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異世界編 その10 『それで良いんだよ』

エルフたちの住まう“ヴィフィールの里”。

属籍はオルブライト王国となっているが閉鎖気味で必要以上の干渉を嫌う。

近年はケヲス自治国と霊珠の取引が盛んで、エルフの作る防具・武器は高品質だと

有名である。


……とまぁ図書庫からの知識はこんなもんか。

出発前日に読み返した資料から引き出して、現実逃避をしてました。


「それで我がエルフの誇る先祖伝来の宝剣を勇者サマにお譲りし見事魔王を我が宝剣で倒したのです!あれ少し改良は施されていた気がまぁ些細なことですし大事なのは魔王を討ったのがエルフの宝剣ということなのですよ勇者サマのお力もあるでしょうがやはり竜を討ったという言い伝えがありましてなそれは私のおじいさんのおじさんが婿入りした時に相手側に婿入り道具の一つとして献上した剣なのです私の嫁で先代の巫女からも宝剣には不思議な力が宿っていると言われてましてあれはいつでしたかそう私が…」


ザ・エンドレス。

終りません……。




夕暮れ前。

霧が出る前にエルフの里に入りたかった私とキツネさんは本来なら里から少し離れた所に

着陸し里まで歩いていくつもりだったけど時間的にそうは言ってられなくて。

ラバルに乗ったまま木製の門の近くまで飛び、門番のエルフ2名に槍を突きつけられながら

着陸。

大きな羽と尾でエルフに攻撃しかねないのでキツネさんにラバルを制してもらい、私が

ミレシアン様の用意した身分証明書と訪問の理由を説明した。

そこでやっと槍を降ろしたエルフにキツネさんがラバルでここまで飛んできた理由を

説明し詫びを入れる。

そしたら向こうも納得してくれたようで、獣舎の場所を教えてくれた。


ここまでは良し。

エルフ側の反応も想定内で問題ない。

それでラバルを獣舎に繋げた後、里に一軒だけという宿に行き部屋を借りた。

部屋は大きいのを一つ。

寝室が分かれているしそこともう1人は布団を借りて別室で寝れば良いと決定。

まぁ別に私はキツネさんと一緒の部屋で寝ても問題はないと思うけど。

そして借りた部屋を見て回って落ち着いた頃、訪問客が来た。

正しくはそのお使いの人だったんだけど。

「長老が宜しければ夕食などご一緒にどうですか、とのことですがどうでしょうか?」


今思えば「イエス」の返事が現実逃避の始まりでした。



オルブライト王国の代表として『勇者』として旅に出ているし、一行にはフランフォルグ・クローリストという皇子サマがいたんだから立ち寄ったエルフの里の長である人物と面識あるはず。

今日は取り合えず里の雰囲気を感じて明日にでも訪ねようと思っていたから向こうから来た

のは順番が逆になった程度のことで、すぐにおkの返事をして長老の家に招待された。


「ようこそヴィフィールの里へ、管理司書長殿。 さぁさぁどうぞこちらへ」


エルフというのはベジタリアンなのか野菜中心の料理で。

食事をしながら話しましょう、と席に着く。

で、箸をつけて招待してくれたことの礼とか一通り話した後で本題の勇者アイザワに

ついて聞いた。

そしたらこれだ。


「我が家に宝剣が納められた日それはもうすごい美しい剣身でして普段は無口な父がそれで酒を飲む姿が印象的でした父は大戦時代を国王と共に戦ったエルフの闘神と呼ばれたほどの強者でしてそんな父の息子である私も若い頃はやんちゃで各地を旅したこともありまして当時は魔物が今ほど活発では無かったですから相手はヒトである場合が多く空しい時代でしたなそんな中…」


エルフの長老さんの話し相手になっているのは専らってかキツネさんだけなんだけど。

喫茶店の店員だけなだけあって話し相手になるのは職業柄というか。

私は最初の必要なところのみ頭に叩き込んで、それからは窓の外を眺めたり…もう夜で

まったく見えないけど。

苦し紛れにゆっくりと現実世界の食材と照らし合わせながら食事したり、キツネさんの

有効活用を思い返したり。

いい加減ネタがつきそうだ、いや、私の現実逃避のネタの方がね。

仕方ない、強制撤退としますか。



「あれは盛大な祭りでした大陸中の腕に覚えのある冒険者から傭兵確か騎士なども参加してまして私も父に強制的に参加させられ「お暇します」になりましたが今となっては遊び呆ける私に渇を入れてくれたのでしょうまぁ結局は三回戦で若い獣人に負けてしまいましたがあれあの獣人によく似ている気もするが気のせいですねきっと決勝は私に勝った獣人とケヲスの騎士で素晴らしい戦いでしたがそれよりすごかったのがエキシビジョンバトルの現ケヲス国王と若きオルブライト国王の戦いでして…」


…何だがすごい話をしているっぽいがキツネさんが聞いているようだし。

後々有効活用としてその時聞ければいいや。

さて、と。

長老さんには一言言ったし、行きますか。


立ち上がりキツネさんの方を見ると顔に「何してんですか」と書いてある。

どうやら私の言葉は聞きとれていなかった様子。

目を瞑って思い返しながら話続ける長老さんにをちらっと見てからキツネさんに視線を戻す。

理解はできたようだけど戸惑っているようで。珍しい。

そんなキツネさんに口パクで「お先に。」と言って、私は長老さんのお宅をあとにした。



まずはそうだな…取り合えず宿に向かおうか。


里を探索する?懐に多少のお金はあるけどもう夜だよ?

それにエンドレストークのオカゲでどれくらい時間がたったかわからないんだよね。

何をするにしても宿に一度戻ってから考えよう。

明日はキツネさんの愚痴で始まるんだろうし、聞き流せる気力を残しておかないといけないし。

擦れ違いの首都アズライトに凱旋帰国した勇者アイザワについてはその後、だね。



夜7時。

思ってたより、いやまぁこんなもんか。


宿に到着し自分の部屋に入る。

チェックインの時に布団を一つ頼んでおいたのでそれが部屋に置いてあった。

それ以外に触られている形跡もないし王城に勤務する者で任務の為に訪れていることは

宿に伝えてはいるので何かあってたら互いに困る結果になるんだけどね。

あぁそんなことは一々どうでもいいか。

7時。

シャワー浴びるにしても普段10時過ぎの私には早過ぎる気がするし、じゃあ何するか。


ヒマ潰しになる物を探して部屋を探索する。

そして途中ふと窓の外の景色が目に入って、立ち止まる。


森の中にあるエルフの里、“ヴィフィールの里”。

夜空の下に森の中という場所からより一層暗闇に包まれるハズのこの里はあれも魔術道具マジックアイテムの類なのか街灯なんかがぼんやりと綺麗に輝いていて…まるで現実世界と同じような明るさ。


「…そうだ」


思いついたらキツネさんのいないうちに行動してしまえ。

テーブルに置いていた私の水筒(人工回路が刻まれていて中身の温度が変わりにくい)を

持って再度外へ。



私は地図を見ることは出来るが指でなぞった道順通りに行けたことがない。

初めて行く場所にしても出発地点とゴール地点を頭に入れといて、あとは感覚で歩いてしまう。

勿論それで迷ったこともあるし時間が大分かかってしまったこともある。

けれどゴール地点に到着した時に振り返るとそこに後悔はなかった。



感覚を頼りに窓から見えた場所に到着する。

「やっぱりそうだ」

遠くからみた街灯を装飾がわかるほど近くまで。 この広場を中心にそれが均等に

並んでいて。

そんな周囲を見渡して確信する。

「この里、この広場が底のお椀みたいなカタチなんだ」


そもそも里に入った時もやけに坂道だな、と思った。

けれど宿から長老さんのお宅まではフツーの道。

感覚で歩く私はそこで「あれ?」と感じたけどまぁ初めて来た場所だし気にすることでもない。

それ以上考えることを止めていた。


そしてまた考えたのは宿の窓から外を見て。

街灯とか今いる中心に池がある広場の全体が見える程度に見下ろせて、面白い景色だなって。 でも旅の出発前に地図をみたけどオルブライト王国からヴィフィールの里までほとんどが森で山があるとかなかったし、土地の高低について何にも書かれていなかった。

国家図書庫にある地図だから間違いなんてない筈だし…つまり人工的なモノかそれ以外の

理由があるのか、と。

私は別にその理由とかは知りたくもなかったけど、ヒマだったこともあって確かめることに

したのだ。

水筒を持って。



一周ぐるっと里の構造を確認をして、窓から見えた池に近づく。

思ってたよりも小さいようで、直径5mほどだろうか。

細かく装飾が施された池の淵からは中の水がいっぱいだけど不思議と溢れことはなくて。

湧き出ている様子はないから池じゃなくて水溜りかと思ったけど、それにしては水が綺麗。

顔を近づけて底を覗くと白い砂がぶくぶくと泡がでてるような感じに動いている。

「・・・なんというファンタジー・・・」

水が湧き続けているのに溢れることのない池。


もしかしたらこれも何かしらの魔術によるものかもしれない。

そう思うと王城の水晶の間が頭に浮かんで、自分の「魔力拒絶症」に至る。

「また倒れたら…!」

キツネさんに笑顔で怒られる!!

慌てて顔を上げ、不思議な池から離れようと体を反転した。

けれどそこから離れることはなかった…だって。



「こ、こんばんは…?」

「はぁい。 こんばんは」



じっーとエルフの少女が私を見つめていたんだから。






↓オマケ勇者アイザワサイド


勇者アイザワは召喚されて1カ月間、第一騎士団から訓練を受け召喚時の

肉体・運動神経強化と魔術を身に付け扱いこなせるよう訓練をした。

そして騎士団員2名と皇子にして現役魔術師の中でトップレベルの魔術師が

同行者となり、旅立つことになった。 

しかしそのパーティーはレベル20ぐらいの勇者にレベル50が2名

レベル70が1名と非常にレベルバランスが悪く、勇者アイザワにとって

スパルタ教官が2名もいることで涙が止まらない冒険になっていた。


そして今だってそうだ。


旅は同行者ケルヴィンが操る飛行獣に乗って魔獣に襲われることなく

気楽になるかと思えばそうもいかない。

むしろ魔獣襲ってくれって思ったくらいだ。

そんなアイザワの考えを呼んだ唯一の同情者ケルヴィンは手綱を握りながら

「たぶん今魔獣が出てもクローリスト様が瞬殺だと思う」

と、ハハハハ。

だてにレベル70ってわけじゃないもんな、諦めのため息をするアイザワ。


「さぁ今ので大分魔力が薄れたからもう一度作り直しだな」

「うげぇー…」

「あんたが下らない思考をするからよ。 顔に書いてあるのよ、全部」


手の平に光の魔力を集圧して光球のカタチをしたソレは使い手の意識に

則ってカタチを無とし、前進する飛行獣の後ろへと流れて消える。

それをぼんやり見送ってから手の平を水平にし視線の高さと同じ高さにする。


「―――」

回路を形成し自分の望む現象を言霊にする。

「我に降り注ぐ光よ この手に集い姿を現にせよ ――集圧!」

足を体を頭を顔を腕を伝ってナニかが手の平へと向かう感覚。

決して不快なものでないが自分の目に見えないナニかが薄く剥がれて

コロコロと転がるような…そんな感じ。


手の平に重みを「感覚」として感じ、目を開けてソレを見る。

先ほど消し去る前よりも確かに重い気がする。

今度は失敗しないように他は何も考えないように、ただ見つめる。


そんな現時点で真剣に魔術の練習をこなすアイザワに視線を送りながら

カトリーヌは隣で同じように様子を見るクローリストに言う。

「どう思います? あたしは出来て2分だと思いますが」

他の属性と比べて光の属性魔力は集まりにくく維持するもの通常より神経を使う。

初心者なら集めるだけで、中級なら1分保てれば合格と言うだろう。

けれどアイザワは光の属性しか持たないためそのラインは容易。

そのためカトリーヌは2分を合格ラインとして提示した。


「2分か。まぁ妥当だろうな……ケルヴィン」

「何でしょうか」


飛行獣の操作をしていたケルヴィンは突然話しかけられ、何事かと構える。

「飛行型ではないが前方に魔獣の気配を『風』で読み取った。

 此方に気が付いているようだし攻撃される前にその集団を殲滅する。

 …アイザワの試験となるやらはわからないしどっちでも構わないんだがな」


その時カトリーヌとケルヴィンの二人は同じことを思った。

「鬼か。」と。


そしてクローリストは飛行獣という足場の悪い所に涼しい気な顔で立つと感知した魔獣の

場所を確認し、詠唱を始める。

四大属性と光の付加属性に適性のある魔術師、人類最強の魔術師と称される

クローリストだけが出来る出鱈目で恐ろしく…けれど低級の魔術。


初心者の魔術師というのはまず己の属性色を知り特性を理解することから始まる。

次に言霊を学び世界基盤と自身を回路で結び、『世界を正しく弄る』術を識るのだ。


『水』は流れる その中心の円に集うように

『火』は燃える その一点を灰にせんと

『風』は吹く  その円が世界の全てと思わせて

『地』は固く  その世界が我だと言わんばかりに


クローリストの魔術行使に合わせてケヴィンは飛行獣の速度を落とす。

そして強大な魔力と無数の魔術の『球』にパニック寸前の飛行獣をあやす。


初心者で一個作り出すのが精一杯な『球』を彼はその膨大な魔力と己の所持属性を

生かし、数え切れないほど同時に展開する。

無論こんな芸当上級者のクローリストだからこそできるが魔術そのものは低級であり

複数の属性をもっていれば可能である、というわけで低級魔術に分類される。


「――― 発射シュート 」



カトリーヌは思った。

わざとアイザワの合格ラインである2分内に戦闘を初めてせっかくできた『光』を

消させるばかりかその拡散した光さえも本人の目の前でより強度の『光』を顕現し

それをフィニッシュに盛大に使うとか。

固まるアイザワにコレと同じ程度のを作れとか。


鬼だ、と。



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