聞いて回っている
ことを巫女さんに言うと、彼女はとても興味深そうに身を乗り出した。
「私がそのインタビューの第一号? …大当たりね。
だって私、アイザワの旅に加わったんですもの、ほんの少しだけだったけれど」
なんですと。
お椀型だということがわかったヴィフィールの里。
その底である広場で私は彼女と出会い、興味津々といったその瞳に見つめられていた。
彼女が何をしたいかはそれですぐにわかった。
けれどそばにファンタジーな池があるのを思い出し私が「魔力拒絶症」であるから場所を
変えて欲しい、と頼めばガイド付きで案内されることになった。
「そう、ならちょっと歩くけどついてきて」
歩く道は緩やかな坂道で。
気が付くと広場全体が見下ろせる程度の高さまで来ていて、さらに気が付く。
「建物と木が同化している…?」
人工物である家と木の境目がない。
見たことも無い不思議な光景に思わず足を止めた。
「ふふっ…それこそ長年掛けて築いたエルフの魔術技術。 細かく説明してあげたいけど、
今は進みましょ。 もうすぐ到着だから」
さぁ行きましょ、と彼女は私を促す。
足元を見たら細い木の根が絡み合って出来た道だった。
そしてエルフの巫女さんが語る。
手の中にある『紅茶』が冷めてしまうくらい長く語ってくれたその話を忘れないように、途中から
冷めた『紅茶』をちゃんと飲み干してから片付ける。 すぐにベルトから紙とペンを取り出した。
その行動に気が付かないくらいに巫女さんは熱く語ってくれているけど、私は『勇者アイザワ』
の事を書くのであって彼女がメインではない。
なので紙に書くのはその『必要』な事だけ。
それからしばらく歩いて、太い枝にリボンが括り付けられている…ただそれだけの場所で
彼女は立ち止まった。
「ココは私の特等席なの。 お茶があるようだし、夜のお茶会しながらお話ししましょ!」
「はぁ……」
お茶というのは私の水筒だろう。視線がそれに向いていたし。
けれど。
「木の根の地面だけど、ココに座るの?」
ベンチもないし高台にあるような手すりもない。
ただ道がぷつんと途切れて、リボンのついた太い枝がぴょこんと空に突き出ているだけ。
地面が土じゃないからそれほど汚れそうにもないけどそこに座り込んでお茶会は…。
「ならコッチでしましょうか。 ―祝福の■よ、其の一翼の恩恵を我に―」
突然目の前にいたエルフの少女がふわっと浮き上がり、突き出てる太い枝に飛んだ。
…魔術だな、絶対に。
っていうか今初めて魔術を間近で見た。
詠唱の一部聞こえなかったし「飛ぶ」なんて風だとは思うけど目に見えなかったし。
ちょっと軽くファンタジーの目撃に思考が飛びかけてしまう。
あ、久しぶり脳内キツネさん。でも宥めなんていらないから。
「あら私が運んだ方が良い?」
「だ、大丈夫です!」
エルフの少女の声に現実に戻ってきた。
いやー危ない…けれどどうしようか。
私、「飛ぶ」なんてファンタジー出来ないし。
でも咄嗟に大丈夫って言っちゃったしな…。
目測で途切れた地面と少女のいる枝までを測る。
…まあ行けるでしょう。
「いっきまーす。…起動」
軽く助走をつけて、「跳ぶ」。
「じゃあ確認だけど、勇者アイザワ一行がヴィフィールの里に到着と同時刻にエルフ誘拐
事件が発生。 勇者一行のオカゲで誘拐されたエルフの民は無事救出、巫女さんは
この誘拐事件の被害者の1人だった、と」
「えぇ犯人は背が小さかったし魔術を放っていないことからケヲス人と断定された…昨日
アイザワに聞いたけど、どうやらケヲス人の盗賊の仕業みたいね。 アイザワも詳しくは
知らないようだったからフランフォルグ様に聞くと良いわ」
ふむふむ。
エルフ誘拐事件の経緯や調べる事を書く…あ、ここはこの世界の文字で。
だって巫女さんに丸見えなトコで日本語使うわけにもいかないし。
良し、書き終わったので、次へ。
「巫女さんは勇者一行の元メンバーってことでいいんだよね?」
さっき言っていたけれど、一応の確認。
「そうよ。 何?次は一緒に旅に出ていたときのことかしら?」
「ソレだね。 あ、でも大体で構わないです。 もうこんな時間ですし」
偶然こうしてインタビュー出来てるけど、明日正式に長老さん通して対談する場を設けれて
キツネさんと一緒に細かいことまで聞けば良いだろう。
「わかったわ」
驚くエルフの少女の隣に掴んだ枝で逆上がりをして、腰掛ける。
「あ、あなた魔術できないのならそう言いなさいよ! びっくりしたじゃない!」
その途端に詰め寄る彼女に手首の魔術道具を見せながら。
「コレがありましたし、できるかなーって」
身体能力を上げるんです、と説明すると納得できていないようだけど理解はしてくれたようで。
「はぁ…そういえば『魔力拒絶症』だって言ってたわね…なら驚いたのも出来ると思い
込んでいたのも私の落ち度。 ごめんなさい、っていうべきかしら」
「いやいや。 逆に驚かせちゃって悪いなーって感じなので良いです。
それよりも、どうぞ。 温かいですよ」
取り合えず、まずはお茶をどうぞ。
「私がアイザワ達の旅に加わるのをお祖父ちゃん…長老はすごく反対したわ。
それはそうよね、私はエルフの『巫女』。 魔王討伐という命を落とすかもしれない旅に
付いて行こうなんて言うんですもの」
「けれど振り切って旅に加わった」
「えぇ。 今思えば孫を思う気持ちもあっただろうし『巫女』を失う可能性を考えたかもしれない
けど…エルフの里から出た事のない私がアイザワ達のお荷物になるってお祖父ちゃんは
判断したんだって」
差し出されたカップに温かい『紅茶』を注ぐ。
「そしてそれは実際、現実になっちゃった」
私はボールペンを持つ手を止めて、俯く彼女を見た。
巫女さんは『紅茶』に映る自分を通して思い返す過去を見ているんだろう。
「怖かったわ…私は魔術を『幸福』のためにしか使ったことがなくてね、飛行獣の上で
アイザワにしがみ付くしかなかったの。 そして迫り来る黒い魔物達にアイザワの剣と
ケルヴィン様の飛行獣が犠牲となった…カトリーヌ様もフランフォルグ様も一生懸命
戦ってくださったけど、取り乱した私に飛行獣も感化されて不安定だったのよ。
アイザワにもお二方にも、ケルヴィン様には謝っても謝りきれない事を私はしでかして
しまった……」
語ってくれた彼女に、私は同情することもなくこう言った。
「それで?」
夜10時前。
現実世界と同じタイプの懐中時計はチェーンでベルトと繋がっていて、時刻を確認して仕舞う。
巫女さんの話は書き終わっていて、白紙だった紙には『物語』が断片的に綴られている。
「それじゃあもう夜遅くなっちゃいましたし、詳しくは明日正式にお話ししましょう」
起動しっぱなしの魔術道具の力を借りて木の根の地面に降りる。
巫女さんは木に腰掛けたまま、もう少しここで里を眺めるようだ。
「お待ちしているわ、管理司書長さん」
「お待ちしててくださいな、巫女さん」
振り返ることなく、ちゃんと覚えている宿への道を歩く。
「切断!」
地面が土に戻って転がる小石を強化された脚で蹴ってしまって、物凄い勢いで飛んでいく。
慌てて回路を落として飛んでいった小石がどこかぶつかったりしていないか飛んでいった
先を確認し、どうやらどこも当たっていないようで安心する。
宿に着いた時には10時を少し回っていた。
もしかしたらキツネさんが戻っていてすでに寝ているかもしれないしそうじゃないかもしれない。
もしかしたらキツネさんは戻っていなくてまだ長老さんのお話しに付き合ってあげているのかもしれない。
まぁどれにしたって小言の一つ二つは当たり前だ。
でもまぁ…私だって巫女さんとお話しして本来「散歩」の予定が立派に仕事をこなしてしまった
から受け流すのだって許されて良いもんでしょう。
カチャリ。
鍵を開け、中に入る。
明かりが点いているからキツネさんはどうやら戻っているし起きてもいるらしい。
一体あのエンドレス会話にどうピリオドを打ったか気になるが、その前に小言。
んーでもなぁ…仕方ない、メンド臭いから小言は消しちゃおうか。
一番広いリビング的な部屋に入ると、やはりキツネさんがいた。
「お帰りなさいキツネさん」
「ただいまです…って逆じゃないですか小鳥さん」
『紅茶』を淹れたらしい部屋にはイイ香りが漂っている。
「いやーあのエンドレスからの生還的な意味で?」
「…そうですか」
空になった水筒をテーブルに置く。
「で、どちらに行かれてたんです? 私よりも数時間先に退室したというのに」
…結構根に持っているらしい。やっぱり。
「私的には『散歩』のつもりだったんですけど、『お仕事』しちゃいました」
キツネさんに向かい合うカタチで座り、ベルトのポケットから断片的に綴られている
『物語』の用紙をテーブルの上に置く。
どうやらキツネさんも異世界の文字は読めるようで、『物語』を目で読む。
「あぁ、そうだキツネさん」
書かれた『物語』から目を離さないキツネさんを見てこれで小言は消えた、とは思ったけど
念には念を入れて。
「次の目的地、『オルブライト王国 首都アズライト』らしいですよ」
よし、これで小言は消えた。
↓以下オマケ勇者アイザワ一行サイド
『アイザワ』という響きは聞いたことがなくて、不思議な感じだった。
それで聞いてみると彼は「異世界の人間」で、『アイザワ』というのは彼の住む国特有の
名前らしい。
そうなんだ、しか聞いたクセにそうとしか思えなかったけれど私はソレが羨ましかった。
お祖父ちゃん…長老から『巫女』として紹介されて『アイザワ』達の前に立つ。
皇子で最強の魔術師のフランフォルグ様。
騎士のケルヴィン様。
数少ない女性騎士のカトリーヌ様。
そして異世界の『光』の勇者である『アイザワ』。
羨ましい羨ましい。
『全て』を恵まれている私はすぐに行動に移す。
それは別に意識してとかでなく、不思議と動いてしまったのだ。『全て』が。
まず言葉を交わし、そしたら笑顔が零れて、思わず手を引いた。
そして笑い合って、話し合って、顔を見合わせた。
不思議だわ。
そう言った私に『アイザワ』は「あぁそうかも」と頷いてくれた。
『不思議だわ』
ココロの内に留めた言葉はそのまんまで。
『アイザワ』がカトリーヌ様に訓練されていたその日。
本当なら彼らはこの里からすでに旅立っているらしい。
まぁ被害者である私にしては淡白な感じだけど、「仕方ない」としか思えない。
フランフォルグ様はその先日の事件について忙しいようで、ケルヴィン様もそのお手伝いを
しているんだとか。
私はカトリーヌ様から逃げてきた『アイザワ』を連れて、お気に入りの場所に案内した。
お母様からもらったリボンは捨て切れなくて、隠すようにけれど私だけが感じられるように
結んだリボン。
ココでいいという『アイザワ』に私は精霊たちにお願いして『翼』を貸してあげた。
大きな悲鳴に誰か来ないかと心配したけど、大丈夫だったようだ。
見下ろせる里を『アイザワ』に自慢して、褒めてくれた。
抱きつきたくなったけれど私のためにできた里に申し訳なくて堪える。
けれど歓喜する『私』は抑えられなくて言った。
「私も『アイザワ』の旅についていっても良いかしら?」
『アイザワ』にとってこの世界は『異世界』。
私にとって里以外の場所は『異世界』。
未知なる世界に二人で空想して楽しんだ。
手を握って歩むその世界はどんな世界なんだろう?
並んで歩くその世界はどんな世界なんだろう?
見知らぬ場所で見上げる空はどんな空なんだろう?
すでに頭の中で共に旅をする私に『アイザワ』が言った。
「じゃあ何て呼んだらいい?」
私は『巫女』、名は無いの。
「でも『巫女』って役職みたいなもんだろ? それで呼ぶのもなぁ…」
別に私はソレで構わないわよ。
「だって、俺たち『仲間』になんだ。 『仲間』を役職名でなんか呼べないよ」
『仲間』。 初めて言われた言葉にドキンとココロが音を立てる。
私は『私』を抑えきるなんて、できない。
「なら……『アイザワ』が決めて。 『仲間』の『私』に名前をつけて!!」